南斗屋のブログ

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「地方公共団体の税収減について」(平成25年10月原子力損害賠償紛争審査会)

2020年10月22日 | 原子力損害

 平成25年10月原子力損害賠償紛争審査会で、「地方公共団体の税収減について」の考え方が示された。

 地方公共団体の税収減については、中間指針(平成23年8月5日)で考え方が示されているが、その原則(税収減があっても損害とならない)にあてはまる例と、例外的に税収減があっても損害として認められるものを示している。
税収減があっても損害とならないものとして次のものが挙げられている。
①徴収率の低下による税収減(租税債権は有している)
②震災復興特別交付税により財源措置されるもの
③納税義務者が賠償金の支払いを受けることにより、後日税収に結びつくもの
 まず、①は租税債権自体は有しているのであるから、一時的に徴収率が低下しても損害とはならないことを意味している。中間指針では、「地方公共団体等が現に有する租税債権は本件事故により直接消滅することはない」という表現により、この点は明示されていた。
②は、税収減が生じていたとしても、震災復興特別交付税により財源措置されていれば、損害自体が存在しない又は損害の填補がなされたという考え方に基づくものであろう。この点は、中間指針には述べられていなかったので、「地方公共団体の税収減について」で初めて示されたものである。
③は、例えば、住民税のようなものである。原発事故により就労できないことで、所得が減少する。それに伴って、翌年度の住民税は減少するが、個人の就労不能損害について東京電力が賠償すれば、逸失利益分については課税されるので、税についての損害はその時点でなくなるということである。中間指針では、「租税債務者である住民や事業者等が本件事故による損害賠償金を受け取れば原則としてそこに担税力が発生する」という表現によりこのことが示されていた。

 「地方公共団体の税収減について」では、上記①~③の具体例を挙げるほか、次のようなコメントをしている。
「使途を特定しない一般財源となる普通税の減収の多くは普通交付税で実質的には財源措置されること、税収を得て実施する事業の一部は震災又は事故の影響等により支出が減少していること等もあり、一般に税収減を地方公共団体の損害として賠償の対象と認めることは困難である」

 このように、地方公共団体の税収減については原則認められないとするのが原賠審の立場であるが、「目的税を財源とする事業」については損害と認めるとの考えを打ち出したことが注目に値する。
 「地方公共団体の税収減について」の記載をそのまま挙げておく。
“ただし、少なくとも以下のような本件事故による税収の減については、賠償すべき損害として認めることができるのではないか。
○目的税を財源とする事業のように税収と事業支出の連動性が高い事業であって、交付税による財源措置がされず、事故後も実施が必要な事業に係る税収の減“
 平成25年9月10日の原賠審での田口原子力損害賠償対策室長代理の発言を踏まえると、上記の点は理解がしやすい。
“【田口原子力損害賠償対策室長代理】  例えば、我々、県の方から伺ってございますのは、目的税でございます狩猟税というのがございますが、これについて、猟をされる方が減ったということで、税収が減っているわけでございますが。もちろん、猟をされる方が減ったことによって支出も減る部分もございますが、やはりベースになっている事業、猟場の整備みたいなものがございまして、それは引き続きかかるということで、基本的には、賠償されないとやらなければいけないことができないという状態なわけでございますが、福島県の場合は、一般会計から繰入れをしまして、その必要な事業をやったということになっております。
 そうしますと、基本的には、一般会計の方に余分な支出が生じて、そこに穴が開いたみたいな格好にはなるわけでございますが、基本的なたてつけとしては、その賠償がなければ、本来やらなければいけないことができなかったのだけど、それを何らかの形で、例えば基金を取り崩すとか、あるいは予備費を使うというのもあると思いますが、そういう形でやらなければいけなかったというような事例があると思います。
 ほかにも、市町村ですと、同じようなのが、入湯税のようなものがございます。やはり温泉のお客さんが減ったので、税収が減っているのですが、やらなければいけない事業は、お客さんが減っているほど減っていないというような格好になっているかと思います。“ 


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