衣笠山でおさんぽ

  超ハイパーなボブが旅立ち、寂しくなったけれど、老犬Eセターズの鳥猟犬魂は未だに健在。

噛む犬、吠える犬

2011-08-27 23:49:10 | 
保護犬を迎えようと思ったきっかけ、それは今から10年以上も前になる。当時、息子が衰弱した白い雑種犬を家に連れ帰ってきたところから始まった。


その白い雑種犬は、くーちゃんという名前をつけた。息子が保護してきたくーちゃんから順に、現在、我家にいる犬共の様子をお伝えしていこうと思う。


くーちゃん(MIX和犬)

すっかりと肉付きが良くなり元気になった頃の画像


くーちゃんは、保護する数日前から当時住んでいた三浦市の車道や農道辺りで放浪していたらしい。弱っているらしいと見た目にも判り、息子も見かけるたびに気になっていたという。


当時の息子から、可哀想な犬がいるという話を聞いてはいたが、老衰で順に旅立った二頭のシーズー犬亡きあと、悲しみのあまり、犬を飼うのはもう止めようと決めていた。息子もそのことを知っている。


ところがある日、帰宅すると薄汚れて痩せこけた白い犬が家の中にいた。どう見ても、家の中で飼うような犬では無かった。抜け毛がひどく、人を見ると歯を剥いて威嚇する。

しかし犬は立つのさえやっと、自分で歩道の縁石にさえ足をかけられぬほどの衰弱ぶり。あばら骨や腰骨が浮き出るほどに痩せこけていた。この衰弱した犬を私が外に放りだせるわけがないと知っている息子は、元気になるまで面倒を見させて欲しいと言った。


人間不信が強く、保護してきた息子以外の家族にはなつかず。目を合わせるだけですぐに歯を剥いて唸る。近づいた瞬間、突然、足や手に噛みついてきた。くーちゃん位の大きさの犬が本気で噛めば大けがをする。だから彼の場合は、脅しの噛みつきであった。さらに来客にも吠える、何かの拍子に、動けば突然噛みつく行為が見られた。


放浪期間が長かったのか、身体にはとても大きなイボのようなダニが無数。掃除機をかけてもかけても床に抜けおちる体毛にも我慢できず、噛みつかれるのを覚悟で、くーちゃんを抱きかかえて浴室に連れて行き、シャンプーを試みた。

すると意外なことに、突然おとなしくなりされるがままの受け身態勢。拍子抜けしたが、どうやら臆病らしいことが判明。身体を拭きながら話しかけてみた。歯を剥いたときも、無理強いせず、ただ話しかけ続けた。言葉が通じるわけがないけれど、彼の心で受け止めてもらえるようにと。


何日かは息子の部屋の中で、与えられた場所から呼んでも動かなかった。最初はフードを与えても食べず、お腹が空くと家の中のゴミ箱をあさったりしていた。獣医に連れて行くとフィラリア陽性であることが判明。心臓の血管にいつフィラリアが詰まるか判らない状況だと診断された。


その後、体力が徐々に回復し、食事と散歩に連れ出す私に心を開くようになっていった。そして一緒に暮らす家族にも心を開いていった。この頃には、突然噛みつくという行為も無くなっていた。それまでに要した時間は既に半年ほど経過していただろうか。それほどまでに、彼は深い人間不信に陥っていたのだと思う。どのような人に飼われていたのだろう。なぜ彼は放浪していたのだろう。彼の反応から、いろいろな人に叩かれたり、いじめられていたのではと思うふしもあった。


ある日TVを観ていたら、拳銃で撃つ真似をすると、死んだふりをするという犬と飼主が出演していた。まさか同じ行動をとるとは思わず、くーちゃんに向かって手で拳銃を撃つ真似をしながらバーンと言った途端、横になり、死んだふりをして驚いたことがあった。

死んだふりを教える愚か者に飼われていたことがあるのね。そんな芸を教えるなんてと心が痛んだ。くーちゃんはあの時、保護していなければ、死んだふりではなく、そのまま死んでしまっていたかもしれないのにと。犬は人間に忠実、一度教え込まれたことは忘れない。


半年も経つと、気付けばくーちゃんの人間不信も和らぎ、不思議な事に抜ける毛の量も季節の生え変わり以外は極端に減った。経験からではあるけれど、犬は環境が大きく変わると、ストレスから抜け毛も多くなるのではないかと思っている。だから温かな家庭に迎えられ、あるいは安心できる場所に迎えられた犬達は、以前の美しい毛並みを取り戻しているように思う。


くーちゃんを見ていると、放浪しながら過ごしてきた犬生が長いように感じた。しかしまた、とても賢い犬だからこそ、放浪しても生き残ることが出来たのかもしれないと思った。家の中では、座敷のテーブルで食事をしていても、欲しいと騒ぐことなく、人が席を外していても盗み食いをすることもなかった。赤ちゃんや子供が家に来ても、吠えたり、ジェラシーを感じたりするということも無かった。トイレも意外なほど早くに覚えた。

とても広いグラウンドを嬉しそうに走り回れる程に体力も回復した。教えずとも呼べば戻ってくる。雑種だけど、今まで迎えた犬の中で一番の利口犬だった。ただ、去勢せずに飼育していたため、一度だけ、放した際にどこかへ行き呼んでも戻ってこないことがあった。そのときは家族総出で散々探し回ったあげく、自宅近くの雌犬の犬小屋前にいたところを発見。無事で何よりであったが、この頃の私は去勢や放し飼いに関して、今のように考えることは無かった。


そして5年ほど経過したのち、くーちゃんは突然腰が立たなくなり、歩けなくなった。歩けないためにおむつを着用。しかし彼は何時間でもトイレを我慢する。可哀想になり、抱きかかえて外へ連れ出すと、そこで安心してトイレを済ませる。そんな日が続いていたが、ある日、私が抱きかかえているとき、腕の中で突然ぐったりと、くーちゃんの力が無くなった。見ると、心臓の動きが止まってしまっていた。

このとき既に、くーちゃんは私達にとってかけがえのない家族。まだ5年しか共に暮らしていない。私は必死に心臓の辺りを叩き、家族を呼び、咄嗟に心臓マッサージを施してみた。すると、驚いたことに心臓の鼓動が再び動き出したのだ。力ないものの再び目も開き、呼吸も戻った。


くーちゃんは丸一日、私にさよならをする時間を与えてくれたのだった。翌日、くーちゃんの心臓は再び止まり、二度とこの世に戻ることは無く、虹の橋を渡っていった。


私は再び悲しみの余り、二度と犬を迎えるのは止めようと決意した出来事であった。

コメント (7)
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