昭和五十一年三月発行渡邊武著わかりやすい漢方薬
p47 肥満児という文明病 相撲界の人気を背負って立っている貴ノ花関が、去年の秋場所、優勝して横綱への足がかりをつかんだのは、体力と気力の充実がその理由にあげられています。
が、実はその体力の充実には、漢方による体質改善をしていたことはあまり知られていません。
この一、二年、貴ノ花関が不振のどん底にあったのは、筋肉質の軽量力士という弱点があったからです。
昨年、後援会から「貴ノ花を優勝させるために、体重を増やす方法はないか」と相談を受けました。
こうして貴ノ花関を太らせるため、漢方薬による体質改善が始まったのです。
体質は丈夫で理想的な体ですが、相撲取りという職業からすると、もう少し体重が欲しいところです。
太るには、何を食べてもよく消化し、吸収するよう消化器と肝臓機能をより高めることが第一、つぎに関取は肉食が好物でよく酒も飲んでいますが、食物を摂った分だけ栄養として身につくよう体質改善をすること、これが関取の〝肥え薬〟の秘訣でした。
貴ノ花関のカルテ
身長 184cm
体重 103kg
体格 筋肉質 もっと太りたい
体質 丈夫
嗜好品 肉、酒、コーヒー
大便 普通便
肝臓の機能を高める作用のある柴胡剤には二種類あり、腺病質でやせ型の人には小柴胡湯、貴ノ花関のような筋肉質の人には大柴胡湯が効き、胃のわだかまりや余分な水分をとります。
腸の吸収をよくするには芍薬、生姜が効果があり、体外の排泄には大黄が効きます。
こういう漢方の処方に従って肥え薬を与えました。
いくらお相撲さんでも、何でも太ればいいというものではありません。
人間の機能が働いて健康に太り、しかも体力をつけることはむずかしいことです。
この貴ノ花関の話とは逆に、最近、小学校や中学校で肥満児が増えて、医学の大きな研究課題になっています。
大阪の国立病院の三井駿一院長と対談したとき「従来の医学は、肥満児は健康体で太っていると考えていたが、それはまちがっていた」と今日の食生活のまちがいを指摘されていました。
西洋医学では肥満児を健康体と考えていました。
漢方では昔から、肥満体を、病気をいつでも受け入れやすくしている病体だ、と考えているのです。
しかし、最近の肥満児はちょっと様子がちがいます。
それは運動不足と栄養過多、それに複合汚染で、健康のバランスを崩していることに原因があるのです。
どんどん栄養を与えるものですから、ぶくぶく太る。
重大なのは、成長ホルモンを与えてどんどん太らせた豚や牛や鶏を食べるわけですから、成長ホルモンを人間が食べていると同じこと、発育ざかりの子供たちには、それがすぐ反応して人間が豚のようにどんどん異常発育で太ってきたのだからたまりません。
健康に生まれ育つはずの子供をわざわざ肥満児にしているわけですから、現代の文明だの科学は、病人を製造しているといっていいほどです。
昔は病人といえばやせ型でしたが、最近は肥満型未病人が多くなりました。
一見、健康そうですが、皮膚や頭から湯気を出して心臓が空回りした人、いつポックリ逝くかを賭けて生きている人たちです。
こんな人たちは漢方でいうなら、まず正常な体質にすることが先決です。
これを病名だけで、心臓病だの胃腸病だの肝臓病だのと、一律に治療してもどうにもならないのは、当然なことではないでしょうか。
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