キタキツネのことで、思い出したことがある。
あれは数年前のことだった。
そう、今夜のようにしんしんと雪が降る夜だった。
私は、ビビという名の黒猫を膝に抱き、ベランダの窓から外を眺め、雪見酒としゃれ込んでいた。
スポットライトを浴びた粉雪が、キラキラと輝き舞い降りてくる。
そんな音のない世界を私はビビと二人で楽しんでいた。
こういう時に飲むバーボンは本当に美味い。
つい杯が進んでしまい、ビビを抱きながらうとうとしだしてしまった。
その時だった。
急に音もなく、ベランダの窓から顔を出し、振り向きざまこちらを見据えたやつがいる。
正直、私もビビもあまりの恐怖で固まってしまった。
二人とも目を見開いたまま、動くこともできなければ声を出すこともできない。
まるで金縛りにあったようなものだ。
そいつは・・・ キタキツネ。いや、キツネの面をかぶった人間のようにも見えた。
それくらい、ある種の強い意思を感じた。
私はなんとか逃れたいと思ったが、どうすることもできない。
キツネの強い目力に押さえ込まれたようだ。
だが、そのキタキツネは何事もなかったかのように音もなくベランダの窓を横切り、夜の闇へと消えて行った。
やっと金縛りが解けた私とビビは安堵の溜息をつき、私は残ったバーボンを飲み干した。
しかし、やれやれと思って足を組み直した時だった。
向かいの家の方で物凄い犬の吠え声が聞こえてきた。
実は向かいの家では『カムイ』という名の北海道犬(アイヌ犬)を飼っている。
北海道犬はヒグマの狩猟に使われてきた狩猟犬で、『カムイ』とは、アイヌ語で『神』という意味だ。
そのカムイが、また散歩中の犬に吠えているんだろうと思った。
だが、その吠え方が尋常ではない。
そのうち、凄まじい吠え声が聞こえてきた。
私はすぐに二階に駆け上がり、窓から外を眺めた。
すると、カムイが吠えていたのは犬にではなく、先ほどのキタキツネだった。
そのキタキツネは道路の中央で仁王立ちになり、カムイを見据えている。
いくらカムイが吠えても微動だにしない。
そしてしばらくたった時、そのキタキツネはカムイに対してついに一喝した。
これほどの凄みのあるキツネの声を私は聞いたことがない。
それは、「コンコン」でもなければ、間違っても「ルールルルー」ではない。
そのキタキツネは、「クゥワーーン!!」というかん高い声で一喝したのだった。
その一吠えで、カムイはおずおずと尻尾を巻いて犬小屋に隠れてしまった。
これを見ていた私は、いくら狩猟犬の血筋を引く北海道犬でも、人間のペットとして飼われていたら、野生に生きるキタキツネには敵わないんだろうなと。
そして、本当のカムイ(神)は、あのキタキツネじゃないか・・・と。
ふと、そう思ってしまった。
あれ以来、私はあのキタキツネとは会ってはいない。
あれは数年前のことだった。
そう、今夜のようにしんしんと雪が降る夜だった。
私は、ビビという名の黒猫を膝に抱き、ベランダの窓から外を眺め、雪見酒としゃれ込んでいた。
スポットライトを浴びた粉雪が、キラキラと輝き舞い降りてくる。
そんな音のない世界を私はビビと二人で楽しんでいた。
こういう時に飲むバーボンは本当に美味い。
つい杯が進んでしまい、ビビを抱きながらうとうとしだしてしまった。
その時だった。
急に音もなく、ベランダの窓から顔を出し、振り向きざまこちらを見据えたやつがいる。
正直、私もビビもあまりの恐怖で固まってしまった。
二人とも目を見開いたまま、動くこともできなければ声を出すこともできない。
まるで金縛りにあったようなものだ。
そいつは・・・ キタキツネ。いや、キツネの面をかぶった人間のようにも見えた。
それくらい、ある種の強い意思を感じた。
私はなんとか逃れたいと思ったが、どうすることもできない。
キツネの強い目力に押さえ込まれたようだ。
だが、そのキタキツネは何事もなかったかのように音もなくベランダの窓を横切り、夜の闇へと消えて行った。
やっと金縛りが解けた私とビビは安堵の溜息をつき、私は残ったバーボンを飲み干した。
しかし、やれやれと思って足を組み直した時だった。
向かいの家の方で物凄い犬の吠え声が聞こえてきた。
実は向かいの家では『カムイ』という名の北海道犬(アイヌ犬)を飼っている。
北海道犬はヒグマの狩猟に使われてきた狩猟犬で、『カムイ』とは、アイヌ語で『神』という意味だ。
そのカムイが、また散歩中の犬に吠えているんだろうと思った。
だが、その吠え方が尋常ではない。
そのうち、凄まじい吠え声が聞こえてきた。
私はすぐに二階に駆け上がり、窓から外を眺めた。
すると、カムイが吠えていたのは犬にではなく、先ほどのキタキツネだった。
そのキタキツネは道路の中央で仁王立ちになり、カムイを見据えている。
いくらカムイが吠えても微動だにしない。
そしてしばらくたった時、そのキタキツネはカムイに対してついに一喝した。
これほどの凄みのあるキツネの声を私は聞いたことがない。
それは、「コンコン」でもなければ、間違っても「ルールルルー」ではない。
そのキタキツネは、「クゥワーーン!!」というかん高い声で一喝したのだった。
その一吠えで、カムイはおずおずと尻尾を巻いて犬小屋に隠れてしまった。
これを見ていた私は、いくら狩猟犬の血筋を引く北海道犬でも、人間のペットとして飼われていたら、野生に生きるキタキツネには敵わないんだろうなと。
そして、本当のカムイ(神)は、あのキタキツネじゃないか・・・と。
ふと、そう思ってしまった。
あれ以来、私はあのキタキツネとは会ってはいない。