★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇アイザック・スターンのバルトーク:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番

2020-04-20 09:35:11 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

バルトーク:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番

ヴァイオリン:アイザック・スターン

ピアノ:アレキサンダー・ザーキン

録音:1967年3月22日(第1番)、1968年11月27日(第2番)、ニューヨーク

LP:CBS/SONY 18AC 774
 
 名ヴァイオリニストであったアイザック・スターン(1920年―2001年)は、生まれはウクライナであるが、生後間もなく家族と共にサンフランシスコに移住したので、アメリカのヴァイオリニストとして知られている。サンフランシスコ音楽院でヴァイオリンを学び、1936年にデビューを果たす。以後、アメリカを代表するヴァイオリニストとして国際的に活躍。一方では、スターンは、教育者としても実績があり、パールマン、ズーカーマン、ミンツ、ヨーヨー・マ、ジャン・ワンなどを育てた。1960年には、カーネギー・ホールが解体の危機に見舞われた際、救済活動に立ち上がったり、映画「ミュージック・オブ・ハート」などに出演したりと、幅広い活動でも知られていた。わが国でも数多くのファンに恵まれ、日本国政府より勲三等旭日中綬章を授与されている。このLPレコードは、バルトーク:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番を収録したもの。バルトークは、ヴァイオリンソナタ第1番を1921年(40歳)、翌1922年(41歳)に第2番を書いた。バルトークは、最初、民俗音楽へ深く傾斜して作曲活動をスタートさせたことはよく知られているが、そんなバルトークが新境地開拓を目指して作曲したのがこの2曲のヴァイオリンソナタなのである。つまり、民俗音楽から、抽象的な絶対音楽へと自らを昇華させた、その始まりの曲の一つと言える。当時のクラシック音楽の潮流は、マーラーやリヒアルト・シュトラウスなど調性音楽を巨大化させた流れと、シェーンベルクに代表される12音音楽や無調性音楽の二つの流れが存在していたが、バルトークは12音音楽への傾斜を見せていた。つまり、バルトークは2つのヴァイオリンソナタを、新境地開拓というチャレンジ精神で作曲したことになる。さらに、この2曲のヴァイオリンソナタは、ピアノがヴァイオリンの伴奏に徹するのではなく、ヴァイオリンとピアノが対等な立場で演奏されるという、新しい試みの曲でもあった。このため、この2曲は、ベートーヴェンなどのヴァイオリンソナタの印象とは大きくかけ離れ、現代音楽そのものを聴くような感覚に捉われる。そのためどちらかというと一般的には“難解”な曲の部類に入るかもしれない。そんな曲をヴァイオリンのアイザック・スターンとピアノのアレキサンダー・ザーキンは、実に丁寧に心を込めて弾きこなし、この2曲からバルトーク独特の音楽性を引き出すことに成功している。2曲とも何回か聴くうちに、バルトーク特有の美意識が徐々に理解できてくる、不思議な美しさを持ったヴァイオリンソナタだ。(LPC)


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