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青い花
読書感想とか日々思う事、飼っている柴犬と猫について。
猫化する犬
2016-01-29 07:03:39
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日記
久々に凛の写真が撮れました。凜は寝ている時以外はだいたい動いているので、なかなか良い写真が撮れません。
犬なのに香箱座り。猫と暮らしているせいか、凜の性格や仕草は猫っぽいです。気が向かない時には、呼ばれても聞こえないふりをするところとか。犬は家族の様子をよく見ているので、その分影響されやすいのかもしれませんね。
因みに、桜は犬化していません。猫は唯我独尊ですので(笑)。
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幻談・観画談 他三点
2016-01-27 06:58:43
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日記
岩波文庫の幸田露伴『幻談・観画談 他三点』には、『幻談』『観画談』の他、『骨董』『魔法修行者』『蘆声』が収録されている。5編とも大正14年から昭和13年までの露伴50歳代後半から60歳代にかけての円熟期の作品となる。
私は幸田露伴のことを良く知らない。それどころか、中学か高校か忘れたが現国のテキストに載せられた幸田露伴の解説があまりにも酷かったため、長年敬遠していたくらいなのだ。そのテキストで露伴の代表作として取り上げられていたのは『五重塔』だったのだが、これがいけなかった。抹香臭い教訓話に少年漫画的な根性論をまぶしたような作品として紹介されていて――書き手に露伴を腐す意図はなかったのであろうが――到底手に取る気になれない内容だった。そんな訳で私にとって幸田露伴とは長らくテストに出てくる人という認識でしかなかった。
そんな私が露伴に触れることになったのは、割と最近のことで、全くの偶然出会った。
同じ日に図書館で借りた二冊のアンソロジーの両方に、偶然露伴の短編が載っていたのである。それが、『幻談』と『観画談』であった。『幻談』は宮本輝編『魂がふるえるとき』、『観画談』は澁澤龍彦監修『日本幻想文学大全〈上〉』 に収録されていた(因みにどっちにも泉鏡花が載っていた)。
幻想文学にはデカダンスなイメージが強い。
ポーやホフマンなどは明らかにそちら側の人で、夢想が現実を凌駕し、実生活を破綻させ、悲劇的な最期を迎えたでわけあるが、露伴はあくまでも常識ある市民感覚の保持者で、その生涯に大きな瑕瑾はなかった。露伴にロマン主義的な志向があったことは間違いないが、一方で己の内包する夢幻世界を教養と市民感覚で支えることの出来る現実主義者でもあったのだ。
精神に混乱を来すことなく、また、物知りの閑文学に留まることもなく、相反する二つの志向をバランスよく保持し続けたところに露伴の偉大さがある。
洒脱な語りの中で、自然描写も薀蓄も怪異も並列に並べられている。主人公は日常生活の一コマの中で異常な体験をするが、そのために発狂したり死んだりはしない。異界と俗世との間をスルリと往還し、その過程で破滅とは正反対の健全な精神を得ているようである。
『幻談』は、徳川期もまだひどく末にはならない時分、本所の方に住んでいた旗本が遭遇した怪異譚である。
《小普請入りになって閑になったその人は釣を楽しみにしていた。活計に困らず、傲慢でも偏屈でもなく、誰が目にも良い人。そんな彼であるから、釣の中でも品の良いケイズ釣りを好んだのは至極順当な話であった。
その人が老船頭の吉と共に川に出たが一匹も釣れない日が二日続いた。
いくら趣味でも余り釣れないのでは、遊びの世界が狭くなる。鷹揚なその人は機嫌を損ねたりはしなかったが、吉の方では気が済まない。客が文句を言わない分、逆に気がすくむ。既に夕まづみになり、客の方が「もうよそうよ。」と言い出しても、吉は全敗に終わらせたくない意地から、舟を今日までかかったことの無い場所へ持って行った。
