北京の春節の廟会で売られる「大風車」
「風車」fēngchēは広く普及した伝統的な民間玩具で、一般には紙、竹、コウリャン殻で車輪を作り、風の力を借りて休みなく回転させます。容易く作れてすぐ遊べるので、子供たちにたいへん人気があります。中国の風車の歴史は古く、唐代や宋代の絵画の中に既にしばしばおもちゃの風車を見つけることができます。例えば南宋の画家、李蒿の筆による『貨郎図』(「貨郎」とは行商人の意味です)の中に小さな風車が描かれていて、行商人の帽子の後ろに描かれています。
李蒿『貨郎図』(部分)
この風車の構造はたいへん簡単で、三本の細い棒を交差させて六角形にし、棒のひとつひとつの先端に長方形の小旗を貼り付け、中心に軸を取り付け、軸と柄がつながり、小さく精巧で簡単な造りです。こうした風車は宋代に流行したものです。元代の有名な画家、王振鵬も『貨郎図』とよく似た絵を残しており、題名は『乾坤一担図』と言い、ひとりの老人がおもちゃを満載した荷物籠を担ぎ、老人の帽子の後ろにも小さな風車が挿してあります。
王振鵬『乾坤一担図』
構造は宋代の絵の風車と基本的に同じで、ただ風車本体の六角形が八角形になり、柄の上に三角形の小旗が取り付けられています。これから見て、古代のこうした小旗を立てた風車は長い間流行し、宋代以降、特に大きな変化は無かったようです。
現在、各地で作られている風車はおおよそ三種類に分けられ、「簡易風車」、「多角風車」と「大風車」があります。「簡易風車」は一本の竹か木の横棒の両端に互い違いに二枚の四角の紙を貼ったもので、横棒の中央に軸が設けてあり、軸は柄につながっていて、風を受けて回転します。
左は簡易風車、右は瓜形風車(後述)
『帝京景物略』に明末の風車の記述があります。
「すなわちコウリャン殻を二寸に裂いて、互い違いに四角い紙を貼り、紙の色は各々赤と緑で、真ん中に穴が空いており、細い竹でコウリャンの竿に横向きに取り付けられ、風を受けて動き出し、回転して輪のようになり、赤と緑が混じって目が回るようだ。これを風車と言う。」
こうした風車の構造の原理は、上記の宋や元の時代の風車と基本は同じで、現在にまで続き、依然として農村で幅広く作られています。
「多角風車」は中国の風車の中で最も代表的なもので、通常は一枚の正方形の色紙から作られ、四角形を中心に向け半分以上ハサミを入れ、順番に各々の角を中心に向けて折り曲げ、中央を小さい丸い紙片で貼りつけて軸を取り付ければ、四角の風車となり、二、三個の風車を一組として柄に取り付けると、風を受けて全てが回転します。二枚の正方形の色紙を互い違いに重ねると八角形の風車になり、三枚の色紙を互い違いに重ねると十二角形となります。色紙の色をそれぞれ変えると、風車の角がひとつひとつ規則的に色が変わるようになり、色彩の変化にリズムがあって美しいものです。
八角風車
しかし注意すべきは、八角形以上の風車はそれぞれの色紙の切り方が異なり、あらかじめ切り口の角度を決めておくことで、それぞれ入り混じった角度を揃えることができるのです。
八角風車の作り方(二枚の色紙の切り方を変えて角度を揃える)
「多角風車」と似たものに、「瓜形風車」があり、色紙を折り曲げてかぼちゃ形にし、中空で外側は瓜のひとかけらひとかけらが何層にも重なっていて、風が吹くとくるくる回ります。瓜形の風車は山東省南部の蒼山県、郯山tánshān県などで盛んに作られています。
蒼山県と郯山県(山東省臨沂市)
「大風車」は北京市の太鼓付き風車のことで、昔北京の春節(旧正月)の間に開かれた「廠甸」(和平門外瑠璃廠に、お正月の人出を見込んで大きな縁日が立った。この土地は、宮廷の瑠璃瓦を焼く瑠璃窯があったところで、瑠璃窯の前に広い空き地があり、この空き地に市が立ったので、「廠甸」と呼ばれた。)では必ずこのような風車が市場に並び、北京の春節の風物詩でした。
