2011年7月28日、コロナの第5波が過去のいずれをも超える罹患者をだし、都内の陽性者は初めて1日あたり3千人のラインを突破しました。
誰がどう見てもこれは大変な事態です。国難というややアナクロな言葉が頭の隅をかすめたりもします。
ここまできたら、これを「 国難 」と呼んでしまっても異議を挟むひとはそうないでしょう。
まことに由々しき事態です。
しかし、このパンデミックによる脅威を、直視させにくくしている障害物が、現在、我が国には2つ存在している。
7月23日に開幕した「 東京オリンピック 」と ―――
いまだネット内を乱舞している膨大な量の「 陰謀論 」―――
そう、この2つが、現在の僕等の対コロナ戦に対する最大の障害である、と僕は考えているのです。
2度のワクチン接種をすでに国民の大多数が済ましている合衆国においても陽性者の再増加は抑えがたく、あのバイデン大統領にしても1度許可したはずの「 マスクはもう付けなくていい 」という自らの発言を慌てて撤回しています。
この例を見れば分かるように、コロナウイルス ――― 特に感染性の高いデルタ株 ――― の罹患率を下げることは非常に困難です。
もしかしたら、これは、人間の科学で対処できる限界を超えた出来事なのかもしれない。
だとすると、僕等の持ち駒は2つしかない。
最上の理想論でなく、次善である現実的対応に徹すること ――― 具体的にいうならワクチン接種の徹底ですね。
もちろん苦労の末開発されたワクチンにしても所詮は人間業にすぎません。完璧のはずがない。
あとは政府がよくいっている「 3密を避けること 」ですかね。
こればっかりを連日刷り込みのように聴かされて、正直僕もいくらか胃もたれ気味なんだけど、今の僕等が持っているたしかな「 策 」というのは、ほんと、これだけなんです。
しかし、こういったコロナ防疫の現実的対策が順調に進んでいっているか? と問われれば、いまのところ真摯に頷けるひとはあまりいないと思う。
その原因は「 不信 」です ――― 明らかに過去最高のパンデミックがやってきているのに、「 安心安全 」という白々しい校則みたいな空念仏ばかりを唱えて、無観客という異常事態を迎えてもなお「 五輪開催 」を押し進めていこうとする政府への不信 ―――。
菅総理の会見映像を見たひとなら誰でも、彼の発言に誠がないことを瞬時に見抜くでしょう。
緊急事態宣言が出ている首都圏で、世界的祝祭である五輪を開催するという発想自体が、すでに充分すぎるほど異常です。
都民及び近県の市民たちの飲食業、旅行業などに壊滅的な業務制約を強いておきながら、そのもう一方の手で五輪興隆へのおめでたい旗を振るというのは、明らかにダブルバウンド( 二重拘束 ) に当たります。
顔で「 はい 」といいながら、無言のうちに「 ノン 」と示すこのダブルバウンドは、児童心理学の世界でも親がしてはならない最大のタブーとして扱われるようになってきました。
こうしたダブルバウンド癖のある親に育てられた子供は、成長のころに精神疾患にかかる率が高いと示した研究もあります。
このように不条理な制約で締めつけられて、一般の国民が心身症のような状態に陥るのも、いわば当然の帰結でしょう。
五輪開催のために営業を自粛して必死にコロナ防疫に努力してきたつもりなのに、肝心の五輪が開催されてみたらどうだ、信じられないような不祥事の連発、日本の五輪に対して海外マスコミが毎日のように投げつけてくる酷評の数々、そして、選手村では選手と選手管理の人間とのあいだに予想通り covid-19 の感染が広がりはじめているというのに、そのような現場の逼迫と窮状をまるきり見えないもののように華麗にスルーして、無観客と設定されたはずの開会式に悠々と乗りこんでくる厚顔無恥な五輪貴族たち……。
矛盾に次ぐ矛盾 ――― なんだ、これは? 俺たちが暮らしているのは民主主義の国じゃなかったのか?
