今日のうた

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日本戦後史論 2

2015-06-15 16:02:58 | ⑤エッセーと物語
(3)もやもやその3
 大企業や金持ち優遇政策ばかりが決められていき、弱者はどんどん保障を減らされていく。
 弱者への目配りのない政権は、どのような社会を目指しているのか。

A:最近の日本は「右傾化」したと言われますが、僕はむしろ「シンガポール化」と
  呼びたい。
  シンガポールが東アジアで最も成功した資本主義国家だと思われている。
  シンガポールは国是が「経済成長」ですから。統治システムも、教育も、
  メディアも、すべての社会制度が「経済成長に資するか否か」を基準に適否の判断が
  なされる。民主主義は経済成長のプラスにならないと判断されたので、
  建国以来一党独裁が続いています。国内治安法という法律があって、反政府的な
  人物は令状なしで逮捕拘禁することができる。労働組合は政府公認のものしかない。
  大学生は入学に際して「反政府的な意見を持っていない」ことを示す公的な証明書の
  提出を義務づけられている。
  反政府的なメディアは存在しない。リー・クアン・ユー一家が首相ポストを世襲し、
  国有企業を支配している。きわめて効率的なトップダウン・システムです。
  だから「世界で一番ビジネスがしやすい国」だと言われる。
  そのシンガポールをモデルにして日本の制度も全部作り替えればいい
  じゃないかと思っている人たちが現在の安倍政権の熱烈な支持層を形成しています。
  特定秘密保護法とか、集団的自衛権の閣議決定とか、自民党改憲案の「非常事態」の
  適用による独裁制の合法化とか、あるいは学校教育法改訂による学校の
  「株式会社化」などもすべて「日本のシンガポール化」の流れだと言ってよいでしょう。
  だから、彼らを「右傾化している」と呼ぶのは見当違いなんです。
  彼らは別に戦前の大日本帝国のような日本を作りたいんじゃない。
  シンガポールみたいにしたいだけなんです。金儲けだけに特化した社会の仕組みに
  してほしいので、民主主義が邪魔なだけなんです。(内田)

(そうだったのか!次から次へと切れ目なく日本を変えていく、そのモデルが
 シンガポールだったとは!カジノ構想も然(しか)り。
 20年前に私はシンガポールに何度か行きました。その時の感想は、
 「規則でがんじがらめの国」でした。
 たとえば地下鉄にはこう表示されています。「緊急停止させた場合は罰金いくら。
 たとえそれが故意ではなく間違いであっても」。トイレに入れば「流さなかったら
 罰金いくら」。車を増やさないという政策から、車の購入にはべらぼうな税金をかける。
 当時でホンダのアコードが800万円。
 中心街に車を多く乗り入れさせないために、今日はナンバーが奇数の車だけを許可する。
 明日は偶数ナンバーのみ許可。ゴミの分別はなく、生ごみも紙もプラスティックも
 ビン・空き缶もすべて一緒くたにして海に埋め、国土を増やしていく。
 これは聞いた話ですが、誰かが故意に私の車の中に麻薬を置いた場合でも、
 私は死刑になるとか。
 すべてノー・イクスキュースの国なのです。淡路島くらいの小さな国に、
 多民族がひしめきあって住んでいるので、いちいち言い訳を聞いていたら
 切りがないのかなと、当時は思いました)
 
  シンガポールって資源が何もないんですよ。食糧もエネルギーも水さえ自給
  できないんです。だからシンガポールにとって生き延びるためには
  「まず金」というのは正しい選択なんです。
  でも、日本には世界的に見ても有数の豊かな自然がある。森林率68%というのは
  先進国では世界レベルの数字です。温帯モンスーンの湿潤で肥沃(ひよく)な
  農地が列島全体に拡がっている。水源は豊かだし、空気は澄んでいる。
  交通網も通信網も上下水道もライフラインは整備されている。
  だから、贅沢さえ言わなければ、今の手持ちの豊かな国民資源を丁寧に
  保持していくだけで、穏やかな国民生活を送ることができるんです。
  でも、それでは経済成長しない。だから、グローバリストたちは国民資源の
  ストックをゼロ査定して、「フローが足りない」とがなり立てている。
  「このままでは国が滅びると」とまで言い立てている。
  実際に、彼らは国を滅ぼしたいのだと思います。
  日本を「シンガポール化」するためには、日本にあってシンガポールにないもの、
  つまりこの豊かな国民資源を破壊することが最も効率的な方法なんです。
  原発を次々に作って国土を汚染し、TPPで小規模自営農家の存立を不可能にするのは、
  国民が最後に逃れる先であるこの「山紫水明の山河」をそこにはもう戻ることが
  できない場所に変えるための政策であり、その限りでは、たしかに非常なまでに
  合理的な選択なんです。(内田)
  (フローは、経済諸量が一定期間内に変化または生起した大きさを示す概念)

