~クライスラー名曲集~
クライスラー:愛の喜び
愛の悲しみ
レシタティーヴォとスケルツォ・カプリース
ウィーン綺想曲
中国の太鼓
美しきロスマリン
プニャーニのスタイルによる前奏曲とアレグロ
ボッケリーニのスタイルによるアレグロ
ロンディーノ
ボルポラのスタイルによるメヌエット
ロンドンデリーの歌
ヴァイオリン:ジノ・フランチェスカッティ
ピアノ:アルトゥール・バルサム
LP:CBS/SONY SOCU 59
このクライスラー名曲集のLPレコードで演奏しているヴァイオリストのジノ・フランチェスカッティ(1905年―1991年)は、日本でも数多くのファン(ただし、一度も来日歴は無い)を持った、名ヴァイオリニストであった。フランス人とイタリア人の血を引いているためか、イタリア的な明るさと、フランス的な優雅さとが混ざり合って、独特な雰囲気を醸し出していたヴァイオリニストであった。両親がマルセイユ歌劇場のヴァイオリン奏者を務めたいた関係もあり、3歳から父親の手ほどきを受け、5歳の時に公開の演奏会を開いたというから、早熟であったようだ。10歳でオーケストラと共演してベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏している。パリに出て、当初は、オーケストラの一員として活動したが、1931年からソリストとして独立。1939年には、アメリカでデビューを果たし、その名を世界に轟かすことになる。父親は、ジノ・フランチェスカッティに対し「何も沢山のヴァイオリニストの演奏を聴く必要は少しもない。クライスラーただ一人を聴けばいい」と言ったそうである。このためか、ジノ・フランチェスカッティにとって、クライスラーは陰の師というべき存在でもあったようである。このLPレコードに収められた全部で11曲のクライスラーの名曲を、ジノ・フランチェスカッティは、実に洒落た感覚で演奏しており、何回聴き直しても少しも飽きが来ないのはさすがというべきだろう。最初に書いたようにジノ・フランチェスカッティの血には、イタリア人の血とフランス人の血とが混ざっており、これによって、クライスラー独特の世界を、チャーミングな感覚で弾きこなすことに成功しているのである。クライスラーの曲は、ヴァイオリニストの力を試す試金石としてはこれ以上のものはない。ホントの実力が無ければ、クライスラーの曲の演奏で、リスナーを心から引き付けることは到底不可能だ。このLPレコードでのジノ・フランチェスカッティの演奏は、華やかさの裏に哀愁を含んだものとなっており、ジノ・フランチェスカッティが「クライスラーはこんな風に弾けばいいんだよ」とでも言っているように私には聴こえるのである。このLPレコードでピアノ伴奏をしているアルトゥール・バルサム(1906年―1994年)は、ポーランド・ワルシャワ出身。2人のコンビは1938年に始まっただけあって、十分に息の合った伴奏ぶりを披露している。(LPC)