北京の春節、廟会の風景
「大風車」の構造はこれまで述べた風車より複雑で、風車の車輪はコウリャン殻を薄く矧いだ細片を湾曲させて作り、直径は20センチくらいでした。竹ひごやコウリャン殻の棒を用いて軸を作り、軸を中心に放射状に紙の帯を括りつけ、紙の帯のもう一方の端は輪っかに糊付けし、車輪としました。車輪の紙の帯には色が染め付けらました。
大風車
軸の延伸部分には互い違いに「はじき爪」を取り付け、軸の下には更に糸で縛り付けた二本の撥(ばち)を並べます。一番下には粘土で作った小さな太鼓を取り付けます。風車が回転すると軸の上の「はじき爪」が動いて撥を動かし、太鼓が打たれて音を鳴らす仕組みです。ポンポン、シャンシャンと良い音がしました。
大風車の太鼓を鳴らす仕掛け
「大風車」は風車ひとつ毎に太鼓がひとつ付いていて、少なくとも二つの風車が上下に配されました。風車が三つ、四つ、五つ、ひいては三四十個あるものまであり、全ての風車はコウリャン殻をつないで作った骨組みの上に取り付けられ、骨組みは風車の数に合わせて異なった形に組み立てられました。よく見かけたのは「日」の字形や「甲」の字形、「申」の字形の骨組みでした。
大風車
一台の「大風車」に何個風車があるかで、その数だけ太鼓が取り付けられたので、風が吹けば音が鳴って、たいへん面白いものでした。北京の人は買って帰った「大風車」をしばしば家の軒下に取り付けたので、それによって家中がお正月のお祝いの気分に染まることとなりました。
北京の四合院の家屋の軒に取り付けられた大風車
おもちゃの風車の種類はたいへん多く、その中には凧や走馬灯のアクセサリーとして使われたものもありました。例えば銅鑼を付けた凧で、銅鑼を付けた枠と「大風車」の構造は全く同じでしたし、連凧の龍の頭の眼を回すのも、実際はふたつの風車でした。走馬灯の真ん中の軸の上には、風車の車輪を取り付けておく必要があり、それにより、上昇気流を受けて走馬灯が回るのです。
走馬灯
硬翅風筝(沙燕)
凧の歴史が分かったところで、今回は凧の種類とその特徴について見て行きたいと思います。尚、中国国内の有名な凧の産地には、北京、天津、山東省濰坊、陝西省西安、河北省保定、江蘇省南通などがあります。
(一)凧の造形により表現する題材による区分
1.鳥型の凧:鷂(ハイタカ)、鳩、鳳凰、タンチョウ、大雁、オウムなど。
2.虫型の凧:トンボ、蝉、蝶、蛾、テントウムシなど
3.水生生物の凧:蛙、金魚、ナマズ、つがいのコイ、蟹、オタマジャクシ、イセエビ(ザリガニ)、貝
4.人形凧:神話上の人物、歴史上の人物、芝居の人物、例えば孫悟空、寿老人、関羽、張飛、鍾馗、和合二仙(家庭円満を司る仙人、神様)、劉海、許仙、白娘子(白素貞。『白蛇伝』の女主人公)など。
京劇の俳優のくま取りの凧(臉譜風筝)を含みます。
臉譜風筝(くま取りの凧)
5.文字凧:「喜」の字を二つ並べたもの。「福」、「寿」の文字。「杏花天」、「天下太平」、「富貴非所望不憂貧」など
6.器具の形の凧:生花を飾った籠、扇子、鼎、香炉、鐘、灯籠、宝剣、花瓶など
7.幾何学図形の凧:角凧、ひし形、八卦、星型(五角星)、六角形、円形など
(二)凧の構造による区分
1.硬翅風筝yìngchì fēngzheng(硬い翼の凧)
凧の両翼には二本の横向きの「竹条」(竹を細く裂いた棒)で作ったフレームを用い、胴とつなぎ、両翼は折り曲げられないし、はずすこともできないようになっています。このような凧は、「硬翅風筝」(硬い翼の凧)と呼ばれます。翼が二枚以上の凧は、例えば「宝塔」は七枚、「双喜」つまり「喜」を二つ並べた字の凧は三枚の翼を持ちます。
「双喜」の文字凧