平和の祭典とされている五輪が、経済ランクを基準に作られた新しい身分制度のお披露目会へと変貌していく、この笑えない喜劇。
幻滅と自棄。庶民側に区分された人間はたまったもんじゃない。
Covid-19 の襲来は、僕等のあいだにそれまであった「 平等幻想 」を見事なまでに吹き飛ばしてしまった。
これでは、心が折れかけてもある意味仕方ない、と僕は思ってしまう。
これはつまり昭和から平成期まで「 世界平和の祭典 」として機能していた五輪が、その役割を終えたということです。
世界中のひとが愛していた、自由と平和の「 神話 」が死んでしまったということです。
僕等は、五輪だけはふだん自分たちが営んでいる、いわば下賤な金儲け枠とは別種の、なにか崇高なイベントだと思いたがる傾向があった。
出場するアスリートたちにとっても、ほかの世界トーナメントとはちがって、五輪だけは特別な夢でありつづけてきました。
だからこそ、彼等の懸命な戦いが、一般のスポーツ枠を超えて、現代のヘラクレス神話として世界の隅々まで届けられたわけです。
ところが今回の東京五輪では、そうではありませんでした。
東京五輪はかつてのそれらのように美しくはなかった。
美しくないどころか、果てしなく醜くかった。
僕等は五輪という「 神話 」を用いて金儲けに走る人々の、ありとあらゆる醜聞を見せつけられ、唖然となった。
古きよき五輪の伝統は、この東京五輪でもって終ってしまったのです。
Covid-19 の襲来は、それほどまでに僕等の世界の構造を瓦解させてしまったのです……。
さて、こうした表世界での巨大な夢の盛衰に伴って、僕等の暮らす裏側の世界で、今世紀の初頭からうごめきつづけてきた、あるひとつの動きがありました。
ええ、それが今記事のテーマである陰謀論です。
始めのそれは、2チャンネルあたりで始まった、少人数でのいびつな囁きでしかなかった。
しかし、それは興隆期のネットの亜空間でみるみる増殖し、桜井誠氏の「 在特会 」――― 及び、そのネツト手法を真似てデビューした「 リチャードコシミズ 」等の流れをとなり、この流れは年を経るごとにさまざまな亜流を巻きこんだ大きな流れとなっていきました。
いままでの日本精神史なら決して残らなかっただろう、ほとんど塵芥( ちりあくた )といってもいい彼等の根拠なき言説が、これほど多くの信奉者を集めることになるなんていったい誰が予測できたでしょうか?
2016年に「 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律( ヘイトスピーチ規制法 )」が施行され、一世を風靡した在特会も衰退していきます。
その下降曲線を追うように、彼等の流れを汲んだ「 陰謀論者リチャードコシミズ 」も徐々に衰えていきました。
いまの彼は全国講演もやっていません。正規の出版も、youtube での講演もやれなくなった。
十八番であった「 工作員認定 」も、「 朝〇悪 」などというヘイトそのものの言説も、もういえなくなってしまった。
それは、僕等が封じた ―――。
けれども、彼等がそうやって衰退していくにつれ、別の場所から、彼等の遺伝子を継承したまったく別の、新たなる陰謀論がまた勃興してきのです。
それが北米を起点に急速に拡散された、あの トランプ擁護の Qanon でした……。
彼等が活動のツールとしていたのは Twitter でした。
短歌10首分に相当する140字制限内のつぶやきでもって、彼等は彼等なりのディープステイト像をそれぞれにデッサンしていった。
何万、何十万もの彼等のそうした個々のモザイクの集積が、彼等の特殊な「 Q の陰謀論 」となっていきました。
この場合にとりわけ特徴的なのは、彼等が彼等の集団的な持論を形成するにあたって、誰ひとりとして現実情報の取材を行わなかった、それをする必要性を感じなかったという点です。
現実に起こった事件を取材あるいは調査によって裏取りをする ――― というのが「 表社会のジャーナリズム 」の基本です。
