地方自治体の原子力損害賠償について、平成23年8月5日中間指針は次のような指針を示している。
”地方公共団体等の財産的損害等
(指針)
地方公共団体又は国(以下「地方公共団体等」という。)が所有する財物及び地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業に関する損害については、この中間指針で示された事業者等に関する基準に照らし、本件事故と相当因果関係が認められる限り、賠償の対象となるとともに、地方公共団体等が被害者支援等のために、加害者が負担すべき費用を代わって負担した場合も、賠償の対象となる。”
この指針は、地方自治体の損害となる代表的なものについて示されている。
①所有する財物
②地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業に関する損害
③地方公共団体等が被害者支援等のために、加害者が負担すべき費用を代わって負担した場合
の3つが示されている。
①、②については、中間指針で示された事業者等に関する基準に沿ったものであること、本件事故と損害との間に相当因果関係が認められることが要件とされている。
中間指針の「備考」で示されているように、これらは私企業が被った損害と別異に解する理由が認められないからである
「地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業」とは、水道事業、下水道事業、病院事業等の地方公共団体等の経営する企業及び収益事業等をいう。
③は加害者(東京電力)に代わっての立替えの場合であるので、東京電力が本来支払うべきものなのか否かということが問われることになる。
①~③以外の自治体の損害については、どう考えるべきか。
この点も、「備考」には一応書いてあるが、「地方公共団体等が被ったそれ以外の損害についても、個別具体的な事情に応じて賠償すべき損害と認められることがあり得る。」という素っ気ないものであって、損害となりうることを認めているという点にしか意味がなく、それ以外には何も述べていない。
自治体の税収の減少については、どう考えるべきか。
この点は以下のように「備考」に記載されている。
”他方、本件事故に起因する地方公共団体等の税収の減少については、法律・条例に基づいて権力的に賦課、徴収されるという公法的な特殊性がある上、いわば税収に関する期待権が損なわれたにとどまることから、地方公共団体等が所有する財物及び地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業に関する損害等と同視することはできない。これに加え、地方公共団体等が現に有する租税債権は本件事故により直接消滅することはなく、租税債務者である住民や事業者等が本件事故による損害賠償金を受け取れば原則としてそこに担税力が発生すること等にもかんがみれば、特段の事情がある場合を除き、賠償すべき損害とは認められない。”
法律的な回りくどい表現になっているが、要は、自治体の税収の減少は、民間事業者の売上が減少するのとは同視できないから、原則は損害にはあたらない、というのが中間指針の考え方です。例外的な場合(=特段の事情がある場合)がありうることは示唆されているが、どのような場合に特段の事情が認められるかは明示されてはいない。
この考え方は、中間指針のQ&A(問146)でより一層明らかにされている。
問146は、「避難等に伴い住民の県外移住・定着により、被災市町村での人口が減少した場合、住民税の減少は賠償対象になるのか」と問い、その答えとして、中間指針の立場を繰り返した上で、「避難等に伴い住民の県外移住・定着により、被災市町村での人口が減少した場合の住民税の減少分も、特段の事情がある場合を除いては、賠償すべき損害とは認められません」とされているのである。