「硬翅風筝」は全国各地でよく見受けられ、玩具としての凧の中で最もよく見られる構造のひとつです。その中で、北京の「沙燕」(イワツバメ)の凧は最も典型的なものです。「沙燕」の翼は、上下二本の竹結び付けてあり、頭と腹部は一本の長い竹を折り曲げて作り、尾部は二本の竹を交差させ、これら各部分を一緒に縛って、「沙燕」の骨組みを構成しています。
「硬翅風筝」の骨組みの寸法は一定の比率になっています。その全体の寸法比率は正方形になっていて、全体の長さと幅の寸法は同じです。頭部の長さを一単位とすると、これは全体の長さの四分の一。腹部は二単位で、全体の二分の一。尾部も一単位で、全体の四分の一。それぞれ一単位が全て正方形で、翼の周囲の竹の長さの七分の一が腹部の幅です。このように、翼の周囲の竹の長さを先ず決めれば、その他の各部分の寸法は容易に求めることができます。
「沙燕」凧の骨組み
「硬翅風筝」には他に「米字硬翅」(米の字形の硬い翼)の凧があり、すなわち「米」の字の形の胴体の上に翼を取り付け、骨格を構成しています。外側の輪郭は題材によって火で焙って曲げた細い竹を架台の上に結び付けて造形し、最後に紙を糊付けします。「米字硬翅」が完成すると、周囲の縁は全て竹で支えられた状態となります。
米字硬翅
「硬翅風筝」は、他の凧に比べ構造が簡単で造りがしっかりしており、様々な環境での適応性が高く、民間の玩具凧の中で最も広く使われています。
2.軟翅風筝 ruǎnchì fēngzheng(柔らかい翼の凧)
この種の凧の翼は上面だけに一本の竹条(竹を細く裂いた棒)があり、下辺の輪郭は翼の生地だけで構成され、風が吹くとひらひら翻ります。鷹、蝶、トンボなど多くが「軟翅風筝」で、この種の凧の翼は、下半分を折り曲げて畳むことができます。翼を外せるものもあります。翼の生地の多くは薄く柔らかい絹や、強靭性の強い紙が使われ、翼が風の振動で破れないようにされています。「軟翅風筝」は表現性が豊かで、昆虫や禽鳥などの題材に適していて、揚げると風を受けて翼が震える効果を見ることができます。
軟翅風筝
軟翅風筝の骨組み
3.拍子風筝 pāizi fēngzheng(平板形の凧)
造形が一枚の平板のような形の凧なので、こう呼ばれます。京劇のくま取り、鼎、蝉などがこの種の凧です。この種の凧は、更に「軟拍子」と「硬拍子」の二種類に分かれます。「硬拍子」の最も典型的なものが伝統的な題材の「八卦」です。
「八卦」凧
「八卦」凧の骨組み
外周は竹を裂いた棒を結わえた二つの正方形から成り、それを重ねて八角形にし、中間には十字に骨格を加え、全体の造形は整った平面で、仕付け糸を加える必要が無く、平板で曲面が無く、したがって比較的強い風が吹く時に揚げることができます。安定性を増すため、この種の凧の「尾穂」(しっぽの房)は長く重いものが付けられます。「軟拍子」も平面の造形で、骨格の構造は簡単で、下辺の輪郭は竹で支える必要が無く、揚げる時は仕付け糸を使って平面を後ろに湾曲した弓型にさせ、同時に比較的長いしっぽか房を付ける必要があります。「軟拍子」の下部は折り曲げたり上辺の骨格の上に巻き取ったりすることができ、持ち運びに便利になっています。この種の凧の表現力が豊かで環境への適応性にも優れていますが、長いしっぽを付ける必要があり、全体の構図が壊れやすく、実際の状況によって適宜しっぽの造形をうまく処理してやる必要があります。
4.長串風筝chángchuàn fēngzheng(連凧)
俗に「蜈蚣」wúgong(ムカデ)とも呼ばれ、たくさんの円形の凧がいっしょにつなぎ合わさり、前面には頭が据えられ、龍の頭が据えられているように見えるので、「龍頭蜈蚣」lóngtóu wúgongとか「龍筝」lóngzhēngと呼ばれます。
