南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

遷延性意識障害(植物状態)者の余命認定 7

2005年10月20日 | 遷延性意識障害
 生活費の控除をすべきだという被告の主張に対しては、これを認めた裁判例と認めない裁判例とが存在し、決着がついていません。
 公刊されている裁判例の数からすると生活費を控除しない裁判例が多いのですが、この中にはそもそも被告が生活費の控除を主張しなかったケースもありますので、裁判例の数が多いというだけでは優劣がつかないと思います。
 生活費を控除すべきだとする裁判例が何を根拠にしているのかについて検討してみましょう。
 神戸地裁平成5年5月19日(交民26巻3号640頁)は、
「将来の生活費としてはもっぱら病院における治療や付添介護に要する費用に限定される」
という判断をしました。
 例えば食費については「流動食として病院における治療費に含まれる」
 被服費、教養費、交通・通信費、交際費等については、「ほぼ支出を必要としない」として、
 生活費控除率25%
としました。
 生活費控除を認めた裁判例の中での生活費控除の割合は、
  10%~50%
であり、これが認められると逸失利益が大幅にダウンすることになります。
(続)
 
 

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遷延性意識障害(植物状態)者の余命認定 6

2005年10月19日 | 遷延性意識障害
 「生活費の控除」というのは、死亡事故の被害者の逸失利益の算定で使用される概念です。
 お亡くなりになられた方は、事故後生活費を使用するということはありませんから、その分を逸失利益から差し引くという考え方をとります。
 つまり、逸失利益で計算するのは、
 得られたであろう収入ー生活費=手元に残ったであろう所得
を算出するということになるわけです。
 どのように生活費を計算するのかというと、これは一定の割合をかけることによって算出します。
 例えば、独身男性が死亡事故の被害者となった場合は、生活費控除割合は裁判上50%というのが慣例なので、
 得られたであろう収入×(1-0.5)
という計算式で算定します。
 このように、生活費の控除をすることによって、逸失利益は大きく減額されてしまい、独身男性が死亡事故となった場合は、もともとの逸失利益が半分になってしまうということになります。
 この「生活費の控除」が遷延性意識障害者のケースにおいても被告(加害者)側から主張されることがあるのです。
(続)



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遷延性意識障害(植物状態)者の余命認定 5

2005年10月18日 | 遷延性意識障害
 余命認定の問題は事実認定の問題ですから、個々のケースごとに立証をしていく必要があります。
 立証のポイントは、東京地裁の平成10年判決を参考にしていけば、まずは、被害者の状態が安定しているということを示す必要があるでしょう。
 これについては、介護者の陳述書だけではなく、医師のカルテや意見書等を証拠として提出する必要があります。
 自動車事故対策センターの統計については、サンプル数が少ない、古いという2点から今のところ退けられる傾向にありますが、今後サンプル数が増え、アップデートなものになれば、統計の信用性が増してきますから、そのようになってきた場合はこの統計には依拠できないという証拠を示す必要性がでてくるでしょう。
 その意味で、今後も余命認定の裁判例の動向には注意が必要です。
 このように余命認定については、現在は平均余命表どおりの認定がなされる傾向にありますが(私が担当したケースでもこの傾向に沿った判断がなされました)、それを前提にして被告側がさらに損害賠償額を削る方向で主張されるものが、「生活費の控除をすべきだ」というものです。
(続)

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遷延性意識障害(植物状態)者の余命認定 4

2005年10月17日 | 遷延性意識障害
 しかし、平成6年最高裁判決が出た後、逆に地裁、高裁レベルで平均余命を短く認定する裁判例がなくなり、平均余命表どおりの認定をする裁判例が増えたのです。
 最高裁が判決を出したといっても、余命認定は、いつまで生きることができる蓋然性があるのかという事実認定の問題です。
 事実認定については、地裁及び高裁の専権であって、最高裁は高裁での事実認定を前提にして、法律違反、判例違反がないかをチェックする機関なわけです。
 そうすると、平成6年最高裁判決もあくまで原審の東京高裁判決に「違法がない」としただけであって、事実認定を積極的に認めたわけではないと考えることができるのです。
 では、平均余命を認める裁判例は、平成6年東京高裁判決がベースにした自動車事故対策センターの統計をどのように考えているのでしょうか。
1 同統計はサンプル数が極めて少ない
2 植物状態患者をめぐる介助及び医療の水準は日進月歩であるが、同統計は古い時点のものしか示していない
3 被害者が手厚い介護を受けており、以上があれば、直ちに医療機関の処置などを受ける体制が整っている
というような理由があげられています(東京地判平成10年3月19日判例タイムズ969号226ページ)。
(続)

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遷延性意識障害(植物状態)者の余命認定 3

2005年10月16日 | 遷延性意識障害
最高裁平成6年11月24日判決の原審は東京高判平成6年5月30日です。
この東京高裁判決が基にした自動車事故対策センターの統計資料には以下の内容が記載されています。

昭和54年8月から平成2年3月末までの1794名の介護料受給者のうち、
 植物状態から脱却→8%
 死亡→51.5%
 引き続き受給中→そのほか
 
 死亡者の事故発生から死亡までの期間
 5年未満 66.3%
 5年~10年 21.8%
 10年~15年 8.3%
 15年~20年 3%
 20年~    0.4%

