モーツァルト:ディヴェルティメント第17番
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1965年8月22日―23日、スイス、サン・モリッツ
LP:ポリドール(グラモフォンレコード) SE 7005
ディヴェルティメント(喜遊曲)とは、18世紀中頃に現れた器楽組曲で、深刻さや暗い雰囲気を持たず、明るく、軽妙で楽しい曲調の曲を指す。貴族の食卓・娯楽・社交・祝賀などの場で演奏され、楽器編成は特に指定はない。同じような曲調にセレナードがあるが、セレナーデが屋外での演奏用であるのに対し、ディヴェルティメントは主に室内での演奏用作品を言う。今回のLPレコードのモーツァルトのディヴェルティメント第17番は管弦楽用で、全部で20数曲あるモーツァルトのディベルティメントの中でも最も人気のある作品となっている。全体は、全6楽章からなっているが、特に、第3楽章のメヌエットは、「モーツァルトのメヌエット」として親しまれ、ヴァイオリン独奏や、弦の重奏などで単独でもしばしば演奏され、広く愛好されているので、クラシック音楽リスナーならだれでもが一度は耳にしたことのある曲。作曲年代は不明だが、ザルツブルクの名門貴族ロービニヒ家の長男のジークムントのザルツブルク大学法学部卒業の祝いのために作曲された曲と言われている。このLPレコードでの演奏は、ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908年―1989年)指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。カラヤンは、1955年から1989年までベルリン・フィルの終身指揮者・芸術監督を務めていた。このLPレコードの録音は、1965年8月なので、両者の意気がぴたりと合い、”楽壇の帝王”と称されていた頃のカラヤンとベルリン・フィルの名コンビぶりをじっくりと聴くことができる。しかしその後、晩年を迎えたカラヤンは、金銭問題も絡んで、最後はベルリン・フィルと喧嘩別れをしてしまう。このLPレコードを録音した頃、両者は蜜月時代にあり、将来、離反するなどとは予想すらしなかったろう。今、改めてこのカラヤンの録音をじっくりと聴いてみると、限りなくゆっくりとしたテンポをとり、細部にわたって繊細で、微妙なニュアンスを保ち、しかも、確固とした構成力を持ったその音づくりには、甚だ感心させられる。こんなにベルリン・フィルを自由自在に操り、モーツァルトのディヴェルティメントの世界を余すところなくリスナーに伝えてくれる指揮者は、そう滅多にいるものではない。カラヤンに批判的な人もいることはいるが、このLPレコードを聴く限り、やはりカラヤンは、正統派の偉大な指揮者であったことが強く印象付けられるのだ。(LPC)