バルトーク:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番
ヴァイオリン:アイザック・スターン
ピアノ:アレキサンダー・ザーキン
録音:1967年3月22日(第1番)、1968年11月27日(第2番)、ニューヨーク
LP:CBS/SONY 18AC 774
名ヴァイオリニストであったアイザック・スターン(1920年―2001年)は、生まれはウクライナであるが、生後間もなく家族と共にサンフランシスコに移住したので、アメリカのヴァイオリニストとして知られている。サンフランシスコ音楽院でヴァイオリンを学び、1936年にデビューを果たす。以後、アメリカを代表するヴァイオリニストとして国際的に活躍。一方では、スターンは、教育者としても実績があり、パールマン、ズーカーマン、ミンツ、ヨーヨー・マ、ジャン・ワンなどを育てた。1960年には、カーネギー・ホールが解体の危機に見舞われた際、救済活動に立ち上がったり、映画「ミュージック・オブ・ハート」などに出演したりと、幅広い活動でも知られていた。わが国でも数多くのファンに恵まれ、日本国政府より勲三等旭日中綬章を授与されている。このLPレコードは、バルトーク:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番を収録したもの。バルトークは、ヴァイオリンソナタ第1番を1921年(40歳)、翌1922年(41歳)に第2番を書いた。バルトークは、最初、民俗音楽へ深く傾斜して作曲活動をスタートさせたことはよく知られているが、そんなバルトークが新境地開拓を目指して作曲したのがこの2曲のヴァイオリンソナタなのである。つまり、民俗音楽から、抽象的な絶対音楽へと自らを昇華させた、その始まりの曲の一つと言える。当時のクラシック音楽の潮流は、マーラーやリヒアルト・シュトラウスなど調性音楽を巨大化させた流れと、シェーンベルクに代表される12音音楽や無調性音楽の二つの流れが存在していたが、バルトークは12音音楽への傾斜を見せていた。つまり、バルトークは2つのヴァイオリンソナタを、新境地開拓というチャレンジ精神で作曲したことになる。さらに、この2曲のヴァイオリンソナタは、ピアノがヴァイオリンの伴奏に徹するのではなく、ヴァイオリンとピアノが対等な立場で演奏されるという、新しい試みの曲でもあった。このため、この2曲は、ベートーヴェンなどのヴァイオリンソナタの印象とは大きくかけ離れ、現代音楽そのものを聴くような感覚に捉われる。そのためどちらかというと一般的には“難解”な曲の部類に入るかもしれない。そんな曲をヴァイオリンのアイザック・スターンとピアノのアレキサンダー・ザーキンは、実に丁寧に心を込めて弾きこなし、この2曲からバルトーク独特の音楽性を引き出すことに成功している。2曲とも何回か聴くうちに、バルトーク特有の美意識が徐々に理解できてくる、不思議な美しさを持ったヴァイオリンソナタだ。(LPC)