余り晩くまでやっていたから、まずい潮になってきた。
二人はケイズではなく、溺死体に遭遇する。釣りに出る者にとって溺死体自体は嬉しくも珍しくもない‘お客さん’だ。しかしその‘お客さん’が固く掴んでいた釣竿は、野布袋の丸というたいへん上等の竿だった。それを見た旗本は常の彼からは考えられないような暴挙に出た…》
『観画談』はある苦学生が、療養の旅に出た先で体験した一夜の怪異譚。
《困苦勤勉の雛形そのものの如き月日を送る人がいた。
同窓生から‘大器晩成先生’と渾名されたその人は、度の過ぎた勉学のためか神経衰弱を患ってしまう。余分な金など持たない晩成先生は出来るだけ費用のかからない療養先を求めて、旅中で知り合った遊歴者に教えられたある山寺を訪ねた。雨がサーッと降り出した。
蔵海という若僧に中に通された晩成先生は、夜に入り質素な食事を出された。
殆ど雑話の無い座では寺の概略を聞き得たに過ぎなかったが、晩成先生は、ザァッという雨音の度に蔵海と和尚が暗い顔して目を見合わせるのに気がついた。
客室に通された晩成先生は、夜具に入るが深夜、和尚と蔵海に起こされる。
大雨のため渓が俄に膨れて来たので、今のうちに隠居所の草庵に映って欲しいと急かされた晩成先生は、蔵海の案内で不気味な物音のする雨の山道を草庵へ向かった。そこで、痩せ干からびた聾者の老僧とある画を観ることになる…》
明治期にデビューした作家に新鮮味を感じるのはおかしいかも知れないが、頽廃ではない幻想というのが私には衝撃だった。
もう一度『幻談』と『観画談』を読み直したいと思って、手にした本書であったが、読後、一番心に残ったのは、『蘆声』であった。『蘆声』は、『幻談』と同じく釣愛好家の物語である。
《釣好きの〈予〉が、30年ほど前に出会ったある少年との思い出を語る。
釣魚を始めてから1年ほどの頃、〈予〉は毎日のように中川べりの西袋というところで釣を楽しんでいた。
ある日のこと、〈予〉が好んで使っていた場処で、先に釣をしている12、3歳くらいの少年がいた。少年は釣に慣れていないようだった。しかし、遊びでやっている訳ではないという。母親に言いつけられて釣に出ているのだそうだ。
“下らなく遊んでいるより魚でも釣って来いってネ。僕下らなく遊んでいたんじゃない、学校の復習や宿題なんかしていたんだけど。”
合点の言った〈予〉が、
“ほんとのお母さんじゃないネ。”
と問うと、少年は吃驚して目を見張った。
少年は、打ち解けるにつれて、温和な親しみ寄りたいというが如き微笑を幽かに湛えて〈予〉の方を見るようになった。
しかし、日が堤の陰に落ち、〈予〉が帰り支度を始めると、少年は暗い顔になり、
“小父さんもう帰るの?”
と力なく声をかけてきた。
その薄汚い頬被りの手拭、その下から漏れている額のボウボウ生えの髪さき、垢じみた赭い顔…。〈予〉は、それらのすべてが少年の境遇を無残に暴露していることに気がついた。
それでも、
“今のお母さんはお前をいじめるのだナ。”
“今日も鮒を一尾ばかり持って帰ったら叱られやしないかネ。”
と心配する〈予〉に、
“ナーニ、俺が馬鹿なんだ。”
という一語で持って答え、それ以上は言わない少年の心映えの美しさに〈予〉は衝撃を受けた。見た訳でなくても情態は推察できる。しかし…》
善き人たちの、束の間だけど爽やかな交流が美しい。
少年が二度と西袋に現れなかった理由は不明だが、私は、気の毒なほど分別のある少年が、親切な小父さんの厚意に甘えてはいけないと遠慮したからではないかと考えている。
人間関係の質とはどれだけの長さを共に過ごしたかとか、どれだけ腹の中を見せ合ったとかで測れるものではないだろう。二人の関わりは淡いものだった。彼らはお互いのことを殆ど知らないまま(多分、名前も知らない)別れたのだけど、それは彼らの関係の質を少しも損なっていない。
〈予〉が少年を忘れられないように、少年にとっても〈予〉と過ごした一日の思い出は、辛かった少年時代の数少ない美しい情景として、心の支えになってきたことだろう。一つの善き思い出だけで、人間は人の世の善性を信じることが可能なのではないだろうか?
