メシアン:「世の終わりの四重奏曲」
(ヴァイオリン、クラリネット、チェロ、ピアノのための四重奏曲)
ヴァイオリン:エーリッヒ・グリーエンベルグ
チェロ:ウィリアム・ブリース
クラリネット:シルバーズ・ド・ペイエ
ピアノ:ミシェル・ベロフ
LP:東芝EMI EAC‐30347
メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」は、1940年に作曲された。メシアンが、第二次世界大戦においてドイツ軍の捕虜となり、ゲルリッツにあった収容所に収容されていたときに作曲した曲で、曲想は「ヨハネの黙示録」第10章第1節から第2節、第5節から第7節からメシアンが必要部分を抜き書きした文章に基づいている。初演は、極寒の収容所内の数千人の捕虜を前で、ジャン・ル・ブーレール(ヴァイオリン)、アンリ・アコカ(クラリネット)、エティエンヌ・パスキエ(チェロ)、オリヴィエ・メシアン(ピアノ)によって行われたという。全曲は、8つの楽章からなる。「8」は、天地創造の6日の後の7日目の安息日が延長し、そして不変の平穏な8日目が訪れるが、8つの楽章はその「8」に由来する、とされている。第1楽章:水晶の典礼。第2楽章:世の終わりを告げる天使のためのヴォカリーズ。第3楽章:鳥たちの深淵。第4楽章:間奏曲。第5楽章:イエスの永遠性への賛歌。第6楽章:7つのトランペットのための狂乱の踊り。第7楽章:世の終わりを告げる天使のための虹の混乱。第8楽章:イエスの不滅性への賛歌。私は、このメシアンの「世の終わりの四重奏曲」を初めて聴いたときは、実は「何とも奇妙な曲だな」という感想しか持ち合わせなかった。通常、普通の曲ならこれで正に終わってしまうのだが、最初に聴いた後になっても、この曲の存在が何となく気になってしょうがなかった。特に、最後にピアノの音が消え去っていくような荘厳な趣のある終楽章は、耳の奥に響き続けるのだ。そして、その後何回も聴いていくうちに、何か呪文でも唱えている人に自然に引き寄せられるように、今ではこの曲を聴くと一種の安らぎすら覚える程になった。こんなことを経験する曲などは滅多にあるものではない。メシアンがキリスト教に深く帰依しており、この曲が「ヨハネ黙示録」に基づいて作曲されということが、何か人を引き付けずにはおかない源泉なのかもしれない。このことと、現代作曲家としてのメシアンの才能とが融合し、不思議なメロディーと和声を持った、この名曲が生まれたのだ。メシアンの真に独創的な作曲技法は、他の多くの凡庸な現代作曲家とは大きく隔たりがある。そんな、メシアンの初期の傑作を、「メシアン・コンクール」の優勝者で、メシアンの権威者の一人、ピアニストのミシェル・ベロフ、それにクラリネットの名手ド・ペイエを含むメンバーが演奏したのがこのLPレコードである。この曲の持つ不思議な美しさを最大限引き出した名演奏といって過言なかろう。(LPC)