遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

生命は揺らぐもの

2012-12-15 21:27:35 | BIONEWS
生命の設計図であるゲノムDNAは細胞の中で小刻みに動いていた -遺伝研など(マイナビニュース) - goo ニュース
この記事で驚いたのは、論文著者達のフルネームと所属をダラダラ全部書き並べたところであります。おそらく、取材を受けた人が自分だけの業績ではなく全員の業績として書いてくれとか言ったんじゃないだろうか・・・挙げられた人で知ってるのは、今本先生だけだなぁ。彼女は優れた生化学者であり核構造と物質の核細胞質間の輸送において指折りの専門家であります。

さて、本題。
細胞核の中にDNAが入ってるのだけども、それはヌクレオソームというタンパク質の固まりに束ねられておりまして、分裂期には凝縮して染色体って呼ばれるものになっております・・・ちょっと不正確か・・・ま、いいか。そもそもそのパーッケージのされ方は、発現が活発なところとそうでないところがそれぞれeuchromachinとheterochromatinにわかれてて、きっと規則性があって小さな細胞核の中に詰め込まれてる。おそらく規則正しいらせん状の階層構造が構成されててそれを解き明かせば、細胞の分化や適応やいろんなことがわかるんじゃないかという・・・夢と希望と思い込みがあったわけですな。ところが、近年、けっこう染色体DNAは適当にパッケージされてますって研究が発表されて、今日紹介する記事に至っては、それを生きた細胞を使ってライブ映像で確認し、定説のような規則正しく折り畳まれたクロマチン線維は存在せず、ヌクレオソーム線維が不規則に(かなりいい加減な状態で)細胞内に収められていることを報告しちまった。

分裂期の染色体はヌクレオソーム線維が高度に凝縮し、とても混み合っている環境であるにもかかわらず、そこでは核内と同じようにタンパク質が比較的自由に動いているそうです。ヌクレオソームの揺らぎが生きた細胞の中で実際に起こっているのかどうかを確かめるために、ヌクレオソームに「蛍光を発するタンパク質(GFP)」を付け、それを動物細胞内で発現させ蛍光顕微鏡を用いた単分子イメージングにより、生きた細胞の中での1個1個のヌクレオソームの揺らぎの観察に成功した。解析したところ、個々のヌクレオソームが30 msで50 ~ 60 nm動くことが確認され、ヌクレオソームが実際に揺らいでいることが判明した。また、その揺らぎは、細胞の核、染色体内においてもほとんど同じであったという。満員電車内でも1人ひとりが少しずつ動けば、奥の乗客が駅に降りられるのによく似ていると研究グループでは説明しています。
昔々、私も核内Gタンパク質を研究していた時期がありました(完全にやめたつもりはないが)。ただ僕はその当時、核内Gタンパク質の主な機能だと言われていた物質の核細胞質間の輸送にまーったく興味がありませんでした。そこんとこは、おつきあい程度にやってただけ。核内Gタンパク質は核内タンパク質の能動的な核内配置の移動に関わっているはずだと思っていました・・・今も思ってる。彼らはいずれそういうことも解明するんだろうな。

ちょっと違う研究ですが、植物を極限状況(使った条件は『高温』)でしばらく生育させるとヘテロクロマチン構造が崩れてトランスポゾンの転移が活性化し、ゲノム上に変異をバンバン誘導するとのこと(分子生物学会で聴いてきた)。その結果、その極限状況で生き残れる植物が選択されてくるのです。生命は自らのあり方のよりどころとなる遺伝子の配列もクロマチン構造も実はさっさと変化させて環境に適応した子孫を生み出すのです。そういえば、利根川先生の発見した免疫グロブリンのクラススイッチングも、抗原に対応させるためにゲノムDNA配列を自ら組み替えるシステムでした。

生命現象にリーズナブルなものなんてなくて、揺らぎがあり、遊びがあり、無駄があります。それが適応を許し、進化を可能にしたのでしょう。何でもかんでもきっちり無駄がなく動かず変わらず合目的性があるという思いが生物学を間違えさせる原因になります。生命の作り出す混沌とそのシステムの理不尽さが生み出す驚きを楽しめないといけないのです。

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コメント
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