龍頭蜈蚣
連凧の一枚の円形の凧を「一節」と呼び、少なくとも20節、多いものは150節に達することがあります。円形の凧は竹を裂いた棒を曲げて円形にし、その後で紙を糊付けして絵付けを行います。円形の凧1枚1枚に全て円の直径を貫き通す1本の竹を裂いた棒が挿し渡され、俗に「蜈蚣腿」(ムカデの足)と呼ばれます。「蜈蚣腿」の長さは一般に円形凧の直径の三倍で、足の両端には鶏の毛か紙の房が結び付けられています。この円形の凧一枚一枚を単独では「蜈蚣桄儿」wúgong guàngrと呼ばれます。(「桄」は「かせ糸」、糸巻に巻かれた糸のこと)
龍の頭と「蜈蚣桄儿」
何枚かの「蜈蚣桄儿」を揚げてそれが一本の串のようになったら、この連凧揚げは成功したと言えます。前面の「蜈蚣頭」、つまり龍の頭の部分は扁平のものと立体的に作ったものとがあり、多くは「竹条」(裂いた竹の棒)を縛って骨格を作り、その上に紙を糊付けして絵付けし、さらにぐるぐる回転する目玉が取り付けられます。
蜈蚣頭
「蜈蚣桄儿」はそれぞれ三つの部分に分けて着色されます。上部は濃い色を使い、ムカデの背中を表し、下部は白色の半円で、ムカデの腹を表します。中間部分は様々な色で彩色されます。こうして絵付けされた連凧が上空に揚げられ、一本の長い串になると、背中が濃い色で腹が白い、一匹のムカデとなるわけです。
連凧の制作の要領は主に「蜈蚣桄儿」をつなげる技術に現れ、各「桄儿」の縦方向の角度は全て120度以上なければならず、やや前傾した状態になります。横方向は各「桄儿」が全て180度で平行でなければならず、凧を上空に揚げると「塌腰翘尾」、つまり背骨が腰のところでくぼんで、尻尾を持ち上げる形になります。連凧は空高く舞い上がると、勢いが雄壮で、その姿は高くそびえ立ち、中国の伝統凧の名品のひとつに数えられます。
5.組み立て式の凧
組み立て式の凧は、各部分が別に作られ、揚げる前に各部分の関節に沿って組み立て、揚げ終わったら解体することができ、携帯や保存に便利にできています。前のところで紹介した「軟翅風筝」(柔らかい翼の凧)や「拍子風筝」(平板の凧)は、組み立て式として作ることができます。相対的に、組み立て式凧の造りは複雑で、関節を組み立てる接合部分の設計に注意しなければならず、通常は「榫」sǔn(ほぞ。一方の材の穴にはめ込むよう他方の材に作った突起)、「卯」mǎo(ほぞ穴)、「挿」(差し込み)、「梢」、「套」(ねじ溝を切る)等の方式で部品をしっかりと結合させ、また品種によっては鉄の薄板を被せたり、針金、紙筒、蝶番(ちょうつがい)などの部品を使ったりして設計上の要求を満たします。有名な組み立て式凧には、天津の「風筝魏」一族が作った各種の凧があります。
天津風筝魏の作品
6.簡易凧
簡易凧は一般の人々が自分で設計、制作した凧を指し、品種は極めて多く、何れもすぐに作れて構造の簡単な玩具凧であり、よく見かけるのは「瓦片」(平瓦の形の四角形の角凧)や「菱形風筝」(ひし形の凧)、「桶形風筝」(立体凧)などです。ひし形の凧が最も簡単で、二本の竹の棒を交差させ十字型にするだけで、横向きの竹をきつく縛って弓状にし、紙を糊付けし、しっぽを付ければ簡易凧が完成します。民間で長らく伝承され、子供たちの間で互いに真似し合うことが盛んになり、ひとつの風潮になりましたが、商品になることはほとんどありません。
(三)凧の特殊な仕掛け
凧を揚げて飛ばす過程での娯楽性や趣味性を強めるため、人々は早くから凧の特殊な仕掛けを考えました。唐代には、凧は既に琴の弦を取り付け、音を出す効果を作り出すことに成功しました。以後、代々新たな設計がなされ、凧の娯楽性や趣味性をより豊かで完成度の高いものにした。主要な仕掛けには、音を出す仕掛け、光を発する仕掛け、「送飯的」(食事を届けるように、下から上空の凧本体に上がっていき、本体にぶつかると、半分に割れて下に降りてくる)ものがあります。
