モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番/第7番
ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー
指揮:ベルンハルト・パウムガルトナー
管弦楽:ウィーン交響楽団
発売:1980年
LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐249(A 00313L)
このLPレコードは、名ヴァイオリニストであったアルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)が、モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲の第1番と第7番を録音したもの。モーツァルトは、1775年4月から12月にかけて故郷ザルツブルクでヴァイオリン協奏曲を5曲まとめて作曲した。いわゆる“ザルツブルク協奏曲”と呼ばれる第1番から第5番までのヴァイオリン協奏曲である。この時、モーツァルト19歳であり、“ザルツブルク協奏曲”は、モーツァルトがまだ若い頃の作品となる。これらのヴァイオリン協奏曲の中では、第3番から第5番がしばしば演奏される。特に、第5番が最も演奏される回数が多いようである。このLPレコードにおいては、第1番と第7番とが取り上げられている。第1番はともあれ、問題は第7番である。この第7番は、第6番と同様に、昔から偽作ではなかという疑惑が掛けられている作品である。このうち、第7番については、モーツァルトの自筆原稿が失われているものの、自筆原稿からの写しといわれるものが、パリの私的コレクションとして保存され、ベルリンの図書館に現存するという。そこには、「モーツァルトのヴァイオリン協奏曲、ザルツブルク、1777年7月16日」と書かれているために、モーツァルトの作品に違いないとされる根拠とされている。このように、昔から第7番の真贋論争が盛んに行われてきたが、現在では、モーツァルトの作ではないとする見方がある一方で、他人による加筆がある作品ともされ、結果として、新モーツァルト全集においては偽作扱いされている。しかし、録音当時、グリュミオーは、第6番は偽作としたが、第7番については、モーツァルトの作品という結論に至ったため、この曲の録音に踏み切ったという。このLPレコードにおいて、第1番について、アルテュール・グリュミオーは、敢えてこの協奏曲に深遠さを吹き込むように配慮した演奏をしているように感じられる。若書きとも思える曲想だが、活気のある協奏曲という印象をリスナーに植え付けると同時に、来るべき名曲の森への道しるべのような作品といった位置づけをグリュミオーはしているようにも聴こえる。一方、第7番は、グリュミオーの大きく振幅するヴァイオリンの弓使いに、リスナーは釘づけとなる。あたかも名優が最高の演技を披露しているようにも聴こえるのだ。第7番の真贋論争などは、グリュミオーのこの名演の前では無力となる。(LPC)