( 観光客でいっぱいのスペイン階段 )
街を歩いているだけで、心楽しい。そういう気分になるのは、パリを除けば、ローマだろう。
ローマは、バロックの街だと言われる。
ミュージシャンがパフォーマンスするナヴォーナ広場も、ライトアップされたトレビの泉も、オードリー・ヘップバーンが降りてくるスペイン階段も、とにかく劇的な空間で、欧米をはじめ世界からやって来た旅行者たちが、ウキウキと歩いている。オシャレなアンティークのお店があり、ジェラードの名店があり、広場にはレストランのテラス席が並ぶ。
( ライトアップのトレビの泉 )
と思えば、フォロ・ロマーノや、コロッセオや、チルコ・マッシモや、それにパンテオンなど、古代ローマ帝国の遺跡が街の中にゴロゴロとある。テヴェレ川の対岸のサンタンジェロ城も、本来はローマの皇帝たちの墓所である。
そして、その隣には、カソリックの総本山、バチカンが、今も多くの信者や観光客を集めている。
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市民からネズミ出没の苦情が出て、ローマ市議会がてんやわんや。下水道を掃除したのはいつなのか? 調べてみたら、清掃したという最も新しい記録が、ローマ帝国末期! 古代ローマが建設した下水道を、掃除もせず使い続けてきた町でもある。 ( 塩野七生 『イタリアからの手紙』新潮文庫から )。
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ヴァチカンから、ローマの街を横断して、スペイン広場まで、石畳の道をてくてく歩いた。
途中、ナヴォーナ広場を目指していて、道に迷う。地図はあるが、自分の位置がわからなければ、どうしようもない。
( ローマの競技場の跡、ナヴォーナ広場)
知らない広場に迷い込んだ。庶民的な雰囲気の広場で、テントが張られ、花屋、肉屋、八百屋などの市が立っていた。近所のマダムたちが、朝の買い物のために集まっている。
誰かに道を尋ねようと思って見渡すと、小さなリュックザックを背負った長身の女の子が、石造りの建物の角にたたずんでいた。一人旅の女子高校生か?
おぼつかない英語で、「エクスキューズ・ミー。道に迷いました。ナヴォーナ広場に行きたいのです。行き方を教えてください」。
すると、「私にはわかりません。何となれば (Because) 、私も旅行者ですから」 と、英文法どおりの律儀な答えが、緊張した顔で返ってきた。
「ありがとう」。
もちろんアメリカ人やイギリス人の英語ではない。英語圏以外。ドイツかな??
振り返ると、相変わらず、市の様子をじっと眺めている。一人旅だからこその鋭敏になった感受性で、何かを感じ、考えているのだろう。
旅は心を成長させる。
日本の高校生、大学生諸君。旅に出て、自分一人の足でしっかり立つ、その感覚を身につけよう。
小さな 「グループ」 にとにかく所属して、その中で、傷つかないよう、傷つけないよう、気を使ってばかりの青春なんて、若者の生き方ではない。
「グループ」に依存しないこと。群れないこと。「グループ」に友情なんか生まれない。友情が生まれるとしたら、何かを成し遂げようとする「チーム」だ。
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あとで、カンポ・ディ・フィオーリ広場 (花の広場) という綺麗な名の広場だと知った。
リュックザックを背負った一人旅の女子高生の姿が、印象に残った旅であった。