和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

報告

2023-06-29 15:44:47 | 小説。
菊池芽衣からの告白を断った。
彼女が、友人の北川聡道の想い人だったからだ。

それから程なくして、菊池は聡道と付き合うことになった。
なんと菊池の方から告白したという。
聡道は嬉しそうに言っていた。

ここまではいい。
少々引っかかるところがないではないが、聡道の想いは遂げられた。
素敵な恋愛物語だ。

問題は、菊池のそれからの行動だ。
彼女は隠れて僕にこんなことを言ってくる。

「聡道くんと付き合うようになったのよ。
 まだ一緒に登下校するだけの仲だけど」

「昨日、帰り道で聡道くんから手を繋いできたわ。
 ガラス細工でも扱うかのように、慎重な手付きだった。
 優しい人なのね。
 彼のいいところをひとつ見つけた気分よ」

「先週末に初めてデートをしたわ。
 私の誕生日が近いから、とマフラーをプレゼントしてくれたの。
 その後一緒にカフェでお喋りして、帰りは家まで送ってくれたわ。
 ・・・これは、私の家を知りたかったからかしら?」

「私の方からハグをしたわ。
 彼は凄く喜んでいて、震えながら私の肩に手を回してきた。
 慣れない力加減が可愛らしかったわね。
 初めての彼女が、私みたいな女でいいのかしら、ふふ」

「付き合い始めてだいぶ経つけれど、彼が思い切ってキスをしてきたわ。
 彼に似合わず、少し強引だった。
 今まで我慢していたのね、色々と。
 私も、嫌じゃなかったわ」

「多分、次のデートで初体験をすることになると思うわ。
 私の家に家族が誰もいない日を教えたから。
 彼ったら、途端に震えて挙動不審になるのよ。
 そんなに私が欲しいのね」

僕は何を思えばいいのだろう。
友人と、一度は僕に告白してきた女性との関係の進展を聞かされて。

最初は疑問に思うだけだったのだが、聞いている内に――
奇妙な感覚に襲われるようになった。
友人が取られる、という感覚と。
僕のことを好きだったはずの女性が取られる、という感覚と。
嫉妬のような、興奮のような、不思議な気持ち。

この報告は、僕への復讐なのだろうか。
そんなことを、ふと思った。
色々考えを巡らせるが、もう遅い。

次の報告は――いつだろう。

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