音を出す仕掛けには、「風琴」(オルガンのように風を送り込んで音を出す)、「笛哨」(呼び子の笛)、「鑼鼓」(銅鑼や太鼓)などがあります。「風琴」は「竹条」(竹を裂いた棒)で「湾弓」(挽弓、拉弓とも。弦楽器で弦を弾いて音を出す弓)を作り、糸や薄く削った竹のリードを「琴弦」(琴線。弦楽器の弦)とし、これは俗に「琴縧子」(琴の糸)と呼ばれます。弓と弦が「風琴」に取り付けられ、凧を揚げると上空で風が吹いて「琴弦」を振動させ音が鳴ります。「風琴」は一般に1.7メートル以上の大型の凧に取り付けられます。「琴縧子」、つまり弦は二本、三本、四本のものもあり、それぞれ弦の長短、太さが異なり、出る音の高さが異なります。したがって三本や四本の弦を付けた「風琴」ではいくつかの音が共鳴して聞こえることになります。また竹笛や呼び子を結び付けたものもあり、耳に心地よい音を出すことができます。
呼び子付きの凧
その他の音を出す仕掛けとして、「背鑼鼓」(銅鑼や太鼓を背負う)があり、これは竹の棒で銅鑼や太鼓の架台を括りつけ、架台の上に小さな銅鑼や皮を張った太鼓を吊るし、風車の付いた「撥片」と太鼓のばちが取り付けてあります。風車が回ると「撥片」が動いてばちを動かし、銅鑼や太鼓を打ち鳴らす仕組みになっています。凧が上空に揚がると、銅鑼や太鼓の音が天空より鳴り響き、たいへんおもしろいのですが、凧に取り付ける制約上、あまり大きな音は期待できません。「背鑼鼓」の凧は通常夕方から揚げ始め、夜のとばりが降り、あたりが静かになってから、この仕掛けの妙味を味わうことができます。
背鑼鼓
「背鑼鼓」を組み込んだ凧
凧が上空に揚がって後、特殊な仕掛けを使って色紙片や色紙の短冊、紙の造花などを凧の糸に沿って上空に上げ、凧の傍まで来るとスイッチの入る仕掛けがあり、紙片や造花が上空でまき散らされ、ひらひらと満天を漂い舞い落ち、その情景は珍しく壮観です。こうした仕掛けは「送飯的」と呼ばれ、ちょうど凧に食糧(兵糧)を送るかのようであるのでこう言います。「送飯的」の構造は複雑で、竹の架台、「飯盒」、翼、上空の凧に当たると駆動する仕掛けが含まれます。竹の架台には開いたり閉じたりさせることのできる翼(羽)が取り付けられ、開いた時は「硬翅風筝」と似た姿になります。
「送飯的」、上空の凧にぶつかると翼が閉じる仕掛け
「飯盒」は底が開閉する紙の箱で、紙片や造花はこの箱の中に入れられます。凧が上空に揚げられて安定したら、そこで凧を固定し、凧の糸の下端に「送飯的」を取り付け、翼を広げて風力を使って凧糸に沿って上昇させ、そのまま上空の凧の下の横向きの棒にぶつかったら、仕掛けを動作させ、紙箱の底を開き、紙片を撒き落とさせ、同時に両翼を閉じると、「送飯的」は凧糸に沿って下降し、下で凧を揚げている人のところまで滑り落ちてきます。
「送飯的」、上の赤い凧に向け上がって行く
もうひとつ、もっと簡便な方法で「送飯」することができます。紙片を紙か布でできた袋に入れた小包を作り、糸で縛って梱包し、包みの糸の上に火を付けた線香を貼り付けるのです。線香の長さは凧の揚がった高さにより調整します。凧を揚げて一定の時間が経つと、線香の火が包みの糸に移って焼き切るので、袋が開け、中の紙片が空中にまき散らされるというわけです。
更に、凧に提灯を送る仕掛けがあり、その構造、原理は「送飯的」と似ていて、火を点した提灯を「飯盒」の代わりに取り付け、時間になると提灯を空高く上げ、時には一列に連なった提灯を空に上げることができます。提灯を揚げるのは普通夕刻に行われ、凧が上空で一定の位置に固定されて後、夜のとばりが降りてから、火を点された提灯が夜空に上げられ、たいへんおもしろいものです。
