一般的な技術・技能の伝承はどうであろうか?通常は、時系列を考えれば、退職と同時に後継者が雇用され、前任者との引継ぎである。接触することがなければ、在職者の中で行えばよいし、上司が責任を持てばそれで済む。接触があれば、必要なことを引き継げばよい。この段階で問題となっている後継者の技量が追従できず、退職者が不在となれば生産が落ちるとの危惧である。今までにそのような企業は見たことはないが、個人企業ではあり得ると思うが、企業組織ではありえない。退職は予め退職時期が決まっているし、突然ではないので、十分引継ぎができる機会があるからである。
企業内訓練の衰退は人材育成にかかる経費を無駄だとする経営者側の問題で、制度として無くなったことで、大問題にはなっていないのは、不思議なことであろう。問題にならないことは、制度が無くても企業が存続していれば、その企業にとって必要なかったのかもしれない。または、すでに自動化機器等の導入が進み、ほとんど業種に関係がない従業員であっても生産できるということなのであろうか、指導者側の問題にも考慮しなければならない。
企業内訓練が衰退した原因として考えられるのは、OJT(オンザジョブトレーニング)による人材育成の限界である。賃金制度の変更は、その原因の一つといわれている。年功序列型賃金制度は、賃金を考慮しなくても先輩後輩の関係が維持できるが、成果・実績型の賃金制度に代わると、先輩後輩関係は崩壊し、指導者対子弟という関係は崩れる。意識的に教えなくなるといわれる。
更には、生産人口の減少であり、時間的な余裕の減少である。生産現場は効率を上げるために極度に数値化され、個別に能力に合わせ、スケジュール管理が徹底されている。ノルマに追われ、生産効率が高められる。場合によれば自動化され無人化を引き起こす。人を介さず24時間稼働する自動化工場は、異様に映る。照明が消えた工場内に作業者は見当たらない。制御室に数人いるだけで、情報管理機器の監視員である。すべての生産工場は無人化まで至っていないが、その傾向は今後も進むであろう。
このような作業環境を想定すれば、もはや後継者育成存続自体の意味を問われるのは至極当然なのである。従来のようなOJTを行うこと自体の意味まで失ったわけではなく、引継ぎ自体の形態、内容が極端に変化してきたといえよう。傾向としては外部人材育成機関の利用や、OFF-JTが主流となっていること、異業種交流、グループ企業、同業他社への出向等の形態を取り入れていることも頷ける。