利用している駐車場の一角、すみっこの方に小さな花壇が二つある。
これを管理している人はこの駐車場の持ち主のおばちゃんである。
或る日、車を駐車して出ていこうとすると、花壇の方から「〇〇さぁん~」
と私の名前を呼ぶ声がした。
例のおばちゃんが帽子をかぶり、マスクをし、長靴をはいた姿、
言い換えると完全装備の姿で花壇の手入れをしていたのである。
蚊を避けるためなのか、それとも日焼け予防のためなのか、出て
いるのは目だけだった。
私は「誰かと思った」と言って近づく。
花壇の持ち主以外の他人がそこにいるわけはないのだから、
誰だかわからないはずはないのだがそこは社交じれいである。
するとおばちゃんは「かすみ草を持っていきますか?」と言いながら
挟みで刈り取りさらに「これだけだとさみしいから赤いものも入れて
おきますね」と言って百日草を混ぜてくれた。
私は「いつもありがとうございます。きれいです。家内が喜びます」
と、目だけしか見えない宇宙人のようなかっこうをしたおばちゃんに
礼を言って花をいただいて帰ってきたのである。
妻に見せると案の定、わあきれい、と言って受け取っていた。
平凡な日常生活のなかにちいさな喜びはある。
ちいさな、ちいさな幸せがここに。