2008年製作
上映時間99分
原作 藤沢周平
脚本 飯田健三郎 長谷川康夫
監督 篠原哲雄
田中麗奈/東山紀之/檀ふみ/永島暎子/村井國夫/北条隆博/南沢奈央/篠田三郎/富司純子
江戸後期、不幸な結婚生活に耐える野江はある日、1本の山桜を見つける。花に手を伸ばすと1人の武士が現れるが、彼は野江が今の婚家に嫁ぐ前に縁談を申し込んできた相手、手塚弥一郎だった。自分を気遣ってくれる人物の存在に勇気づけられる野江だったが、手塚は悪政をたくらむ藩の重臣を斬ってしまう。
藤沢作品ではお馴染みの東北の小藩「海坂藩」を舞台に、2度目の結婚も耐え忍ぶだけの日々を送る主人公に訪れた早春の出会い。
そしてそれから、心の奥に秘めた想いが、やがて導く場所とは…
雪解けの里山に咲く山桜の下で、運命を変える出会い。
野江にとっては思いがけない、弥一郎にとっては懐かしい出会い…
「今はお幸せでござろうな?」
去り際にそう気遣ってくれた―…
弥一郎の人となりに触れる事もなく、一度も相まみえる事もなく縁談は母によって断られ
同じく下級武士の磯村に嫁いだ野江はその言葉だけで嬉しかった。
磯村は、武士とは思えぬ金銭に対するなりふり構わぬ執着で、
格上の野江の実家に対する屈折した思いを、「出戻り」と罵倒し留飲を下げる有様。
そんな磯村を、恐らくは手塚は知っており、なので別れ際に野江の現在に触れ
幸せかと問われ「はい」と応えた野江に、「案じておったが、それは何より。」
息詰まる婚家での生活に耐える野江の心に小さな灯がともる・・・
山桜に引き寄せられた、ただ一度の出会いであった―。
一方で飢饉に苦しむ農民を間近に見てきた弥一郎は、一度握り飯を分け与えた少女の墓を前に
一身を懸けて悪の根幹を斬る覚悟をし――
静かにこの時代を生きる人々の暮らしぶりを伝え、そうして生きるしかなかった
武家の女性の悩みと苦しみ、
それを甘んじながらも辿り着く自分の場所までの、遠い、でも、
希望に満ちた回り道を描いた、胸を熱くさせる愛おしい作品でした。
セリフも音楽も、極限まで抑えられていながら飽きさせることはなく、
厳しい冬を堪えて咲き誇る山桜の、清々しい美しさが
そのままこのふたりの姿であるように感じるラスト・・・良かったです。
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