病後
大阪
空つりやかしらふらつく百合の花 何処
すゝ風や我より 先に 百合の花 乙刕
焼蚊辞を作りて
子やなかん其子の 母も蚊の喰ん 嵐蘭
餞別
膳所
立さまや 蚊屋もはつさぬ旅の宿 里東
うとく成人にいれて
参宮する従者にはなむけして
みしか夜を吉次か冠者に名残哉 其角
隙明や蚤の出て行 耳 の 穴 丈草
下闇や 地虫ながらの 蝉の 聲 嵐雪
膳所
客ふりや居處かへるせみ の 聲 探志
頓て死ぬけしきはみえず蝉の声 芭蕉
伊賀
哀さや 盲麻刈る 露 の たま 槐市
渡り 懸て藻の花のそく 流哉 凡兆
舟引の 妻の唱哥 か 合歓の花 千邦
白雨や鐘きゝはつす 日 の 夕 史邦
素堂之蓮池邉
白雨や 蓮一枚の捨 あた ま 嵐蘭
日焼田や 時々 つらくなく 蛙 乙刕
ウンカ
日の暑さ 盥の底の 蠛 かな 凡兆
水無月も 鼻くさあはす数寄屋哉 仝
日の岡や こかれて暑き牛 の舌 正秀
たゝ暑し籬に よれは 髪の落 木節
しぬんこの藪ふく風そあつかりし 野童
夕かほによはれてつらき 暑さ哉 羽紅
江戸
青草は 湯入なかめんあつき哉 巴山
千子が身まかりけるをきゝてみの國
より去来かもとへ申つかはし侍ける
なき人の 小袖も今や 土用 干 芭蕉
水無月や 朝食くはぬ夕すゝみ 嵐蘭
したらくにねれは涼しき夕 へ哉 宗次
すゝしさや 朝草 門ンに荷ひ込 凡兆
唇に 墨つく児の すゝみ 哉 千邦
月鉾や 児の 額の うす 粧 曽良
そらつりやかしらふらつくゆりのはな 何処(百合花:夏)
※空つり めまい
すずかぜやわれよりさきに百合のはな 乙州(百合花:夏)
こやなかんそのこのははもかのくはん 嵐蘭(蚊:夏)
たちざまやかやもはづさぬたびのやど 里東(蚊屋:夏)
みじかよをきちじがかじやになごりかな 其角(短夜:夏)
※吉次 義経を奥州まで連れて行った金売吉次
ひまあくやのみのでてゆくみみのあな 丈草(蚤:夏)
したやみやぢむしながらのせみのこゑ 嵐雪(蝉の声:夏)
やがてしぬけしきはみえずせみのこゑ 芭蕉(蝉の声:夏)
新古今和歌集巻第三 夏歌
百首奉りし時
摂政太政大臣
秋近きけしきの森に鳴く蝉のなみだの露や下葉染むらむ
秋近きけしきの森に鳴く蝉のなみだの露や下葉染むらむ
よみ:あきちかきけしきのもりになくせみのなみだのつゆやしたばそむらむ 定 隠
意味:秋近い雰囲気の森に鳴く短い命の蝉の涙でその木の下葉を赤く染めるのだろう
備考:正治二年後鳥羽院初度百首。けしきの森は大隅国(鹿児島県霧島市国分の国分寺跡付近)の歌枕で気色との掛詞。本説は和漢朗詠集 蝉 嫋嫋兮秋風、山蝉鳴兮宮樹紅 白居易。
あはれさやめくらあさかるつゆのたま 槐市(麻刈:夏)
ふなひきのつまのしやうかかねむのはな 千邦(合歓の花:夏)
ゆふだちやかねききはづすひのゆふべ 史邦(白雨:夏)
ゆふだちやはすいちまいのすてあたま 嵐蘭(白雨:夏)
ひやけだやときどきつらくなくかはづ 乙州(日焼田:夏)
ひのあつさたらひのそこのうんかかな 凡兆(暑さ:夏)
みなづきもはなつきあはすすきやかな 凡兆(水無月:夏)
ひのおかやこがれてあつきうしのした 正秀(暑き:夏)
ただあつしまがきによればかみのおち 木節(暑し:夏)
じねんごのやぶふくかぜぞあつかりし 野童(暑し:夏)
ゆふがほによばれてつらきあつさかな 羽紅(暑さ:夏)
あをくさはゆいりながめんあつさかな 巴山(暑さ:夏)
なきひとのこそでもいまやどようぼし 芭蕉(土用干:夏)
※千子 去来の妹。貞享五年五月十五日没。
みなづきやあさめしくはぬゆふすずみ 嵐蘭(夕涼:夏)
じだらくにねればすずしきゆふべかな 宗次(夕涼:夏)
すずしさやあさくさもんにになひこむ 凡兆(涼しさ:夏)
くちびるにすみつくちごのすずみかな 千邦(涼み:夏)
つきぼこやちごのひたひのうすけはひ 曽良(月鉾:夏)
※月鉾 祇園祭の鉾山車。