授業で習ったのは中学だったか、高校だったか。雅文体は美しいけれど、参考書や先生の解説が無ければ理解するのは難しい。

授業で習った頃は、堅物の太田豊太郎とエリスの清白なる交際の流れで突如エリスが妊娠するので「この野郎やる事は遣ってやがる」と感心したものだ。当たり前なんだけどね、こっちも少年だったから。

井上靖の現代語訳は原文の雰囲気を崩さないように美しい日本語で綴られている。
しかし、この文庫ではちゃんと原文まで掲載されているのであくまで原文主役で訳文はサポートの域を出ない。ま、橋本治の桃尻語訳とかの路線を狙うものじゃないからしょうがないけど。

原文と訳文を少しづつ交互に読み進めた。
資料編とかも付いていて多面的に「舞姫」について考察できるのも面白い。
過去から多くの学者たちがこの「舞姫」を研究、論じてきたわけだけれど、その一端を垣間見るだけでも、つくづく「学問は貧乏人の暇つぶし」とは良く言ったものだと思う。例によって談志家元の言葉ですけど・・・

エリスのモデルと思しき御婦人が来日して森家に騒動が起こる逸話なども興味深い。

「少女はさびたる針金の先をねぢ曲げたるに、手を掛けて強く引きしに、中にはしはがれたる老媼の声して「誰(た)ぞ。」と問ふ。エリス帰りぬと答ふる間もなく、戸をあららかに引き開けしは、半ば白みたる髪、悪しき相にはあらねど、貧苦の跡を額(ぬか)に印せし面の老媼にて、古き獣綿の衣を着、汚れたる上靴を履きたり。エリスの余に会釈して入るを、彼は待ちかねしごとく、戸を激しくたて切りつ。」
読みごたえのある名作短編をさらに深く味わえる一冊。

「シルバー假面」

山田風太郎はもっとも好きな作家と言いながら、実は明治ものには足を踏み入れていません。やはり絶品ですか・・・明治もの・・・