古今の文学に明るい露伴であるが、収録されている五編は、衒学趣味や技巧があからさまではなく、端正かつ平明な文体。読む人を選ばない間口の広さである。露伴に対して敷居の高さを感じていた長い年月が何だったのかと訝しんでしまう。学校教育は子供から逆に良き文学を遠ざけていると思った。
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段ボールハウス猫
2016-01-25 07:04:45
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日記
箱好きの桜のために段ボールで別宅を作りました。
桜、本日も『世界ネコ歩き』に夢中です。
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地獄でなぜ悪い
2016-01-22 06:26:59
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日記
『地獄でなぜ悪い』(2013年)は、園子温監督が自らの自主制作時代の経験を盛り込みながら血みどろのアクション満載で描いた任侠青春映画。
出演は、國村隼、堤真一、二階堂ふみ、長谷川博己など。
《自称日本一の映画バカ集団“ファック・ボンバーズ”。
構成員は、監督志望の平田(長谷川博己・高校時代は中山龍也)、元ヤンで平成のブルース・リーを目指す佐々木(坂口拓・高校時代は中田晴大)、カメラマンの谷川(春木美香・高校時代は青木美香)と御木(石井勇気・高校時代は小川光樹)。
日々、映画の自主制作に余念がない。それ以外何も考えていない。
武藤組の組長・武藤大三(國村隼)の娘ミツコ(二階堂ふみ・10歳時は原菜乃華)は、歯磨きのCMで注目の人気子役。
その武藤宅に、対立する池上組の刺客が四人押し入った。武藤は愛人の店にいて無事だったが、妻のしずえ(友近)が、刺客を滅多刺しにして逮捕されてしまう。
武藤は速やかに報復を行い、池上組の幹部を山中に埋めた。
刺客のうち唯一生き残った池上純(堤真一)は、血塗れでよろめいているところを“ファック・ボンバーズ”に撮影されつつも何とか逃げのびた。
それから10年後――。
しずえの出所の日が近づいた。
武藤は妻の労に報いるために、彼女の夢であるミツコ主演のアクション映画の製作に取り掛かる。
しかし、肝心のミツコが撮影中に男と駆落ちしてしまった。監督は腹を立て、別の女優で撮影を続行してしまう。その間に事務所が池上組の襲撃を受けたりして、思うに任せない武藤は頭に来ている。
“ファック・ボンバーズ”はアマチュアのままだった。
一本の映画も撮影していないくせに、監督気取りの平田は、閉館した映画館で熱い思いを語る。
「俺はたった1本の名作が作りたいだけなんだ。この世界には下らない映画監督はゴマンといる。何本も何本も作って家を建てているバカ、どうでもいい映画ばっかり作って金を貰ってるバカ、俺はそんなのは嫌だ!たった1本の映画でその名を刻む伝説の男になりたいんだ!いつか映画の神様が俺たちに最高の1本を撮らせてくれる日がきっと来る!」
しかし、佐々木は、もううんざりしていた。映画の夢を追いかけているうちに無駄に年を取って、気が付けば三十路目前のフリーターである。
「ふざけんな!もうやってられるか!」
怒って“ファック・ボンバーズ”を辞めてしまった。
駆落ち相手に逃げられたミツコは、偶々電話ボックスにいた見知らぬ青年・橋本公次(星野源)を偽恋人に雇い、駆落ち相手に報復を加えた。
傍でその様を見ていた公次は、ミツコが昔憧れていたCMの子役であることに気がつき、運命を感じる。