いわゆる Q 系のひとたちはそこがちがう、彼等は取材だとか調査の類いには一切興味を持ってはいませんでした。
彼等が重視したのは、ネットの亜空間を跳梁跋扈するソース不明の流言であり噂話でした。
自分は一切表に出ることなく、あくまで匿名での Nowhere Man としての矩を守り、面白おかしく、ほとんど Nightmare といってもいい巨大な夢の陰謀世界を構築する。
それは、集団で試みる妄想融合のためのネットワークでした。
妄想という単語に引っかかりがあるなら、悪童話の集団創作だといいかえてもいい。
ここで特筆しなければいけないのは、Q の場合、本来なら主格であるべき創作者群のほうが「 従 」であったということです。
彼等は、彼等の創作した陰謀ネットワークの僕( しもべ )でした。
主格は彼等ではなく、彼等の生みだした Q のほうだったのです。
Q が彼等を導き、北米大陸とこの日本に自分の言説を広めるように命じたのです。
Qanon のエリはその僕であり使徒でした。
そして、前大統領のあのドナルド・トランプですら、ひょっとして Q に導かれた使徒のひとりに過ぎなかったのかもしれない……。
陰謀論というのはそれくらい大きくて虚無的な、現代社会の業病であると僕は考えているのです。
ある意味、いま僕等を包囲している Covid-19 より、これは厄介な病なのかもしれません。
Q に先んじること15年、ネットの黎明期からすでに活動を開始していた「 陰謀論の元祖 」ことリチャードコシミズも、このような性癖を濃厚に宿していました。
―――― 君たちが見ている現実なんてユダ金( 注:デイープステイトの前の呼称 )のつくった芝居構造を盲目的に信じているだけなんであって、そんなのは無知なB層のやることだ。我々は、このような奴隷的な世界観に縛られたB層を覚醒させ、真の世界構造を明らかにするために戦わなくちゃいけない……。
いま思いかえしても「 おお!」と呻ってしまいそうなキレッキレの台詞なんですが、実はこれ、純粋な日本語ではないのです。
うん、これは日本語じゃない。使役されている単語と文法こそ日本語らしい風を装ってはいるのだけど、性質がちがう。
言葉とは他人と意思をやりとりするためのツールです。
つまりは人と人とを「 結ぶための 」もの。
けれど、リチャードさんの場合はちがう ――― 彼のこの古い言葉は、社会と自分との関係を「 切る 」ために使われている。
これは現実そのものを拒絶して、自閉した逆ユートピアのなかに閉じこもろうとするひとの言葉です。
進歩や鍛錬といったベクトルとは真逆の、退行にむかって歌いかけている言葉です。
すべての単語が現実切除のための鋏として使われており、どの単語の節々からも、自分を認めなかった現実社会への根深い呪詛が吹きこぼれているさまがよく見える。
小泉内閣が初めて用いた「 B層 」の引用などは、まさに彼の真骨頂でしょう。
この言葉を用いることで彼がいいたかったのは、我々こそがA層であって、世間の人間はみんなB層である ――― という、たったそれだけのことでしかないのです。
全盛時のリチャードコシミズは、ミスター劣等感といってもいいくらいの、独特の重苦しい、悲しみの気配を目線の付近によく漂わせていたものです。
ふだんの彼からはあまりそういった兆候は窺えないのです。
ただ、なにかの拍子に彼内部の構えが解けた瞬間にだけ、それが見えるのです。
2009年の師走に彼と初めて会ったとき、僕は彼の目のなかにたまたまそれを見つけた。
そして、それらのたまりにたまった彼内部の鬱屈と絶望とが、彼の講演途中でいきなり弾けるのを見た。
それは圧倒的な見物でした。あんなに鋭利でカオスな反逆は、いまだにほかで見たことがない。誰もが息を呑まれて、自分のなかの時計がとまったのを感じました。
この特別なリチャードシャウトが健在なうちは、彼は無敵でした。
動画で2億ビューの視聴を取っていたこのころの彼に挑んでも、とても敵わなかったと思う ――― 。
ミスター陰謀論と呼んでもよかったそんなリチャードコシミズが前線から消えたのは、2017年頃だったでしょうか?
