文学界七月号に村上春樹が新作の短編を三作発表しました。
三篇のうち『チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ』を取り上げてみます。
「僕」は学生の頃、表題の文章を雑誌に発表したことがある、という
書き出しで話が始まります。
バードという愛称を持つ超大物のアルトサックス奏者の話です。
バードはジャズ界から姿を消してから八年後に忽然と現れて驚くべき
新作のアルバムを発表する。バードと一緒に演奏するのはあのアントニオ・
カルロス・ジョビンである。「いったいどこの誰にそのような並み外れた
顔合わせを予測できたろう?」というほど彼の再デビューは衝撃的だった
わけです。
私は専門家ではない。ただのジャズ愛好者に過ぎない。なので実際にこの
ようなアルバムが世のなかに出回ったのかどうか定かではありません。
私の知るかぎりではスタン・ゲッツがカルロス・ジョビンと組んでやった
「イパネバの娘」などというヒット曲はたしかに存在します。
ですから春樹の作品ではスタン・ゲッツがバードに入れ替わったのでは
ないかと勝手に想像しています。
それはともかく彼の創作ではA面一曲目の「コルコヴァド」がいかに
素晴らしい演奏であるかという事が言葉の限りを尽くして描写されて
いる。
例をあげるとこうです。
「まずカルロス・ジョビンがピアノだけで、あの聴きなれたテーマを
静かに演奏する。リズム隊は背後でただ沈黙している。そのメロデイーは
窓辺に腰を下ろして、美しい外の夜景を眺めている少女の眼差しを僕らに
想起させる。」中略。
「そしてそのピアノによるテーマ演奏が終わると、
まるでカーテンの隙間
から夕暮れの淡い影が滑り込むように、バードのアルトの・・・・」
と続くのです。
まさに村上春樹ワールドがここにはあるのです。
他の二篇はまだ読んでいませんが、おいしいごちそうは後に残しておくように
これからのお楽しみとすることにいたします。
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