しかし、二人で道を歩いているところを武藤組のヤクザにつかまり、車に押し込まれてしまった。公次は、「組長の娘とヤッた」ということにされ、問答無用でボコボコにされた上に、事務所で武藤に殺されそうになる。武藤が刀を振るったその瞬間、ミツコが叫んだ。
「その人は映画監督よ!」
勿論出まかせで、公次は映画のことなど何も知らない。
武藤から「撮影に失敗したら殺す」と脅され、進退窮まった公次は、平田率いる“ファック・ボンバーズ”に撮影を依頼することにした。
千載一遇のチャンスに平田は、映画の神に感謝しながら喜びに震える。
佐々木のバイト先の中華料理店に押しかけ、佐々木を連れ戻すと、早速プランを練った。
主演はミツコ。その他の出演者はヤクザ+“ファック・ボンバーズ”。制作陣もヤクザ+“ファック・ボンバーズ”。リアルな殴り込みをちゃっかりドキュメント映画にしてしまうのだ。
そして、武藤組総出で池上組に押しかけ、撮影が開始された…》
日本刀でポンポン切り飛ばされる生首や手足、マシンガンでハチの巣になる人体など、普通のヤクザ映画にはない滑稽で過剰な演出は、もはやギャグ漫画の領域で爽快ですらある。
画面全体から「これは娯楽です!」という主張がバ~ンと放たれているので、本作を観て青少年への悪影響を心配する人はいないだろう。ヤクザが全員アホマヌケで全然カッコ良くないし。
漫画チックで誰一人感情移入できる人物がいないのに、全体としては好感度が高いのは、全員バカだけど真剣だからだろう。全員が立場の違いを超えて、一つの傑作を生み出すことに命を懸け、そして死ぬ。日本人の美意識にグッとくるテーマだと思った。
唯一の常識人だった公次が、怒涛のごとく襲い掛かる災難に翻弄されているうちに、だんだん壊れてゆき、生き生きとリアル殺人劇に参加していく過程に『冷たい熱帯魚』の主人公を思い出した。CMソングを口ずさみながら、駆落ち相手の口にビール瓶の破片を押し込むミツコの顔はとても怖いのに可愛らしいので、公次が道を踏み外したのも致し方ないかも。
若い二人のピュアな魅力を支え引き立てる、國村・堤・長谷川の安定した演技力が素晴らしい。本当に頭のネジがぶっ飛んだ異常者にしか見えない。この三人の好演で、荒唐無稽なストーリーに説得力が生まれたと思う。
特に國村隼の話し方が良かった。低音で、ゆったりとしていて、風格があるのに、どこか滑稽。感情の振り幅が狭いので、次の行動が予測つかなくて緊張する。ギャーギャー凄まれるより余程怖い。
全体として、夢と恋とバイオレンスがバランス良く詰まった愉快な作品であった。ミツコのCMソングは、一度聴いたら忘れられない秀作だ。
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ちかえもん
2016-01-20 06:26:32
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日記
先週木曜夜8時から、NHK総合で『ちかえもん』が始まりました。
“新感覚!痛快娯楽時代劇”だそうで、正統派時代劇ではありません。細かいことは気にせずに、人情喜劇として楽しめば良いのだと思います。
≪時は元禄16年5月――。近松門左衛門(松尾スズキ)は長いスランプから抜け出し、人形浄瑠璃の傑作『曾根崎心中』を書き上げた。
芝居小屋は連日盛況。座長の武本義太夫(北村有起哉)も舞台の上で感慨深げだ。
「近松っつあん、アンタは人形浄瑠璃の救いの神さんや」
「いや、救うたんはワシやあらへん。ワシやあらへん…」
