新古今和歌集の部屋

式子内親王集 正治百首 春



202 峰の雪も又降る年の空ながら片方霞める春の通路
みねのゆきもまたふるとしのそらなからかたへかすめるはるのかよひち
峰の雪→国会本 春の曙→B本
本歌:夏と秋と行きかふ空のかよひぢはかたへ涼しき風や吹くらむ(古今 躬恒)

203 山深み春とも知らぬ松の戸にたえだえ掛かる雪の玉水 新古今
やまふかみはるともしらぬまつのとにたえたえかかるゆきのたまみつ
山深き→春海本 雪の下水→国会本・河野本

204 雪消えてうら珍しき初草の僅かに野辺も春めきにけり 新勅撰
ゆききえてうらめつらしきはつくさのはつかにのへもはるめきにけり

205 鳰の海や霞のうちに漕ぐ舟の真秀にも春の気色なるかな 新勅撰
にほのうみやかすみのうちにこくふねのまほにもはるのけしきなるかな
にほの海の→京大本
本歌:級照るや鳰の湖に漕ぐ舟の真面ならねども逢ひ見し物を(源氏物語 早蕨)

206 足引きの山の端霞む曙に谷より出づる鳥の一声
あしひきのやまのはかすむあけほのにたによりいつるとりのひとこゑ
鳥の声かな→森本

207 眺めやる霞の末の白雲の棚引く山の曙の空
なかめやるかすみのすゑのしらくものたなひくやまのあけほののそら
霞のすへは→B本・三手本岩崎本・国会本 白雪の→森本

208 袖の上に垣根の梅は訪れて枕に消ゆる転た寝の夢 新後拾遺
そてのうへにかきねのむめはおとつれてまくらにきゆるうたたねのゆめ
重ねの梅は→C本 垣根の梅花→森本 はとつれて→三手本
本歌:我が宿の垣根の梅の移り香に独り寝もせぬ心地こそすれ(後拾遺 読み人知らず)

209 眺めつる今日は昔に成りぬとも軒端の梅は我を忘るな 新古今
なかめつるけふはむかしになりぬとものきはのむめはわれをわするな
軒端の梅よ→益田本・松平本・京大本・文化九本・森本・岩崎本・三手本・神宮本 春をわするな→京大本・神宮本
本歌:東風吹かば匂ひ起こせよ梅の花主亡しとて春を忘るな(拾遺集 菅原道真)
   今はとて宿かれぬとも慣れ来つる真木の柱は我を忘るな(源氏物語 真木柱)

210 今桜咲きぬと見えて薄曇春に霞める世の気色かな 新古今
いまさくらさきぬとみえてうすくもりはるにかすめるよのけしきかな

211 待つほどの心の内に咲く花を遂に吉野へ移しつるかな
まつほとのこころのうちにさくはなをつひによしのへうつしつるかな

212 峰の雲麓の雪に埋もれて何れを花とみ吉野の里
みねのくもふもとのゆきにうつもれていつれをはなとみよしののさと
麓の雲に→春海本 みなしのの里→三手本

213 高砂の尾の上の桜尋ぬれば都の錦幾重霞みぬ 新勅撰
たかさこのをのへのさくらたつぬれはみやこのにしきいくへかすみぬ
だづぬれど→三手本・岩崎本 都の西に→A本・松平本 心の錦→国会本 幾重重ねつ→国会本・河野本
本歌:高砂の尾の上の桜咲きにけり外山の霞立たずもあらなむ(後拾遺 匡房)
   見渡せば柳櫻をこきまぜてみやこぞ春の錦なりける(古今 素性)

214 問ふ人の居らでを帰れ鴬の羽風も辛き宿の桜を 玉葉集
とふひとのをらてをかへれうくひすのはかせもつらきやとのさくらを
訪ふ人も→国会本・正治百首・玉葉集 惜しくを返れ→A本 おらでを隠れ→京大本 おしてを隠れ→春海本 をしてを返れ→河野本 羽風も辛し→C本・京大本 雪の桜を→春海本

215 霞居る高間の山の白雲は花か有らぬか帰る旅人 新勅撰
かすみゐるたかまのやまのしらくもははなかあらぬかかへるたひひと
霞ぬる→B本・三手本・岩崎本・C本・京大本・神宮本 帰る山人→C本 かへな旅人→三手本
本歌:秋風の吹き上げに立てる白菊は花かあらぬか浪のよするか(古今 道真)

216 夢のうちも移ろふ花に風吹きてしづ心なき春の転た寝 続古今
ゆめのうちもうつろふはなにかせふきてしつこころなきはるのうたたね
夢の中に→ごっかいほん 風吹ば→B本・三手本・岩崎本・C本・京大本・神宮本・国会本・河野本・続古今集
本歌:鶯の鳴く野辺ごとに来て見ればうつろふ花に風ぞ吹きける(古今 読み人知らず)
   宿りして春の山邊に寝たる夜は夢の内にも花ぞ散りける(古今 貫之)

217 今朝見れば宿の梢に風過ぎて知られぬ雪の幾重ともなく 風雅集
けさみれはやとのこすゑにかせすきてしられぬゆきのいくへともなく
宿の桜に→B本 宿の梢も→森本 風吹きて→B本 知られぬ雪の→三手本 知らぬ雪の→森本 幾へともなき→B本 幾へとも無し→国会本 桜散るこの下風は寒からで空に知られぬ雪ぞ降りける(拾遺 貫之)

218 今は只風をも言はじ吉野川岩越す花に柵もかな 続後撰
いまはたたかせをもいはしよしのかはいはこすはなにしからみもかな
岩越す花の→B本・三手本 岩越す波の→C本・国会本・河野本 岩越す波に→益田本
本歌:山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり(古今 列樹)

219 花は散りその色となく眺むれば虚しき空に春雨ぞ降る 新古今 
はなはちりそのいろとなくなかむれはむなしきそらにはるさめそふる花は散りて→A本・松平本・B本・C本・京大本・神宮本・文化九本・森本 空しき空ぞ→京大本 春風ぞ吹く→B本・A本・松平本
本歌:暮れがたき夏のひぐらし眺むればそのことなくも物悲しき(伊勢 四十五段)

220 水茎の跡も止まらず見ゆるかな波と雲とに消ゆる雁金
みつくきのあともとまらすみゆるかななみとくもとにきゆるかりかね
水くの→森本 見ゆる雁金→C本 帰る雁金→岩崎本・三手本・夫木抄 冴ゆる雁金→春海本

221 鳴き止めぬ春を恨むる鴬の涙なるらし枝に掛かれる
なきとめぬはるをうらむるうくひすのなみたなるらしえたにかかれる
鳴き止むる→益田本 吹き止むる→C本・京大本・森本・神宮本 春を恨むか→京大本 花を恨むる→国会本・河野本 涙なからし→三手本・神宮本 枝に返れる→A本

参考
式子内親王集全釈 私家集全釈叢書 奥野 陽子 著 風間書房
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