そして、彼から離れた党員のよかとよさんが、Qanon のエリとして、第二次陰謀論起爆の窓口となったのが、たしか2019年の秋あたり。
その後、僕が「 リチャード三世 」と呼ぶ寺尾介伸氏が、あたかもさゆふら氏のようなトンデモ言説を繰り出して、名古屋を起点に例の「 ノーマスクデモ 」と「 PCR差止集団訴訟 」「 コロナワクチン差止訴訟 」を提起し実行したのが、ちょうどいま現在のことです。
寺尾氏のことは前の3つの記事でほぼ書きつくしたのでここではもう触れませんが、彼が8月8日に企画している「 盆踊りイベント 」やらに参加予定の MEIKO さんというのが、なんというかとても面白いのです。
彼女の素性はどこにも乗っていません。ドイツ在住ということだけ本人はいっている。
あと、アタマ切れます、彼女 ―――― 英語もドイツ語もペラペラだし、ネイティヴみたいに発音もいい。
彼女がPCR検査の疑問点について解説している動画を見て、僕は呻ってしまった。
同時通訳しながら説明していくという設定もいい。決して淀まない流れもなかなか凄い。
外国語に疎いひとだったら誰でも説得されてしまいそうな、彼女の勢いのある話術は相当なものです。
寺尾氏が自分の文章より彼女の話のほうが分かりやすい、と紹介した理由もよく分かる。
https://youtu.be/VTCUgc1ytg8
しかし、しかしですよ ――― 彼女の話の裏を取るために各方面を調べてみたら、このようなサイトが引っかかってきたんです……。
https://note.com/no_more_dema/n/n8a1ca1574658
これは、う~ん……。ちょっと迷うような展開になってきちゃいましたねえ……!
この「 危険なウソは許さない ファクトチェックマン 」さんのブログは、読めば誰でも理解できるように非常に分かりやすく書かれています。ただ、僕の英語力は非常に稚拙なレベルにあって、辞書を引きながら通常の英文を訳すくらいならなんとかやれるのですが、こちらの MEIKO さんやファクトチェックさんのような同時通訳みたいな芸当は、残念ながら到底無理なのです。
従って、どちらが正しいことをいっているのか、判別ができません。
時間があればなんとかなるんですが、明日は父の納骨式なので時間をこれ以上割くわけにもいかない。
というわけで心ある英語力のある方がおられたら、これのダブルチェックをお願いしたいのですが、どうでしょうか?
ことは非常に重要です ――― なんといってもこれは「 ノーマスクデモ + コロナはない派 」と「 コロナはある。今時分何いってるんだ、おまえら!」派との闘いなのですから。
言論はたしかに自由であるべきです ――― けれども、いまはワクチンバブル真っ盛り、米国でもいきなりアンチワクチン派に乗り換えた12名が数か月で12億儲けた、などといった事例が先ごろ紹介されていました。
探偵の世界には「 ノイローゼは金になる 」という金言がありますが、「 アンチワクチンは金になる 」といったテーゼも、やはり僕等の「 いま 」に寄り添う、身近で現実的な問題なのです。
彼女を応援し推薦もしている寺尾介伸氏ならPCR差止集団訴訟を準備されているくらいだから、当然このような部分のチェックはお済みになっていることと思います。
というわけで寺尾さん、いいや、バレバレさん、できたら僕に直接教えてください。
今夜の僕の記事は以上です ――― お休みなさい。