芸能人が相次いでコカイン使用、所持などで逮捕される事件が続くことがあります。
こういった事件を見ていると、かつて私が勤務していた、急性期加算病棟に入院してきた
Aさんを思い出します。
その人は、入院してから、何一つ変わりない、異常な精神状態もない患者さんでした。
毎日、病棟で麻雀をして他愛のない話をしているときに、相談を持ち掛けられました。
それは「薬抜き」についてです。
薬抜きとは一体何か?というと、暴力団や禁止薬物常習者が逮捕を免れるために、精神科病院に緊急搬送されて
警察の捜査の手から逃れるという脱法があるのか?という話でした。
精神症状の多くは、アルコール依存症や禁止薬物によるものがほとんどだと私は思います。
それ以外の精神異常は、主にうつ病や器質的に躁転するぐらいだと経験的に考えています。
通常、麻薬や覚醒剤を使用したり所持、譲渡すれば特別法違反となり警察の捜査の対象となります。
麻薬及び向精神薬取締法違反とは、麻薬及び向精神薬の輸入、輸出、製造、譲り受け、譲り渡し、所持等、麻薬及び向精神薬の取扱いや規制を定めた麻薬及び向精神薬取締法に違反する犯罪です。
これはとある法律事務所からの引用ですが、麻薬の定義と、向精神薬の定義についての説明です。
『麻薬とは、ヘロイン・コカイン・モルヒネ・MDMA・LSDなどをいい、
身体への有害性や依存性が高いため、その所持等については厳しい規制の対象となっています。
麻薬及び向精神薬取締法違反事件の多くは、ヘロインやコカインなどの麻薬の所持、譲り受けのケースです。』
不思議なもので、精神症状を治療するために精神科医が処方する向精神薬は治療目的であるため所持や使用が免責されるということです。
「誰から買うか?」で違法か合法になる不思議な世界です。
そのAさんは、建築関係で仕事をしていて、現場の仲間や知り合いからコカインなど麻薬が斡旋されるという話をしてきました。
こういった建築関係の現場仕事では、暴力団関係者と仲が良い、知り合いになった作業員がそういったものが手に入るルートを
持っているからだと話してくれました。
それでAさんも、かつて仕事で疲れが溜まった時、ストレスが溜まった時、コカインをやっていたそうです。
そして、それは毎日するわけではなく、週末や、ここぞという時に使っていたものだと語っていました、
Aさんは、自分がやっていたはずなのに、友人が覚醒剤をやっていて、街中で幻覚に襲われ、大声を出して
走り出した時、警察に通報された。
そして、通報で駆け付けたパトカーを見た時、我に返り、逮捕されると分かり、パトカーから降りて職質しようと
近づいてくる制服の警察に気付きました。
そこでAさんの友人は、警察官から逃げるように、飲食店に駆け込みトイレの中から119番通報して救急車を呼んだそうです。
「急に胸に激痛が走り、胸が苦しい、息もしづらい、今、○○という飲食店のトイレにいます。助けて欲しい」
警察は、飲食店に入ることなく、店外でパトカーを止めて待ち構えており、その隙間を塗って、救急隊員が店内に入ってきて
担架で搬送してくれたという話です。
その後Aさんの友人は、「精神症状があるから」という理由と「薬物の再使用を恐れ」精神科病院に1か月ほど入院したという話です。
この話で、Aさんの知りたかった事は一体何だと思いますか?
それは「救急搬送された時、精神科医や医者は、尿検査などをした結果を警察に通報するのか?」
「通報義務はあるのか?」「令状がなければ医者から警察に積極的に”この人は禁止薬物やってます”と通報するのか?」
ということでした。
答え、結論からすると、「No」なのです。
捜査協力する必要はありますが、警察が病院に連れてきたケースのみです。
例えば、明らかに精神錯乱している、過去に覚醒剤で逮捕された事案がある被疑者の身柄を警察が確保したが、
薬物検査する前に、何らかの体調不良の訴えがあって、一時的に医療処置や検査が必要な場合
検査治療と共に、採尿などを協力することはあるという話です。
それ以外に、「幻覚がある」といって緊急入院してきた患者に「禁止薬物使用の疑いがある」として
薬物試験のトライエージを試験することはありません。
なぜか?というと精神科医療は幻覚の原因を除去するのが目的ではなく、幻覚を緩和することが目的だからです。
そして、幻覚の原因は脳のホルモンバランス異常としているだけで、本人の申し立てがない限り、いきなり禁止薬物の使用とは
考えないからです。
「明らかに薬物依存の離脱症状だな」とわかるケースはありますが、それでもトライエージをかけて陽性反応を確認し
保健所に通報することはありません。
患者の人権を守るという意味でのグレーゾーンだからです。
ある意味において、いきなり向精神薬を抜いてしまうと、「離脱症状」が生じます。
そういった人にじわじわ薬効成分を落としていく治療がされると言います。
それが薬抜きと呼ばれる治療です。
いきなり薬抜きをすると「発汗や口渇、強い恐怖、不安に襲われる」
といった自律神経失調症になってしまうからです。
実は精神科医療はそういった薬抜きをする場所でもあります。
ここで大切な事は、薬抜きをしたから終わりではないということです。
その人は死ぬまで、その薬の誘惑と戦い続けなければならないということ。
そして、それは本来、司法が行う事であり、医療がやってはならないと思います。
今回は急性期病棟での思い出をお話しました。
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