遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

蒼き狼

2009-11-02 23:34:56 | 読書
出張で関西に行く道中や学会会場と寝屋川の往復でいっぱい時間があるので、金沢で文庫本を買って持っていく必要がありました。それで買ったのが、この本。前から読みたかったんですよ。中国の歴史に全く興味ないんですが、モンゴルに対してはあります。今までの大学生活で出逢ってきた留学生たちの中で、モンゴルからの留学生たちが一番魅力的で興味を持てる人たちだったからです。ドルジバルくんやクルツ君、デルゲルマちゃん、そして、大相撲界で活躍する蒼き狼の末裔たちから僕が感じるのは、「媚のない明るいハングリー精神」。暗くないんですよ。彼らは。

昔、同じ研究室にいたドルジバル君がいうには、チンギス・ハンがユーラシアを支配できたのは土地ではなくて道を支配したからだったそうです。農耕民族でない彼らは農民が土地に執着して『草』を栽培するのを基本的に許していました。あくまでも支配したのは都市と交易路。戦う前に降伏するなら許すが、抵抗するなら男はすべて虐殺し、女は戦利品と一緒に分配。しかし、彼らは信仰は自由にした。支配民に恐怖は植え付けるが、心のよりどころは残してやったようです。宗教に対する寛容さは、我々同様彼らも一神教を信仰していたわけではなかったことが理由なのかもしれませんね。この小説の山場のひとつは万里の長城を越えて中国を攻略するところですが、あまり書き尽くされてる感じがしなかったのが残念でした。
さて、本書の主人公チンギス・ハンですが、支配地が広過ぎていろんな表記や読みがあります。井上靖の小説の中では「成吉思汗」。これはチンギス・ハンの発音に漢字をあてたもの。しかし、今は「ハン」よりも「カン」の方が一般的かもしれません。「ハン」は部族の長に付ける言葉だそうですが、大帝国になってからは皇帝の称号のようになりました。日本でも京都の人は人の名を丁寧に呼ぶ時に「はん」をつけます。よね?長流はん!

我々は常識のように農耕民族の方が狩猟採取で生活する民族よりも進んでいて豊かだと思っていますが、文化人類学では反対の考え方があります。狩猟採取生活、特に肉食文化では摂取カロリーが高く、狩猟のために肉体を鍛えているせいで体格が優れており、定住しないおかげでし尿や廃棄物から自由で疫病のリスクが低く健康的にも恵まれている。実際、同時期の狩猟生活をしていた人間と農耕をしていた人間の骨を分析すると完全に狩猟生活者が勝っているそうな。それに、狩猟採取生活では農耕生活よりも時間に余裕があって、気分転換もしやすいせいか文化芸術的なものも優れているらしい。それじゃ、何故人類は農耕生活に入っていったかというと、人口増加や気候変動による飢餓がきっかけといわれています。人口が増え移動域が狭くなり定住せざるを得なくなり、そこで食料を得るために『草』を栽培しなければならなくなった。農耕で生まれるのは富の偏在と地域間の収奪・・・正しいかどうかわかりませんけど。
ちなみに、ドルジバル君は実際に幼い頃はパオで西モンゴルを移動生活してたそうでして、食事に出された植物を野菜といわず『草』と呼んでました。そんなもんは馬や羊が食うもんだってわけです。もちろん、冗談でですが・・・でも、生まれて初めてロシア(当時ソ連)で肉の横に添えられた付け合わせの野菜を見た時は食べるのを躊躇したそうな。 

もし神風が吹かずに日本が元に支配されたらどうなったでしょうか?・・・まあ、そもそも鎌倉まで侵攻して支配できる陣容ではなかったようですが・・・。中国では元支配以降、魚を食べる文化がすっかりダメになったんですが、日本でそれは可能だったですかね?(笑) 今ごろ我々は羊を食いながら馬乳酒を飲んでたかも。
そういえば、ジンギスカンって美味しいよね。

四日ぶりに酒を口にしました。菊水のワンカップですが、半分しか飲めませんでした。まだ体調不十分。昔からあるワンカップでは定番の銘柄ですが、相変わらず重くてどぎつい造りですな。

本日のお酒:菊水本醸造 生原酒ふなぐち
コメント (2)
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