凧の競技要素を強めるため、古くから競技凧が生み出されました。つまり凧で空中戦を行い、相手を絞めて落とした方の凧を勝ちとするのです。多くの地方でこのような凧が流行し、その中でチベットの競技凧が最も代表的なものです。多くが正方形かひし形の「硬拍子」の凧であり、凧糸の表面は糊で付けたガラス粉で覆われています。試合では、自由に対戦の取り組みを決め、審判員を出します。凧が一定の高さまで揚がったら、審判は「試合開始」を宣言し、双方は技巧を尽くして攻撃を行います。選手は自分の凧を操縦して、空中で旋回、上昇、下降、飛行、突撃を行って相手の凧をかく乱し、またガラス粉で覆った凧糸で相手の糸を切りに行き、一方の凧が撃墜されるまで攻撃を繰り返します。
チベット・ラサの競技凧
(四)中国凧の芸術性
中国の凧の芸術上の特色は、その造形、装飾図案、それが反映された思想や感情の三つから理解することができます。この三つが密接に組み合わさることで、中国の凧は世界中の凧の中で独自の位置づけを切り開いていると言うことができます。
凧の作者はその設計から造形、色彩、紋様、更に凧を遠くから見た時、近くで見た時の効果などを併せて検討します。中国の伝統凧には多くの固有の題材があり、それらの造形、色彩は伝承される中で絶えず改良、改善され、各地の凧の独特な風格を形成しています。
北京地区の伝統凧は「沙燕」(イワツバメ)で、自然界の翼を広げて飛び回る小さな燕の形象に取材しています。「沙燕風筝」は造形上、燕の翼を広げて飛ぶ動きを誇張し、翼の力量と尾翼を刀のようにピンと伸ばした様子を強調しています。またそれと凧の風を受けて飛ぶ構造、原理と結びつけています。「沙燕」の装飾図案は同様に燕の姿形に基づき、その眼と爪の形状を誇張して表現し、また民俗的な特色と強い装飾性を反映しています。
「沙燕」凧の基本の形態には様々なバリエーションがあります。「肥燕」、「痩燕」、「雛燕」、「比翼燕」などです。北京の民謡に、「肥は男と痩せは女と比べ、雛燕は子供、双燕は夫婦と比べる」というのがあります。試しにこの四種の「沙燕」を比較すると、自ずとそれぞれの特色が見えてきます。「肥燕」は雄々しく力が強く、翼や頭、腹、しっぽが大きくふくよかで、男性の気質を象徴しています。
肥燕
「痩燕」は各部が細長く、繊細で、女性のうるわしくしなやかな特徴を表現しています。
痩燕
「雛燕」は体が豊満で子供らしく拙く、無邪気さが見て取れ、天真爛漫な「胖娃娃」(太ったお人形さん)となっています。
雛燕
比翼燕は夫婦仲良く並んだ様子を表します。
比翼燕
この四つの「沙燕」の象徴するところは相互に対比し、相互が引き立てあうところに意味があり、少し見比べればそれぞれの鮮明な特徴と明確な寓意を見て取ることができます。
「沙燕」凧の装飾紋様には単色と彩色の二種類があります。彩色の「沙燕」凧は先ず墨の線で眼、口、爪、翼など主要部分の輪郭を描き、その後様々な彩色の図案を描き入れていき、その図案には様々なバリエーションがあります。よく見かけるのは、両翼に図案を絵付けしたものです。コウモリの紋様は「沙燕」凧で最もよく見る装飾紋様で、「五福捧寿」、「洪福斉天」、「多福多寿」、「福寿綿長」、「福寿双全」などの図案があり、コウモリ紋は更に変形して尾翼、腹部の装飾に使われ、時には「沙燕」のくちばしの代わりに使われたりします。
五福捧寿
コウモリ紋様の他、多くの伝統図案が「沙燕」の装飾に使われ、例えば翼に白鶴を描けば「白鶴延年」、九匹の龍を描けば「龍生九種」と言い、ヤマネコ、蝶、牡丹を描けば「耄耋富貴」màodié fùguì(高齢の方が十分な富を持ち、健康で長生きされるのを祈る)、梅、竹、菊を描けば「四君子」などがあります。
