解雇や賃金不払いなど、労働者個人と会社間の紛争解決を目指す「労働審判制度」が2006年4月にスタートしました。
そして早くも、この制度が成果を挙げています。
事例のひとつをお伝えします。
「1ヵ月後に解雇」。3月1日、名古屋市の梱包会社に勤務する立松恵美子さん(50歳)は突然、こう通知された。
指示・命令に従わなかったという理由だが、3年近く正社員として働いてきた立松さんに心当たりはない。
社長に抗議したが、「1ヶ月分の給料は振り込んだ」と言われ、やむなく離職票にサインした。
相談した竹内平弁護士に労働審判を勧められ、4月3日に名古屋地裁に申し立てた。
1回目の審理は5月8日。10分もたたないうちに、相手の会社側弁護士が発言を求めた。
「本当に職場復帰を望んでいるのですか?」
「そうです」
「それなら解雇撤回に応じます」
そしてすぐに調停内容の協議に入り、職場復帰と2ヵ月半分の給料プラス30万円の解決金支払いが決まった。
相手の会社側は遺憾の意も表明。
完勝といえる結果だった。
「裁判をすればどれだけ時間がかかるかわからない。職場復帰までの費用を考えれば裁判は相当難しいので、泣き寝入りしていたかも」と胸をなで下ろす。
労働審判は解雇や労働条件の切り下げ、配転、出向などが対象で、パートや派遣社員も活用できる。
①迅速さ②コストの安さ③企業に対する強制力-などの特徴がある。
他の制度との違いをみてみよう。
4~6月で85件の労働審判を受け付けた東京地裁では、6月末までに15件が決着。
申し立てから決着までの平均日数は49日(最短28日、最長75日)だった。
うち12件が調停となり、7件は1回目、3件は2回目に終了している。
長期化が避けられない裁判とは対照的だ。労働関係の民事訴訟は決着までに平均1年かかるのです。
労働者に与える精神的な負担は相当大きい。
通常の裁判では延々と書面のやりとりで主張を展開し合うのに対し、労働審判では審理に入るとほとんど口頭で意見を述べる。「審判員は会社の矛盾を突く質問をすることが多い」。
会社側の回答がいいかげんだと裁判官の心証を悪くして、労働者側に比較的有利な展開になりやすいようだ。
コストについては労働審判は裁判の原則半額。請求額が1千万円なら、申し立て費用は裁判が5万円で、労働審判なら2万5千円。
労働審判で決着せず裁判に移行した場合でも、残り半額を払えばよい。
労働紛争解決の簡単な手段に、都道府県労働局が窓口の「紛争調整委員会によるあっせん」もある。
費用無料で、1回で決着するメリットはあるが、労働審判と違って企業に対する強制力はなく、企業が出席を拒むことも多い。
賃金不払い問題で労働審判を利用した50歳代の男性も最初に相談した労働局では、「会社側がこれ以上払わないと言ったら終わりです」と言われた。
この男性は今月5日の労働審判でほぼ要求どおり、300万円の支払いが認められた(会社側は異議を申し立てたが、最終的に275万円の支払いで和解の方向)。
労働審判では裁判所に払う申立て費用は少額で済むので、弁護士をつけずに自分で申し立てれば、裁判にかかる費用をかなり抑えられる。
弁護士に払う着手金は事例により異なるが、20万~30万円程度かかるのが一般的だ。
もうひとつの事例もお伝えします。
松本宏美さん(仮名・41歳)は2月末、年初に就職したばかりのコンサルタント会社で解雇を通知された。
3月分の給料は支払われたが、解雇に納得できない松本さんは連合ユニオン東京を訪ねた。
千円を支払い組合員になった。
白川書記長と相談しながら申立書や陳述書を作成するとともに、経過日誌や賃金明細書などの証拠書類を集めて、4月12日に労働審判を申し立てた。
5月26日の1回目の審理で、会社3ヵ月分の給料として75万円を支払う調停が成立した。
ただ白川書記長は同席を認められず、審判員はひとりで出席した松本さんに1回目で決着するよう強く働きかけた。
「だれか同席していれば、言われるばかりではなく金額も上げられたのでは」と振り返る。
徳住堅治弁護士も「個人だけでは調停案が示された際に反論しにくい」と指摘する。
それでも法曹関係者の間では「最終的には個人だけで利用できる制度にしたい」との意見が大勢。
当面は弁護士費用を払う余裕がない場合、準備作業などについて連合ユニオン東京などの地方組織に相談するのも一案だろう。
上記のように、解雇や賃金不払いトラブルの救済の切り札として、労働審判制度がパートや派遣社員を含めた労働者の方に重要な制度になると考えられます。
安いコストで2ヶ月で決着するこの制度を覚えておくと良いですね。
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