< 裁判官の条件 >
司法が裁判官に求める必須条件っていうのは、2つあると思うんですよ。
1は、常識人たれ。
裁判所という組織に属しているんだから、一般の会社員と同等に、常識をもち、礼儀を守り、上司や同僚に対する気遣いを忘れず、上からの意思も正確に忖度できる能力を持ち合わせていること――― これが実は優先順位として第一なんですね。
で、2が、法律家たれ、ということです。
なんと、この要素は「次点」なんですよ。組織人として要領よく渡っていける能力のほうが、いわゆる「法律バカ(蔑称じゃない、誉め言葉です)」より重視されるんです。
優秀な最高裁の判事まで登りつめられるようなひとは、だから、1の「政治力」をほかの裁判官諸氏より相当量持ちあわせているんだと思う。
ま、裁判所も「世間」の範疇であるっていうことですよね、これは。
岡口基一裁判官はこの点で異色でした。
僕的には彼、学者さんのイメージが最初から凄く強かったんですよ。
学者さん。そして何よりも度外れの「法律バカ(注:空手バカ一代みたいな敬称です)」
彼と法曹界とのこれまでのイザコザを眺めていますと、岡口さんにはそういった世間的な、人目を気にする「配慮」といった要素がほとんどない、といった点がどうしても目についちゃう。
SNSで白ブリーフ一枚の肉体美を披露したりするのはまだ許せるとしても、SMで縛られている写真まで披露しちゃう、というのは僕が彼の上司であったとしてもこれは注意したくなっちゃうと思う。
ーーー いやいや、岡口クン、それは・・・いくらなんでもマズイって・・・。
でも、これの注意は凄く難しいんですよ。
なぜって、白ブリーフ写真やSM写真の披露は、法律違反じゃない。
普通の裁判官は法律への造詣の深さといった要素はむろん持ちあわせているんですが、それと同時に組織的配慮、常識的配慮といった要素もそれ以上に持ちあわせているわけなんです。
だけれども、岡口基一裁判官は、そういった常識的キャラのひとではなかった。
法律を愛し、法律の体系を研究する、ほとんど研究一筋みたいなひとだったんじゃなかったのかな?
組織的、世間的な配慮なんかするような脳回路配線は、彼にとって研究の邪魔のようなものだったのでしょう。
だって、そんなの、法律とは関係ないんですから。
このピュアさが彼に今回のような禍いを呼んだというのが僕の意見です。
岡口さんは、個人的には大好きです。
ただ、ピュアな存在って俗世では間違いなく迫害されるんですよ。
俗世は苦界であり、みんな自分なりの呻吟を押し殺しながら生きているわけだから。
この呻吟の気配を微塵も見せず、しかも他者への配慮もなく自分だけの灯りで無邪気に輝いている。
人目なんか気にもとめない。自分たちが重量級の配慮をこんなに苦労して日々背負っているのに。
この点だけが許せなかったんでしょう。ウザイ。とにかくウザすぎるってね。
岡口さんに罷免に値するほどの法律的罪がないことなんて司法だって分かりすぎるほど分かってるんですよ。
恐らく今回の戦法は司法としても苦肉の策だったんだと思うな。
岡口さんは法律の聖者みたいなひとなんだから。
その意味、今回の事件は、非常に俗世的で穢れと陰謀に満ちた恣意的な法律運営となっちゃったわけなんだけど、疲弊したのは仕掛けた司法のほうだけで、岡口さんは前のまんま堂々として、自分の法律的な正当性っていうのを心から確信してられるように僕は思う。
いいなあ、岡口基一さん。並じゃない。
このひとはひととして美しいよ。
彼は絶対自主退職なんかしませんよ。いくら追いこんで居心地を悪くしようとしたってダメ。
そんな彼の稀有すぎる存在感を、この汚穢に満ちた地上に咲いた貴重な花として、僕は愛でたい。
マイケル
P.S. けれども、岡口さんは裁判にちゃんと胸を張って出廷されてるんですよね。去年の10月25日に高裁から旭川地裁に飛ばされた石垣陽介裁判官と比べたら、度量も勇気も桁違いです。石垣クンは提訴された田端裁判官の担当裁判官を務めたとき、田端さんに「 被告適格がある。あなたは原告に返答すべきだ」とかいっておいて、いざ自分が被告の立場に立たされたら、過去の自分発言なんてなんのその、裁判官特権という防空壕に逃げこんで「 失当だ!」としかいわないんですから。人間の度量ってこういうとき剥き出しになるんですねえ ――― ねえ、聴いてる、旭川地家裁の石垣陽介さん?(笑)