(4)もやもやその4
 福島第一原子力発電所の事故を経験し、もう一度あのような事故が起きたら日本は終わりだと
 多くの国民が気づいている。では、なぜ再稼働という話になるのか。
 なぜ多くの国民は押し黙っているのか。
 
A:『永続敗戦論』を書いた動機の一つは東日本大震災でした。
  非常に大きな衝撃を受けました。
  それだけでなく、震災以降、この国の社会、国家のあり方がはっきり違ってきた。
  ずっと覆い隠していたものが、もはや覆い隠せなくなってしまったんです。
  壊れるべきものが壊れること自体は、悪いことではないのでしょう。しかし、そこから
  新しいよきものを作り出すプロセスは平坦なものではない。まずは、平穏な外観の下に
  隠されていたどす黒いものが噴出してきているわけです。
  原発事故そのものに関して言えば、戦後日本の建前が、ほんとうに建前にすぎなかった
  ことのあらゆる証拠を突きつけられた。その建前の代表は、平和主義と民主主義です。
  どちらの価値も、この国の支配権力が本気で追及したことなど一度もなかったことが
  明らかになりました。覆い隠されていた暗いもの、薄々感づいてはいたものの見たくない
  ので見ないで済ませてきたものが、一気に表に出てきた。(白井)

  ある程度システムが機能している中での失政はきびしく批判されるけれど、システムが瓦解
  してしまったら誰も責任を問わない。東電だってそうでしょう。福島原発事故が
  もっとずっと規模の小さなもので、被害も少なければ、「徹底的な調査を行なって、
  責任者をきびしく処断する」というようなことを政府が言い出したかもしれない。
  でも、ここまで話が大きくなると徹底糾明で政府部内からもぞろぞろと
  連座するものが出てくる。それはできない。
  安倍首相の「戦後レジームからの脱却」路線はどこか破局願望によって駆動されている
  という印象を僕は抱いています。
  安倍首相のあの強硬なイデオロギー外皮は作り物だと僕は思っています。あれは外付けの
  甲冑(かっちゅう)なんです。本人だって重くて苦しい。重くて、冷たくて、痛い。
  でも自分ではおろせない。誰かにおろしてくれと頼むこともできない。…
  街ごと潰れてしまえば、自分の無能や非力は咎められない。だからシステムごと壊れる
  ような政策を選択する。すると、どういうわけかそれが受ける。日本国民も実は
  無意識のうちに「こんな国、いっぺん潰れてしまえばいいのだ」という突き放した
  気持ちを祖国に対して持っているからです。だから、安倍さんに共感しちゃうんです。
  (内田)

  実際に原発事故を徹底的に精査して、精密に被害評価をして、二度と事故が
  起こらないようにしましょうということになったら、もう事故が起きなくなっちゃう
  から、それは困るわけです。
  巨大な事故があったけれども、あれは何でもなかったということにしてぐちゃぐちゃに
  ごまかすのは、別に東電の利益を確保したいとか、関連官庁の監督責任を
  うやむやにすることが目的であるわけじゃないんです。事故をうやむやにすると、
  これからあとさらに巨大な事故が起こる
  リスクが高まる。それを待望しているんです。あんな原発事故があって、どれほどの国富が
  失われたのか計算も立たないうちに、「電力コストが安く上がるから」という理由でまた
  原発再稼働を決めるなんていうのは、コストのことをほんとうに考えていたら
  出てくるはずのない結論なんです。別に彼らは原発だと火力より金が節約
  できるからというようなちまちました理由で原発を再稼働させたいわけじゃない。
  原発を稼働させると原発事故のリスクが高まって、次に事故があったら、
  日本はもう人間が住めなくなるかもしれない。それを期待している
  から再稼働に前のめりなんです。無意識のうちに破局を求めている。
  短期的には経済合理性にかなうように見えるけど、長期的には不合理な選択を
  平然と選ぶのは、その不合理な選択こそが彼らの本当の欲望しているものだからです。
  (内田)

  国民のほとんどが脱原発派であるわけです。だけれども、
  「どっちかといえば、やめた方いい」程度の意志で、やめられるはずがない。
  それがどうやらわかっていないところが、日本国民のだめなところです。
  国家がこれまであらゆる反対意見を踏み潰して推進してきた政策なんだから、
  これを政策転換させるのはとてつもなく大変なことで、
  「どっちかといったらやめた方がいいと思います」程度の意見というのは、
  事実上の推進と同じなんです。(白井)
  3につづく

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