疫病禍で自宅謹慎の世情は常日頃から引き籠りの隠者には影響も少ないが、諸賢のご心痛はお察し申し上げる。
ここは自宅で聖なる音楽でも聴きながら、浄心をもって落ち着いて対処したい。
良い音楽は外界の雑音を打消し雑念を滅却してくれる。
また強い情景喚起力もあって、例えばシベリウスを聴いていると清澄な北欧の森の空気を吸っているような気持ちになれる。
聖性を持つ音楽では定番のクラシックの中で、ドイツ浪漫派の交響曲は大袈裟と言うかBGMとしてはややうるさい。
室内楽かピアノ曲のあまり強弱の無いものが適していると思う。
現代でも神聖さを失わない物は少なくなったが、宗教音楽の真に心の籠もった演奏には音の結界による浄化力がある。
写真のCDは以前にも触れたジャズ界の巨人キースジャレットがバッハの平均律をチェンバロで弾いた物。
毎日同じ祈りを数十年も続けるような淡々とした音色は、私の闘病生活時に大きな慰めになってくれたので、苦難を迎えた人々の精神安定にも役立ってくれると思う。
強弱のつかない単調なチェンバロの音を聴きながら中世修道院の生活を観想したりするひと時は、老境の精神にふさわしい深さと重厚さをもたらしてくれる。
引き籠り生活の中では茶事が大きな楽しみとなる。
しかし珈琲紅茶時のBGMは当たり前なのに、何故か茶道の流派などでは音楽は軽視されているので御手本や定番は無く、各々が自分なりの茶事に相応しい楽曲を選定するしかない。
抹茶に合う音楽は通常時でも難しい。
邦楽方面はあまりにも伝統墨守に過ぎて表現力の幅が足りず、耳の肥えた現代人に繰り返し何度も聴いてもらえるとは思えない。
どなたか妙音天の如き至上の邦楽を御存知なら、是非ご教示頂きたい。
今の世を憂い犠牲者を悼む茶には、色々迷った末にララ・ファビアンのアダージョとブロークンヴォウをお薦めしよう。
(アルバム LARA FABIAN)
「僕の地獄に音楽は絶えない」
大ヒットしたアクエリオンのテーマの歌詞で、子供向けのアニメソングにしてこの深遠な詩は当時かなりのインパクトがあった。
若い時に強く印象付けられた音楽は一生忘れないものだ。
その頃の子供達が大人になった今、この世情の中でも深く人生を味わいながら生き抜いてくれる事を願う。
©️甲士三郎