◆ 謎の覆面作家「シロクマ」さんの小説連載 Vol.2 ◆ 2019-05-13 19:04:20 | リチャードコシミズ シロクマはかく考えつづける。 第二部<腐臭>「これだっ!」彼はこの考えに固執した。 なぜなら、他に手立てが無かったのだ。その頃彼は、破産し、海の見えるマンションも手放し、実家の片隅に家を建ててもらって、住むようになっていた。もう一度会社を立ち上げようと奔走(彼なりに)したが、上手く行かず、仕事も無く、八方塞がりの状態であった。破産したばかりの人間を相手にする者などいるはずも無かった。妻からは、生活費を催促されても、そんなことは知ったことか。お前が働いてなんとかしろ、と言ってはみたものの、家にも居場所が無くなってきた。 またか。 また、居場所が無くなった。 そう、彼の最初の結婚(したのかも不明だが)も同じだった。彼は、こんな風に私に自慢気に話して来たことがあった。「俺は東南アジアへ出張が多かった、若い頃、いつものように手を付けた女を、調子良く、日本に連れてきたものの、暮らすようになれば、やきもちは妬くし、いちいちうるさい。出張から帰れば、まとわりついてくる。居場所が無くなって、いい加減困った時に、今の妻と出会った。素直で、疑うことを知らない、とてもよい子だった。そうそう、この子を利用して、上手く別れることも出来た。 俺がだまされて、勝手に婚姻届け出されたなんて言ったら、信じて、俺の代わりに相手と対決までしてくれた。 手切れ金は必要だったが、親をごまかして出してもらえたし、本当に上手くいった。 女なんて、惚れさせれば何でも言うこと聞くバカなやつらさ。 子供の世話でもなんでもやるからな。金さえ渡しておけばな。」 自分で手を下さなくても、何でも出来るんだと、酒とたばこくさい息で、ニヤニヤ笑いながら話していたものである。彼はまた同じように、自分が手を下さなくても出来る方法を考えていたのだ。それも、今度は他人を利用して。彼には勝算が出来たのだ…。 (次号につづく)ーー小説の醍醐味は、まず状況作りにあります。見え見えの説明じゃない、さりげない日常のあたりまえの風景を積み重ねて、キャラの所作自体で舞台を設定していくこと。簡単なようですが、これを継続していくには、かなりの精神力と持続力が要ります。シロクマさんはそれ持ってますね。今回の展開は一見地味ですが、キャラ内部でなにかが発酵していく気配がむりむりと感じとれます。次号の展開部は恐らく最初のヤマでしょう。編集部一同、かたずを飲んで見守っています。
第二部<腐臭>
「これだっ!」
彼はこの考えに固執した。
なぜなら、他に手立てが無かったのだ。
その頃彼は、破産し、海の見えるマンションも手放し、実家の片隅に家を建ててもらって、住むようになっていた。
もう一度会社を立ち上げようと奔走(彼なりに)したが、上手く行かず、仕事も無く、八方塞がりの状態であった。
破産したばかりの人間を相手にする者などいるはずも無かった。
妻からは、生活費を催促されても、そんなことは知ったことか。お前が働いてなんとかしろ、と言ってはみたものの、家にも居場所が無くなってきた。
またか。
また、居場所が無くなった。
そう、彼の最初の結婚(したのかも不明だが)も同じだった。
彼は、こんな風に私に自慢気に話して来たことがあった。
「俺は東南アジアへ出張が多かった、若い頃、いつものように手を付けた女を、調子良く、日本に連れてきたものの、暮らすようになれば、やきもちは妬くし、いちいちうるさい。
出張から帰れば、まとわりついてくる。
居場所が無くなって、いい加減困った時に、今の妻と出会った。
素直で、疑うことを知らない、とてもよい子だった。
そうそう、この子を利用して、上手く別れることも出来た。
俺がだまされて、勝手に婚姻届け出されたなんて言ったら、信じて、俺の代わりに相手と対決までしてくれた。
手切れ金は必要だったが、親をごまかして出してもらえたし、本当に上手くいった。
女なんて、惚れさせれば何でも言うこと聞くバカなやつらさ。
子供の世話でもなんでもやるからな。金さえ渡しておけばな。」
自分で手を下さなくても、何でも出来るんだと、酒とたばこくさい息で、ニヤニヤ笑いながら話していたものである。
彼はまた同じように、自分が手を下さなくても出来る方法を考えていたのだ。
それも、今度は他人を利用して。
彼には勝算が出来たのだ…。
(次号につづく)
ーー小説の醍醐味は、まず状況作りにあります。見え見えの説明じゃない、さりげない日常のあたりまえの風景を積み重ねて、キャラの所作自体で舞台を設定していくこと。簡単なようですが、これを継続していくには、かなりの精神力と持続力が要ります。シロクマさんはそれ持ってますね。今回の展開は一見地味ですが、キャラ内部でなにかが発酵していく気配がむりむりと感じとれます。次号の展開部は恐らく最初のヤマでしょう。編集部一同、かたずを飲んで見守っています。