舞台、名古屋某所の老舗の味噌煮込みうどん店の奥座敷。
時折、障子向こうの杉の廊下を和服姿の仲居さんがせわしげに小走りしていく。
登場人物、あかねさん、CHORYOMAN さん、偽タクさん、僕マイケルの4名。
僕は某競馬雑誌の記者であり、この会のインタヴューアーと司会を兼任している。
机上のICレコーダーの録音スイッチをONにして、おもむろに会がはじまる…。
M「さて、皆さん、本日はご多忙ななか、ようこそいらっしゃいました」
あ「どうも(ゆっくりと会釈)」
C「どうも(折り目正しい会釈)」
偽「ども(慌てて頭下げて)」
M「本日のテーマはむろん話題沸騰のRK名古屋裁判についてであり、各界の専門の先生方に、それぞれのアングルからの忌憚なき意見と予測とを披露していただこうという本誌ならではの企画です。議論が白熱することも重々予想されますが、なに、ウチの企画はむしろそちらの白熱議論が売りになってもいますから、先生方は遠慮などなさらずに、大胆なRK予測をがんがん語ってほしいと思っています。それでは今回のRK裁判の仕掛人であるところの CHORYOMAN 先生から、まずはご意見を伺わしてもらいましょうか」
C「どうも。CHORYOMAN です」
M「僕等の雑誌予測としてはリチャコシの今回の勝率1:9と読んでるんですが、先生的にはこの予測率、どう思われますか?」
C「1:9ぅ~!? それはちょっと悪いんだけど、君らの雑誌、勉強不足なんじゃないの?」
M「あ、あ~っ…。思いきり辛口予測したつもりですけど、これでもまだ甘いですかね?」
C「悪いけど甘いですな。そんな…この期に及んでいまさら1:9だなんてね…。ははは。ありえんですよ、そんなのは。今回のリチャコシ裁判の勝率予測は、僕にいわせれば0:10でリチャコシ側の完敗ですな。それ以外の展開は僕は認めません」
偽「傲慢だ、それは…」
M「おや、偽タクさん、発言希望ですか?」
偽「き、希望です…。私の意見は CHORYOMAN 先生とはまったく逆なんでありまして、たしかにリチャード先生が今回の裁判で不利なことは、これは動かしがたい状況だとは思っています。しかし、その原因とするところは、まったくちがう。今回の裁判は、やはりリチャード先生がおっしゃってるように、先生の活動を妨害するためのスラップ訴訟であるという読みを外してはいけないのではないのでしょうか…?」
C「ふん、(ぐいとビールを飲みほした空コップをテーブルにかつんと叩きつけるように置いて)笑止千万!!」
偽「な、なにが笑止千万なんですか…? ど、どんな予測を立てようが、それは各人の自由なんじゃないですか…?」
M「あの~、彼はこういっておりますが…」
C「ま、ね、偽タクくんがいうどんな意見もいえる自由っていうのは、それは僕も認めてる。しかし、いまここで話題にされている焦点は、あくまでリチャコシ裁判でのリチャコシ側の勝率です。リチャコシが勝つか負けるか? 話題にすべきは本来その一点だけでしょ? これの本質がスラップ訴訟であるかどうとかの、そんな下らない妄想話なんかいまさらいくら並べたってね……」
偽「ふ、不当だ。そ、それに横暴だ! わ、私は、彼の横暴に断固として抗議…」
M「ま、ま、ま、ま、ま、ま、抑えて、抑えてくださ~い。あ。あかね先生、お願いします!」
あ「(配膳された味噌煮込みうどんを味見して)わあ、美味しいわぁ、この味噌煮込みうどん…!」
C「ほんとだ。これ、うまい」
偽「ええ…、ま、まずくはないですね、たしかに…」
あ「偽タクさんでしたっけ? わたしらねえ、悪いけどもともとリチャードさんのいうスラップ訴訟なんていうの、相手にもしていないんですよ。だってねえ、名誉棄損で訴えられたわけでしょう、彼? だったら、訴えられた論拠について反論するのがまず被告としての裁判上の筋なんじゃないですか? つまり、リチャードさんは、自分は名誉棄損なんかした覚えはない、そんなのは原告側の言いがかりであって、まったくの事実無根であると、あの答弁書できちんと弁明すべきだったんですよ。CHORYOMAN 先生が挙げた名誉棄損の実例を、ひとつひとつ取りあげて、それに全部具体的な反論をあげなくちゃいけなかったんです。スラップ訴訟なんて突飛な切り口を海外メディアから拾ってきたアングルは、まあちょっとは面白いかな? とは思うけど、裁判の本質からすると、それって全然今回の事案と無関係じゃないですか? 