谷崎 潤一郎
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潤一郎ラビリンスの第2巻は谷崎ならではのマゾヒズム小説集。必読ですね。
「饒太郎」「蘿洞先生」「続蘿洞先生」「赤い屋根」「日本に於けるクリップン事件」の5編。
SMがこれだけプレイとして認識されている現代とは違い、まだどこか矛盾やとまどいがある頃だけに現代のSM題材小説とはそれだけでも違うわけだから、それに文豪の風格が加わって内容としてはとにかくイヒヒヒとキモくて気持ち良いのです。

谷崎の描くマゾヒストは常に芝居がかっていて面白い。この手の嗜好がイメクラの発明に大いに貢献しているんでしょう。(恥ずかしながらイメクラって行った事ないけど

ここでも醍醐味はいつしかマゾに仕向けられサド役をやらされている女性たちとのSとMの立場の逆転、入れ違い感。SMのMは満足のM、SはサービスのSが証明されています。

「此の男は唯の一度も焼餅を焼いた例がない。たまに焼くような風を見せても、決して心からの嫉妬ではなく、変態な慾を満足させる芝居に過ぎない。(中略)此の男には真面目に人を愛そうという実意もなければ、真面目に愛されたいと云う願いもない。(中略)自分は此の男に惚れられているんでも何でもない、女王の如く振舞いながら実は奴隷にされていたんだ、煽てられて、図に乗って、知らない間に不自然な道具として使われていたんだ」 「赤い屋根」より

徹底して嗜好を追求する自分本位の身勝手さが性質が悪くて良いじゃないですか。
ただ、マゾヒズム小説集と銘打たれてしまったため、いつマゾ表現になるのかと思いながら読む事になるのはつまらない。何も知らず読みすすめるうちにマゾの世界に突入する、あの感覚が欲しいところ。現に饒太郎の前半部の物を書かない物書きの怠惰な日常なんか一見マゾヒズムとは結びつかなそう。
「蘿洞先生」のブヨブヨっとした不気味感も捨てがたい。特に続蘿洞先生の鼻フガ美人に組み敷かれる様子。

「赤い屋根」のせむし妹など異形の物も効果的に使われていて良いです。
「赤い屋根」は「痴人の愛後日譚」というか「痴人の愛ナオミ編と」いったところですね。
「日本に於けるクリップン事件」はミステリー仕立で楽しめる傑作短編サドマゾSM(サスペンス&ミステリー)完全犯罪のほころびは到って単純だったりする・・・


しかし中央公論文庫は谷崎せんせのが一杯あって素晴らしいとゆーのを今日発見しました。これからが楽しみです。
フェバリットは相変わらず「卍」ですが
我侭なM、「真面目に人を愛そうという実意もなければ、真面目に愛されたいと云う願いもない。」というフレーズがいたく気に入りましたです。