 そして、このような統計資料を基にして、前記東京高裁判決は、被害者の余命は症状固定時から12年であると推定すると事実認定をしたのです。
 最高裁平成6年11月24日判決は、この東京高裁判決を「原審の認定判断に違法はない」として支持したのです。
(続)

 

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遷延性意識障害(植物状態)者の余命認定 2

2005年10月16日 | 遷延性意識障害
 その人があとどのくらい生きることが可能だったのかということを厳密に証明することは不可能です。
 そこで、裁判では、平均余命表を使用し、「**歳の平均余命は@@歳だから、あと@@歳まで生きることができる蓋然性がある。よって、@@歳まで生きるものとして計算する」という論理を使用します。
 ところが、遷延性意識障害者の場合は、平均余命を生きることが可能なのかどうかが問題にされ、平均余命表の平均余命どおり生きることができないのではないかという問題提起がされているのです。
 実際、遷延性意識障害者の平均余命を平均余命表よりも短く認定した裁判例は複数存在します。
 そのうちで最もよく言及される裁判例が、症状固定時から12年と認定した高裁判決を支持した最高裁平成6年11月24日(交民集27巻6号1553ページ)です。
(続)
 

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遷延性意識障害(植物状態)者の余命認定 1

2005年10月15日 | 遷延性意識障害
 交通事故により遷延性意識障害となった方の訴訟を担当した時に、色々問題となったことを書き留めておきたいと思います。
 まずは、余命認定の問題から。
 遷延性意識障害というのは、耳慣れない言葉と感じる方もいるかもしれません。
 世間的には、「植物状態」の方がピンとくるのでしょうか。
 医学的には、以下の6項目を満たし、それが3ヶ月以上継続してほぼ固定している状態をいいます。
 1 自力で移動できない
 2 自力で食物を摂取できない
 3 糞尿失禁をみる
 4 目で物を負うが認識できない
 5 簡単な命令には応じることもあるが、それ以上の意思のの疎通ができない
 6 声は出るが意味のある発語ではない
 交通事故の請求では、逸失利益を請求していくことになりますが、後遺障害の場合、この逸失利益の計算は、
 収入×67歳までの一定の係数(ライプニッツ係数)
という算定式で行われ、67歳まで生きることが前提とされているのですが、遷延性意識障害者が、67歳まで生きるのだろうか?ということが損害賠償額を下げようとする加害者側からは問題として提起されてきます。
(続)

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女子の逸失利益は男子よりも低い 1

2005年10月13日 | 年少女子の逸失利益問題
 例えば、10歳の男子と同い年の女子が交通事故により死亡した場合、損害賠償額は同じでしょうか?
 現在の算定方法だと損害賠償額は異なる!ということになります。
 この原因は、逸失利益の額がことなるからです。
 逸失利益というのは、
 ”本来なら将来収入を得ることができたのに、交通事故のために収入を得ることができなくなった、その分の穴埋め”
です。
 死亡事故の場合、逸失利益は、収入をベースに算定することになっています。
 すでに収入がある人は、基本的にその収入をベースにしますが、では、いまだ職業についていない人が死亡した場合はどうするか?
 この場合、厚生労働省が出している
 「賃金センサス」
という統計を使用します。
 この統計の使用が男子と女子の逸失利益の差を生じさせてしまうのです。
(続)

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女子の逸失利益は男子よりも低い 2

2005年10月12日 | 年少女子の逸失利益問題
(女子の逸失利益は男子よりも低い1 からの続き)
 賃金センサスというのは厚生労働省が、現在の賃金を統計処理したものです。
 交通事故事件で就労していない男子が死亡した場合、
  男性の全労働者平均賃金
という項目を使用して、逸失利益を算定します。
 就労していない女子が死亡した場合は、
  女性の全労働者平均賃金
という項目を従来は使用していたのです。
 そうすると、
 男性の全労働者平均賃金と女性の全労働者平均賃金
が等しくない限りは、逸失利益に差が生じてしまうことになるのです。
(続)
  

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女子の逸失利益は男子よりも低い 3

2005年10月11日 | 年少女子の逸失利益問題
 実際に賃金センサスではどのくらいの差があるのでしょうか。
 平成15年の賃金センサスだと
  男性の全労働者平均賃金は、547万8100円
  女性の全労働者平均賃金は、349万0300円
となり、年収ベースで実に200万円近い差が生じてしまっています。
 このような差を生じさせてしまうのは誰しもよくないと思うはずですが、この格差が固定化されているのが現状でした。
 これは最高裁が格差を容認する判決をだしていたからです。
 被害者側が、「年少者の逸失利益の計算に男女で差を設けるべき理由はない。」と主張したのに対し、
 昭和61年11月4日の最高裁判決(判例時報1216号74ページ)は、事故当時1歳9ヶ月の女児の逸失利益について、「女性労働者の全年齢平均賃金で計算しても不合理ではない」として、格差を認める判決を出したのです。
(続)
 
 

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