ひきこもり支援うたった強制入院、病院の判断は「違法」 東京地裁
ひきこもり支援をうたう業者に無理やり連れ出され、強制的に50日間入院させられた30代男性が、入院先の成仁(せいじん)病院(東京都足立区)の運営法人に550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が16日、東京地裁(大嶋洋志裁判長)であった。判決は「入院は法定要件を満たしておらず違法」などとして、病院側に308万円の支払いを命じた。
ひきこもり支援業者に賠償命令 手足押さえて連れ出し、地下室で監視
「説得」7時間、部屋着、素足のまま施設へ ひきこもり支援に司法は
判決によると、大学卒業後、就職せずに両親と同居していた男性は2018年5月3日、父親が契約した業者「クリアアンサー」(東京、19年に破産)の職員に自宅から新宿区内の施設に連れ出された。同月11日に職員らに連れられて成仁病院を受診。「急性一過性精神病性障害」と診断され、母親の同意のもと、6月29日まで50日間、医療保護入院とされた。3日間は身体を拘束されておむつをはかされ、面会や電話も禁じられた。
「指定医が診断せず」
判決は電子カルテの記録などをもとに、医療保護入院の要否を判断できる精神保健指定医ではない医師が入院のための診察をしており、違法だと認定した。病院側は「指定医が別の医師のIDでカルテに記録した」と主張したが、判決はこれを認めなかった。
診察時の男性の状態についても「精神障害があったとは認められない」と指摘。病院側は「40分間の診察中、興奮状態が続き、病的な興奮と判断した」と主張したが、判決はカルテに具体的な記載がないことなどから信用できないと退け、「仮に興奮が見られたとしても、説明なく精神科病院に連れてこられた男性が、予想外の事態に驚いたのは想像に難くない」と述べた。そのうえで、違法な入院措置の後に行われた拘束なども違法だと判断した。
また、病院側がクリアアンサーに男性の状態などを報告していた点も「承諾なく医療情報を提供し、プライバシー権を侵害した」と違法性を認定した。
判決は「指定医による診察という基本的要件すら満たさず、ずさんな診断で医療保護入院を決めたことなどは、厳しく非難されるべきだ」と批判し、慰謝料などの支払いを命じた。
病院側は「判決をよく読んで対応したい」とコメントし、控訴する方針を示した。
クリアアンサーは、ひきこもり支援施設「あけぼのばし自立研修センター」を運営していた。男性は成仁病院を退院した後、同社が用意したマンションで生活したが、弁護士の支援を得て逃げ出した。男性は同社にも訴訟を起こし、今年3月に「移動の自由を侵害した」などとして110万円の賠償を命じる判決が出ている。(田中恭太)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます