モーツァルト:セレナーデ第10番「13楽器のためのセレナーデ」
指揮:オイゲン・ヨッフム
管楽:バイエルン放送交響楽団員
発売:1974年
LP:ポリドール KI 7306
ディヴェルティメントが室内で演奏される曲を指すのに対して、セレナーデは屋外で演奏される曲を言う。両方とも、かつて貴族階級が催し物などを行う際に、その付随音楽としての意味合いを持ったものあり、通常は耳触りが良くて、気軽に聴ける作品がほとんどである。ところが、今回のLPレコードに収録されているモーツァルト:セレナーデ第10番「13楽器のためのセレナーデ」は、そんなセレナーデのイメージを一新するような充実した作品である。明るく、聴きやすいという点では、セレナーデの特徴を備えているが、内容は、何かの催しのバックグランド音楽などという範疇をはるかに超えて、一つの芸術作品として、コンサートホールで聴くのが一番似合うほどの作品に仕上がっている。モーツァルトはこの曲を25歳の時、ミュンヘンで作曲した。ミュンヘンの宮廷楽団の管楽器奏者のために作曲したのである。楽譜の表紙に“グラン・パルティータ(大きな組曲)”と書かれている通り(モーツァルトが書いたものではないようだが)、全部で7楽章からなり、演奏時間は40分を超える。これほど大規模なセレナーデともなると、通常なら一気に聴きと通すと飽きがくるものだが、モーツァルトの天分は、これほど長いセレナードでも、最後まで緊張感を持って聴き通すことができる曲に仕上げた。ここでの演奏は、オイゲン・ヨッフム指揮バイエルン放送交響楽団の管楽器奏者によるもの。バイエルン放送交響楽団は、ドイツ・バイエルン州ミュンヘン、ヘラクレス・ザールのホールに本拠を置く、バイエルン放送専属オーケストラ。設立は1949年と比較的歴史の浅いながら、現在ではドイツを代表オーケストラの一つとして、高い評価を受けている。この初代首席指揮者を務めたのがバイエルン出身のオイゲン・ヨッフム(1902年―1987年)で、ハンブルク国立歌劇場音楽総監督、バイエルン放送交響楽団首席指揮者、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団首席指揮者、バンベルク交響楽団首席指揮者などを歴任したほか、ロンドン交響楽団では桂冠指揮者も務めた。バイロイト音楽祭にもたびたび出演。オイゲン・ヨッフムの指揮ぶりは、地道な正統派であり、カラヤンのようなスター性はなかったように思う。要するに玄人好みの指揮者であった。このLPレコードでは、ヨッフムが天塩に掛けて育て上げたバイエルン放送交響楽団の管楽器奏者に対して、持ち味である正統的でがっちりとした構成美に基づいた指揮を繰り広げる。比較的ゆっくりとしたテンポで推移するが、特に管楽器の美しい音色が強く印象に残る演奏内容だ。(LPC)