初夏になると鶯の声が楽しげになって、春よりずっと長く鳴くようになる。
また我が楽園加護の瑞鳥である蛾眉鳥は、鶯より更に長く豊富な節回しで歌う。
色々な鳥の声を真似て取り混ぜアレンジした歌を、持ち前の極上の美声で聴かせてくれるのだ。
写真は小雨ながらも画室の窓外の枝垂桜に止まって歌う蛾眉鳥。
この瑞鳥の声の結界によって、日頃から我が楽園の清澄が保たれている気がする。
ーーー鳥の声谷戸一円を包み込み 濁世の音を阻む盾なすーーー
アッシジの聖フランチェスコはいつもパン屑に来る小鳥達と会話していた。
私も庭に来る鳥達に餌をやりたいと思うのだが、鎌倉では野生動物には餌やり禁止なので食物は偶像の鳥にやるしかない。
隠者の耳目を楽しませてくれる鳥達に感謝して、彫像を祭壇に祀って供物を捧げよう。
置床(おきとこ)に染付花鳥図の清朝花瓶とカナダのバードカービングの鴨を安置し、鍋島の孔雀形小皿にビスケットをのせた。
鴨は永福寺跡の大池や我家の脇の小川によく居て、今年も子鴨が元気に育っている。
私は実在の鳥にはあまり詳しくなくて鴨の種類の見分けはつかない。
画業の方では伝説上の鳥ばかり描いているので、それで不自由しないのだ。
百合の対面の壁にもう一種飾って、楽園らしく部屋ももっと華やかにしよう。
こちらは色絵花鳥図の青手古九谷に芍薬を入れ、東南アジアの蝋細工の軽鴨を脇に遊ばせた。
この軽鴨は背中に糸芯が出ていて、何と蝋燭になる。
せっかくの可愛い鳥を燃やしてしまう人がいるのだろうか。
色絵磁器の花瓶は生花の色と喧嘩する色調が多いが、青九谷は深い緑が主色なので多様な花に合わせ易い。
肝心の蛾眉鳥の木像は十年以上も探しているのに見つからない。
元々清朝皇帝が珍重した渡来の鳥なので、我が国には無いかも知れない。
日本では隠者の楽園だけに生きる、幻の鳥と言う事にしておこう。
©️甲士三郎