187 旅人の跡だに見えぬ雲の中に馴るれば馴るる世にこそありけれ
たひひとのあとたにみえぬくものうちになるれはなるるよにこそありけれ
なかればなるる→C本・京大本・神宮本
本歌:白雲の絶えず棚引く峰にだに住めば住みぬる世にこそ有りけれ(古今集 惟喬親王)
188 急がずは二夜も見まし草の庵の向かひの山に出づる月影
いそかすはふたよもみましくさのいほのむかひのやまにいつるつきかけ
いそかすみ→C本 二にもみまし→京大本 向の山も→岩崎本・三手本
189 露霜も四方の嵐に結び来て心砕くる小夜の中山
つゆしももよものあらしにむすひきてこころくたくるさよのなかやま
露霜に→C本・京大本・ 霜しもも→国会本 四方の嵐の→C本 結びきき→C本 さやの中山→春海本
190 行き止まる方やそことも白雲の紅葉の蔭や旅人の宿
ゆきとまるかたやそこともしらくものもみちのかけやたひひとのやと
方やそこもも→松平本 白雲や→益田本
本歌;世の中はいづれかさして我がならむ行きとまるをぞ宿とさだむる(古今集 読み人知らず)
191 眺むれば嵐の声も波の音も吹飯の浦の有明の月
なかむれはあらしのこゑもなみのおともふけひのうらのありあけのつき
嵐声も→国会本 ふけるの浦の→C本
192 河舟のうきて過ぎゆく波の上に東の琴ぞ知られなれぬる
かはふねのうきてすきゆくなみのうへにあつまのことそしられなれぬる
かきて過ぎゆく→B本・岩崎本・三手本 しられ(べ)馴れぬる→三手本・岩崎本
本歌:逢坂の関の彼方も未だ見ねば東の琴も知られざりけり(後拾遺集 大江匡衡)
本説:倭琴緩調臨潭月 唐櫓高推入水煙(和漢朗詠集 遊女 源順)
193 逢はじとて葎の宿を指してしを如何でか老いの身を訪ぬらむ
あはしとてむくらのやとをさしてしをいかてかおいのみをたつぬらむ
むくら宿を→松平本 蓬の宿を 三手本・岩崎本 さしてしも→国会本 身を尋らん→神宮本 身を尋ねけん→森本
本歌:老いらくの來むと知りせば門さしてなしと答へてあはざらましを(古今 読み人知らず)
194 今日は又昨日に有らぬ世の中を思へば袖も色変はり行く
けふはまたきのふにあらぬよのなかをおもへはそてもいろかはりゆく
けふかまた→神宮本
195 憂きことは巌の内も聞こゆなり如何なる道も有難の世や
うきことはいはほのうちもきこゆなりいかなるみちもありかたのよや
憂き事の→神宮本 巌の中も中も→C本 あるかたの世や→春海本
196 世の中に思ひ乱れぬ刈萱のとてもかくても過ぐる月日を
よのなかにおもひみたれぬかるかやのとてもかくてもすくるつきひを
197 哀れ哀れ思へば悲し終の果て偲ぶべき人誰と無き身を
あはれあはれおもへはかなしつひのはてしのふへきひとたれとなきみを
忍ぶべき人の→春海本 誰と無き身は→神宮本・京大本
本歌:偲ぶべき人もなき身はある折にあはれあはれと言ひやおかまし(後拾遺 和泉式部)
198 細蟹のいとど掛かれる夕露の何時までとのみ思ふものかは
ささかにのいととかかれるゆふつゆのいつまてとのみおもふものかは
いとかかれる→C本 いとにかかれる→三手本・岩崎本 思ふ物から→益田本 思ふのみかは→三手本・岩崎本
199 競ひつつ先立つ露を数へても浅茅が末を猶頼むかな
きほひつつさきたつつゆをかそへてもあさちかすゑをなほたのむかな
猶頼む也→C本 猶願かな→神宮本 猶頼みかな→三手本
本歌:末の露もとの雫や世の中のおくれさきだつためしなるらむ(新古今 哀傷歌 遍昭)
200 年経れど未だ春知らぬ谷の中の朽木のもとも花を待つかな
としふれとまたはるしらぬたにのうちのくちきのもともはなをまつかな
年経れば→岩崎本 年ふれて→森本 かたはるしらぬ→三手本 苔のうちの→春海本 朽ち木のもとの→B本・神宮本・C本・京大本・国会本・河内本
201 鶴の子の千度巣立たむ君が代を松の蔭にや誰も隠れむ
つるのこのちたひすたたむきみかよをまつのかけにやたれもかくれむ
つるの子を→A本 君が代と→森本 春の影にや→春海本 何しかくれん→C本 誰し隠れん→B本・京大本・河野本・神宮本・国会本
建久五年五月二日 前齋院
参考
式子内親王集全釈 私家集全釈叢書 奥野 陽子 著 風間書房
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