グラズーノフ:バレエ音楽「四季」
指揮:ボリス・ハイキン
管弦楽:モスクワ放送交響楽団
LP:ビクター音楽産業 VIC‐5057
私は、このLPレコードに収録されているグラズーノフ:バレエ音楽「四季」が昔から好きであった。今聴いてもやはりいい。どういいのかと言われても、ちょっと返答に窮するが、曲全体が何となくほのぼのとしており、同時にバレエ音楽特有の華やかさが随所に散りばめられているところが魅力であり、そして気楽に聴けるところがいい。このことは、グラズーノフという作曲家の持つ特質と切り離しては語れまい。グラズーノフ(1865年―1936年)は、ロシア帝国末期および旧ソビエト連邦建国期の作曲家。グラズーノフの作曲家としての特徴は、民族主義と国際主義を巧みに融和させた点にある。このため一方では折衷主義という批判もあったが、誰もがその存在感を認めていたのである。グラズーノフは、帝政時代のマリンスキー劇場の華やかなバレエを見て育ったこともあり、生涯に幾つかのバレエ音楽を残している。作曲順に挙げるとそれらは、「ショピニアーナ」「バレエの情景」「ライモンダ」「恋の術策」そして「四季」である。「四季」は、一種の抽象バレエであり、いろいろな季節の風物が擬人的に扱われ、童話風の楽しさを表しているが、特に、深い情緒と暗示性を含んでいるところが魅力となっている。そして、何より円熟した管弦楽の扱いが大きな魅力となっている。このLPレコードで指揮しているボリス・ハイキン(1904年―1978年)は、旧ソ連の指揮者。帝政時代のマリンスキー劇場は、旧ソ連時代では国立キーロフ歌劇場と名称を変えたが、バレエの殿堂としての役割は一貫して持っていた。第二次世界大戦で同劇場は大きな損害を被ったが、それをものの見事に再建し、かつてのロシア音楽とロシアバレエの光栄を取り戻した貢献者の一人がボリス・ハイキンである。モスクワ放送交響楽団は、1930年に旧ソ連の全国ラジオ放送向けのオーケストラとして設立された。旧ソ連崩壊の後の1993年に、チャイコフスキーの音楽演奏について中心的な役割を果たしたとして“チャイコフスキー”の称号が与えられ、「モスクワ放送チャイコフスキー交響楽団」となった。このLPレコードでのボリス・ハイキン指揮モスクワ放送交響楽団の演奏は、いわゆる民俗色を強く押し出したロシア人による演奏という印象は希薄で、実に洒落ていてウイットに富んだ軽快さが耳に残り、バレエ音楽としての的確なリズム感に溢れた、優れた演奏となっている。(LPC)