耄耋富貴
「沙燕」凧の腹部と尾翼の間も装飾の大切な部分で、俗に「腰節」と言います。多くは連続する紋様を何層かに分けて描き、何層に分けるかで幾「道腰節」と言います。例えば三層の連続図案は「三道腰節」、五層なら「五道腰節」と言います。「腰節」の図案は多くが伝統紋様から取られ、例えば「万不断」、「拐子龍」、「雲鈎」、「回文」、「蓮花瓣」、「方勝」、「盤腸」、「如意鈎」などの図案(吉祥図案)があります。「腰節」の図案は集中し、まとまっており、「沙燕」の白い胸と尻尾を際立たせ、模様のリズム感を生み出しています。
「沙燕」凧のもうひとつの有名な装飾方法が「反画法」で、すなわち一羽の標準的な単色の「沙燕」図案を裏焼きして描かれます。この画法は写真のネガと同じで、元々濃い色の部分を淡い色で描き、元々空白の部分を濃い色で描き、こうして北京の「沙燕」凧の一品種、「黒鍋底」が生まれました。「黒鍋底」は黒色で描いた「沙燕」で、赤色で描けば「紅鍋底」、青で描けば「藍鍋底」です。
「黒鍋底」の「沙燕」
写実手法で動物の造形を真似た凧はもうひとつの重要な流派で、よく見る凧は鷹、燕、白鶴、錦鶏、蜻蜒、胡蝶などがあります。これらの動物の姿形と凧の造形はよく似ていて、どれも二枚の開いた翼を持ち、空を飛ぶ時の様子や、遠くから見た効果も、自然です。凧に絵付けする時はできるだけ真に迫って生き生きとするよう心掛けます。例えば鷹を描く時は、翼の羽の毛一本一本をはっきり描き、少しも疎かにしません。トンボを描く時は翼の網の目の通っている方向をきっちり描き、細かい網の目を表現する。こうした凧は一見すると作りが簡潔で、中国の一般の人々の審美習慣に合っています。
写実的なスタイルの凧の図案は中国の伝統的な画法の「重彩」(水墨画以前の中国の伝統絵画)の表現方法と同じく、線描と輪郭を主要な手段とし、その後彩色を施していきます。多くの凧はそれ自身が美しい「重彩」絵画の作品となっています。
人物凧は凧の造形の制約を受けるため、背景の図案を加えることで、画面が凧の両翼いっぱいに描かれるようにする必要があります。よく使われる背景の紋様は、雲紋、花卉、海の波、リボンなどです。例えば「天女散花」、「孫悟空」、「鍾馗」などの凧は、いずれも主要な人物の姿を描くと同時に、濃密な雲紋が描き加えられています。
物の形の凧は一般によく見かけるもので、多いのは「扇子」、「宮灯」(八角形や六角形の灯籠)、「八卦」、「鼎」、「雨傘」、「花籃」などです。その他、宝塔、亭閣、ダイコン、ハクサイ、果物などの凧もあります。「八卦」、「宝塔」などの凧が決まった形式で作られている以外は、その他の多くは作者の即興の創作で、決まった形式は存在しません。
中国凧の主な装飾方法は絵付けであり、先に紙を糊付けしてから絵を描くか、先に絵を描いた紙を糊付けするかのどちらかです。木版で水彩塗料を印刷して装飾紋様を完成させる方法では、先ず凧の各部分の図案をいくつかの部分に分解し、各部分を小型の木版に刻み、切った紙に個別に印刷したら、最後に糊で貼り付けていきます。絵付けと印刷の結合方式では、先ず図案の輪郭を印刷し、糊で本体に貼り付けてから、後で色を入れていきます。
中国凧は複合的な民間芸術であり、絵画、結わえた糸の調整、自然科学、民俗的な風情、文化やスポーツとしての娯楽などが結びついています。したがって、人々は様々な角度から凧を見ることになり、民間芸術の立場から凧の芸術的風格や造形、色彩、装飾の特徴を研究することができますし、自然科学の立場から凧の開発の実用価値を考えることもできます。民俗学の立場から凧の民俗的な意義を検討することもできますし、スポーツ、健康増進の立場から凧が人類に提供した健康増進作用を調べることもできるのです。