Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

プリート・パルン『ガブリエラ・フェッリのいない生活』

2009-03-22 00:11:57 | アニメーション
現在、ラピュタ阿佐ヶ谷で開催されているラピュタアニメーションフェスティバルは、エストニア特集です。そこでエストニアを代表する作家プリート・パルンの最新作『ガブリエラ・フェッリのいない生活』を観てきました。

最初に断っておきますが、ぼくはプリート・パルンの作品はどちらかと言えば苦手で、特に『ホテルE』は悪い意味で衝撃でした。意味が分かる分からない、つまるつまらないの次元ではなく、生理的に気分が悪くなったのでした。退屈なアニメーションはたくさん観てきましたが、こんな作品は初めてでした。とても評価している人がいるのが信じられないくらいです。

だから、この『ガブリエラ・フェッリ』も観る前から不安で、決して楽しみにはしていませんでした。ところが実際に観てみると、想像よりも楽しめました。様々なストーリーが交叉して最終的に一つに収束してゆく方法は『草上の朝食』を思わせますが、今作は更にユーモラスでコミカルな表現が加わり、飽きさせません。また特筆すべきは音楽、というか効果音で、泥棒の手の動きがあの「シャキーン」という刃物を出したときの音なのは抜群の選択だったと思います。それで物語全体にメリハリが付くんですよね。他の登場人物にしても、どこかアニメ版『鉄コン筋クリート』を思わせる肉体の動きとその動作に付けられた効果音がよく映像にマッチしていました。絶妙だったと言ってよいでしょう。リアリズムではない、ある種の感覚的な合わせ方(動作と音の)ですので、好悪は分かれるかもしれませんが、ぼくには心地良かったです。

『人狼』のような写実を突き詰めたアニメーションと、『ガブリエラ・フェッリ』のようなデフォルメされたキャラクターが超現実的な世界を闊歩するアニメーションと、どちらがより優れているか、という質問には答えがありませんが、『ガブリエラ・フェッリ』は後者のタイプの一つの到達点ではあるかもしれません。構成や演出も上手いですし、バランスがよかったです。もっとも、誰が観てもおもしろいと感じるか、と聞かれれば、「ノー」ですけどね。ぼく自身、すばらしい作品だとは思いますが、それほど楽しめたわけではなかったですから。

そういえば、公式パンフレットのパルンへのインタビューで、パルンがおもしろいことを言っていました。曰く、「(私は)エストニアの中で村上春樹について一番詳しいとおもう」。その理由として、エストニア語に訳された春樹の作品は2作だが、自分はロシア語で15冊くらい読んでいるから、とのこと。なんて純朴な人なんだ。それだけで一番詳しいと言ってしまえる素朴さに乾杯です(皮肉ではないです)。それともただの冗談ですかね?