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オキシトシンは本当に「愛のホルモン」か?

2023-03-16 11:18:41 | 生命・生物と進化

“愛のホルモン”(love hormone)とも呼ばれるオキシトシンは、

これまで考えられてきたほど社会的絆の形成に必要不可欠なものではない可能性が出てきました。

 

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)・ワイル神経科学研究所のDevanand Manoliらのグループは、

オキシトシンが社会的絆をもたらすことを示すのに大きな役割を果たしてきたプレーリーハタネズミを対象に、

遺伝子編集技術を用いてオキシトシン受容体遺伝子の欠損した個体を作製し、

その個体が他の個体との関係を維持できるかを観察したところ、

意外にも正常な個体と同じようにつがいを形成できることを確認したのでした。

 

そしてプレーリーハタネズミの、齧歯類としては珍しく、一夫一妻的なペア関係を強固に支え、

パートナーと密接に過ごして他の異性を拒絶したり、父母で子育てをしたりといった、オキシトシンに特有とされてきた行動特性は、

オキシトシン受容体がなくても全く損なわれることがないらしいことも確認され、

オキシトシンはその複雑な遺伝的プログラムの1つにすぎないことが明らかにされたのでした。

 

おまけに、もっと古くからオキシトシンの特性として知られてきた、

出産時に陣痛を起こして分娩を促進したり、出産後には乳汁の分泌を促す働きに関しても、

遺伝子改変されたメスのプレーリーハタネズミでも出産と授乳が十分に可能であることが示され、

うち半数は離乳まで子を育て上げることもできたことが確認されています。

 

プレーリーハタネズミという動物実験の結果を、そのままヒトに当てはめることはできませんが、

こうして、オキシトシンという単一の因子が、社会的な愛着のプロセス全体を担っているとは単純に言えないことが明らかになりました。


<原著論文>

Berendzen, K. M., Sharma, R., Mandujano, M. A., Wei, Y., Rogers, F. D., Simmons, T. C., Seelke, A. M. H., Bond, J. M., Larios, R.,  Goodwin, N. L., Sherman, M., Parthasarthy, S., Espineda, I., Knoedler, J. R., Beery, A., Bales, K. L., Shah, N. M. & Manoli, D. S., 2023  Oxytocin receptor is not required for social attachment in prairie voles, in Neuron, vol.111, no.6, pp.787-96.

 

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