ーーー行く春の百年褪せぬ色絵茶器ーーー
明治から大正時代の色絵磁器は、当時日本の輸出産業の花形だった。
職人芸の精緻を極めた絵付けのティーカップや皿は、ヨーロッパやアメリカで流行していたジャポニズムと相まって飛ぶ様に売れたと言う。
一方では日本国内でも中産階級の増加によって大衆文化が花開き、国民の生活レベルも上がって来た頃だ。
鈴木清順監督の大正3部作の映画に、鎌倉の風景や暮しが登場している。
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ここは映画「陽炎座」に出てきた近所の橋。
ちょうど人力車が止まったので、褪せた色調で写させてもらった。
花陰の家屋も大正〜昭和初期の建築。
そんな時代に活躍した鎌倉文士達(鎌倉文士の呼称は昭和2〜3年から)の卓上を、百年振りにヨーロッパから里帰りした当時のティーセットで再現してみよう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/96/f81064ea103f2c5a74f4f467f7142f75.jpg?1618459785)
(オールドクタニ MARUKO 大正〜昭和初期)
明治大正の生活文化は古き良き和の文化が廃れ、旧家知識人達も和洋折衷の生活様式に変わって行った。
上のカップ&ソーサーは100年振りにイギリスから里帰りした九谷の物で、ジャポニズムの絵柄が当時の良家の暮しを彷彿とさせる。
鎌倉文士や没落華族達の頽廃耽美振りに対して、大衆向けのティーセットには明るく健康的な俗っぽさがある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/fe/647073d0cc3f2ca515306c351c246dc6.jpg?1618459801)
(九谷赤絵美人画ティーセット 大正〜昭和初期)
大正浪漫の夢幻に浸るなら輸出用高級ティーセットよりこの印判赤絵のセットの方だろう。
行く春の候は前回の吉井勇らの歌集詩集を眺めながら、こんなカップで薔薇茶などを楽しんでこそ鎌倉人と言えよう。
ーーー絵の中に美女封じ込め春の果ーーー
©️甲士三郎