誰もそないなこと聴いてないんやもん。聴いてるのは、あなたは CHORYOMAN さん、バレバレさんを名誉棄損した事実がありますか?ーーという一点だけ。いうなれば、Yes か No かの二者択一の問題が争われるのが今回の裁判の軸なんです。今回の訴訟がスラップ訴訟であるかどうかなんて、そんなあさってのことは誰も聴いてないし質問してもいないわけ。被告さんが勝手に喚いてるだけ。そんなあさってから湧いてきたような非論理的な反論、裁判官だって取りあげる道理がないじゃないですか。ねっ、第一これ反論にもなってないのとちがいます? それにしても、この味噌煮込みうどん、おいしいわあ…。マイケルさんの雑誌に感謝やわぁ‥‥」
C「そういうこと。偽タク先生、理解できました? あかねさんがいってくれたのなんか、ディベートの初歩段階ですよ。僕等は、名誉棄損の件で被告を訴えた。被告としての筋は、この訴えの事実を覆すことからまず始るんです。スラップ訴訟かどうかなんかいうのは、この裁判の本質とは無関係な、ほとんど言いがかりじみた一種の狂言であるとしか受け取れない。そんなハチャメチャな屁理屈を持ちだしてくるまえに、被告にはやることがまずあるでしょ? てなことを僕等はいいたいわけ。ところが被告リチャコシは、答弁書にひとつもそうした反証の証拠を挙げてこなかった。これは……」
あ「挙げたくても挙げられなかったんでしょうねえ?」
C「そうね。全部が全部事実だったから」
あ「かわいそう…。だから負けを確信して、ほとんどパニックになって、党員たちから見捨てられないために、あんなメチャメチャなスラップ訴訟みたいな誤魔化し狂言をあえて差しこんできたわけか…」
偽「ちょっ…ちょっと待ってよ……。そんな一方的な決めつけってない……」
あ「あら? 心外だわぁ。じゃあ偽タクさんは、どうして被告が名誉棄損に関する反証を挙げなかったと思っていられるの? 名誉棄損が事実無根なら、その事実無根さを証明さえすれば、それで被告は裁判に勝てるはずじゃない? スラップ訴訟だのなんだのいうより、そっちのがずっと勝ちへの早道ってなもんですよ。なんでそんな簡単なことをやらないの? ううん、ひょっとしたらやらないんじゃなくて、やれないのかもね? 名誉棄損がまったく覆しようのない、厳正極まりない事実だから」
偽「………」
C「それより、あかねさん、僕がいちばん心配しているのは……」
あ「裁判敗訴後のリチャード募金のことでしょう?」
C「ビンゴです。まさにそれ! いままでの彼の素行と習性からして、彼、まちがいなくそれをやると思うんだよなあ。僕が危惧してるのもそれ。え~、今回は裏社会の策略にやられ、残念ながら敗訴しました。しかし、このまま済ませるわけにはいかない、裏社会のこんな汚い勝利を我々は認めるわけにはいきません。今度こそ我々が正義の反撃をしなければ!! というわけで皆さん、私リチャードコシミズの戦いのために、募金の協力をお願いします!!! 今度こそ我々は勝つ。いいや、勝たねばならない。朝鮮悪の支配に縛られた人々を解放するために! 党員のなかから勇者よ、出でよ。彼に反訴をしてもらう。私はあとからそれに乗っかります。リチャードコシミズは負けない……とかいう例のショーバイ集金開始のパターンでしょ、恐らく彼がやりたがるのは?」
あ「ええ。彼、絶対にそれやると思うんですよ。彼の本業はなんといっても昔からそっちがわなんですから。ネットのイベントで盛りあげておいて、その陰の曖昧集金でもってザックザックとまる儲け。いつもながらの十八番の手口とはいえ、いかんなあ。そうなったら、わたしたち、この新しい詐欺をまた全力でとめなくちゃいけない。ああ、また仕事が増えるなあ…」
C「楽隠居はなかなかやれそうにないですね?」
あ「ええ、まったく…。せわしないなあ…」
偽「………」
M「それでは話が一段落したところで、そろそろこの会もおひらきにしたいと思うのですが、CHORYOMAN 先生、あかね先生、偽タクさん、なにか異存はありますか?」
C「いや、もう僕は充分喋りましたから」
偽「う、う、う………」
あ「あ。わたし、できたら味噌煮込みうどん、もう一杯食べたいわぁ…」
( えっ!? と一同凍りつく。その状態のまますばやく幕。www )