青い花

読書感想とか日々思う事、飼っている柴犬と猫について。

風にそよぐ草

2015-10-23 06:23:55 | 日記
『風にそよぐ草』(2009年・フランス)は、アラン・レネ監督によるロマンティック・コメディ映画。熟年男女の不可解な恋を丁寧に描いている。原作はクリスチャン・ガイイ。

《歯科医師のマルグリット(サビーヌ・アゼマ)は、ある日、買い物の帰りにひったくりに遭い、財布の入った鞄を奪われた。鞄はそのまま行方知れずとなるが、金の抜かれた財布が落ちているのをジョルジュ(アンドレ・デュソリエ)が見つける。ジョルジュは、気に入らない人間を見ると心の中で「殺すか?」とつぶやくのが癖になっている不穏な50男だ。ジョルジュは、財布の中を確認し、小型飛行機の操縦免許証に貼られたマルグリットの写真を見て、彼女に興味を持つ。直接電話をして彼女に財布を返し、親しくなりたいと考えたが、結局、警察に届けた。

財布はマルグリットの手に戻った。マルグリットは、ジョルジュにお礼の電話をしたが、ジョルジュからの「会いたい」との申し出にはそっけない返事をした。カッとなったジョルジュは、無礼な態度を取ってしまう。

反省したジョルジュは、謝罪の手紙を書き、彼女の家にわざわざ出向いて、直接郵便受けに入れる。が、すぐさま恥ずかしくなり、手紙を取り戻そうと郵便受けをガタガタ揺すっているところを近所の老婦人に見咎められてしまう。不審者として通報されてもおかしくないところだが、なぜか老婦人と会話が弾み、マルグリットへの「手紙を読まないで欲しい」との伝言を引き受けて貰えた。

マルグリットは、手紙を読んだ。そして「気にしていない」との返事を出した。気を良くしたジョルジュは、自伝的な長文の手紙を書き送るが、今度は返事がもらえない。そこで、毎晩、彼女の電話に「会いたい」と、留守電を吹き込んだ。

ある晩、留守電をセットし忘れたマルグリットが電話に出た。「もう電話しないで欲しい」と言われたジョルジュは、翌朝、マルグリットの車のタイヤを切り裂き、自分がやったことを宣言するメモを残す。

マルグリットは警察に相談した。応対した警官は、ジョルジュが財布を届けた時の警官だった。ジョルジュの情緒不安定ぶりを記憶していた警官は、マルグリットに告訴を勧めるが、彼女は「注意して欲しい」とだけ頼んだ。

ジョルジュが家の壁を塗っているところに二人組の警官がやって来た。警官たちの前で酒を飲みだしたり、靴下を脱いで親指の怪我を見せたりと不可解な行動をとるジョルジュに、警官たちは不審者を見る表情を隠せない。「マルグリットに付き纏わないように」と、穏やかに諌めるが、ショックを受けたジョルジュは、立ち上がり、激高した。

ジョルジュからの連絡は来なくなった。しかし、マルグリットはジョルジュを傷つけてしまったことを思い悩む。そして、ある夜、ジョルジュの家に電話した。電話に出たジョルジュの妻・スザンヌ(アンヌ・コンシニ)から彼が今映画館にいる事を聞き出すと、映画館の前の喫茶店で待ち伏せする。

ジョルジュが映画館から出てきた。マルグリットがジョルジュに追いつくと、二人は肩を並べて夜の街を歩きだした。喫茶店に入り、向かい合わせに座った二人の会話は弾む。しかし、マルグリットが「ジョルジュとスザンヌを飛行機に乗せたい」と申し出ると、ジョルジュはガッカリして先に帰ってしまう。

今度は、マルグリットがジョルジュのことで頭がいっぱいになってしまった。歯科医院での治療が荒くなった。早退したり、欠勤したりするようになった。ジョルジュに電話したり、彼の家に押しかけたりして、彼を怒らせた。もはやどちらがストーカーなのかわからない。

マルグリットは、同僚を通して、ジョルジュとスザンヌを自分が操縦する飛行機に乗せたいと招待する。スザンヌが喜んだので、ジョルジュは申し出を受けることにしたが…》

二人は本当に愛し合っていたのだろうか?
全編を通して、不可解としか言えない応酬が続く。中心人物三人が三人ともズレた感性の持ち主。特にジョルジュの言動はエキセントリックを通り越してキチガイじみているので、治療が必要だと思う。
私はフランス映画をあまり観たことが無いのだが、私が観た数少ないフランス映画の主人公たちは悉く度を過ぎた恋愛体質で、かつ多弁。本作もそんな感じ。ちょっとついていけない面倒臭さだ。それが、フランス人気質なのだろうか?
しかし、だからといって本作が詰まらなかった訳ではない。解らないなりに最後まで飽きずに観ることが出来たのは、巧みに練られた脚本とセリフの配分、洒落た演出、小物や背景の色使い等、レネ監督の映画に対する丁寧な姿勢のお蔭だと思う。暴力シーンや過激な濡れ場など無いのに、展開の読めない会話がスリリングで目が離せなかった。
熟年という、既に安定期にある人生を送る男女。それまで全く関わりのなかった二人の人生が、ひょんなことから交差し、やがて互いの生活や心を侵食し始める。意味深なようでもあり、変人同士のゲームなだけのような気もするけど、風変りな人たちの会話とリアクションが楽しかった。
熟年の不倫というと、すぐにパンツを脱いでしまう日本映画とは異なり、電話や手紙など、言葉のやり取りに趣向を凝らす本作は、大人の余裕を感じさせ、老いらくの恋もこんな感じなら薄汚くないなと、ある種の希望を持たせてくれた。
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