元禄16年正月――。武本座の芝居小屋はこの日も閑古鳥が鳴いていた。数少ない観客は誰も芝居を観ていない。
「アカン…」近松は肩を落とした。
武本座の金主で、大阪で一二を争う豪商・平野屋忠衛門(岸部一徳)の宴席。近松の浄瑠璃は、観に行った者から散々にコキ下ろされていた。
そんな中で、忠衛門だけは、「近松先生は西鶴や芭蕉に匹敵する物書きだ」と励ます。しかし、近松が、「西鶴や芭蕉は下の名で呼ぶのに、ワシだけ苗字で呼ぶのは余所余所しい」と文句を言うと、「つまらないことを言ってないで、さっさと傑作を書きなさい」と怖い顔になってしまった。
家に帰った近松に、母の喜理(冨司純子)は不平タラタラであった。
町人から施しを受ける境遇を嘆き、「鯖が食べたい」を連呼しながら、「唐の王祥という男は、真冬に魚が食べたいと言い出した母のため、裸で腹這いになって池の氷を溶かして魚を獲ってきた」という孝行譚を語り出し、「お前は武士の身分と故郷を捨ててまで戯作者の道を選んだのに、大した手当も稼げずに嫁に逃げられ、50を過ぎでも母に着物一つ買えない親不孝者である」と嘆き節が止まらない。
母が親孝行に拘るのには訳があった。
時の将軍・綱吉が親孝行を奨励し、孝行者には褒美を出すので、世は空前の親孝行ブームなのである。往来には、ブームに便乗して孝行糖という飴を売る孝行糖売りたちが練り歩いていた。
近松が不景気な顔で道を歩いていると、チンドン屋みたいな恰好で「不孝糖~♪不孝糖~♪」と踊り歩く奇妙な男(青木崇高)と擦れ違った。近松は、男のあまりの異彩ぶりに思わず「不孝糖ってなんやねん?」と声をかけてしまう。「親孝行なんか糞食らえ!親孝行の何が偉いんや?」と尋ね返してきた男に、近松が王祥の孝行譚を聞かせたら、「そら、まともなもんがすることやあらへんな」と鼻で笑われてしまった。アホからアホ扱いされて不愉快になった近松。男を追い払うために「不孝糖を売りたいなら、親不孝者が集う堂島新地に行きなはれ」と適当に助言すると、男は喜んで去って行った。
その夜、堂島新地の「天満屋」。平野屋忠衛門が新興の油問屋・黒田屋九平次(山崎銀之丞)と座敷で歓談している。
忠衛門が表に出ると、放蕩息子の徳兵衛(小池徹平)と鉢合わせになった。「この親不孝者!」と息子を追いかける忠衛門。その脇の川を小舟に乗った不孝行糖売りの男が歌いながら流れて行った。
翌日も芝居小屋は不入りだった。
座長と口論になった近松は昼間から「天満屋」で酒を飲んでいた。遊女相手に愚痴と自慢話に夢中になっていたら、いつの間にかあの不孝行糖売りと二人きりになっていた。
男の名は万吉。近松の助言通りに新地で不孝糖売りをしていたら、見事大当たり。しかし、不孝行を売った客に連れられて来た「天満屋」でドンチャン騒ぎをしていたら、お勘定が足りなくなってしまい、今は居残りで働いているという。「コイツ、関わったらアカン奴やった」近松は座敷から逃げ出した。
帰り際に女将のお玉(高岡早紀)からおっかない顔で、「溜まったツケを払いなはれ」とねじ込まれた近松。
そこに居合わせた黒田九平次が、代わりに支払ってくれた上に、酒を御馳走してくれると言う。優しそうな微笑の九平次に近松は気を許す。
九平次は、近松が歌舞伎の筋を書いていた頃からのファンだと言う。九平次からベタ褒めされて、「新しく作る歌舞伎小屋の座付きになって欲しい。手当も今の五倍出す」と言われ、近松の心は揺れる。
九平次が帰った直後。
座敷に万吉が現れて、勝手に酒を飲みながら、「あれは胡散臭い」と言う。「アンタのことや、歌舞伎に戻ったところで碌なものは書けやしない。そんなことよりワイと一緒に不孝糖売りしましょうや」としつこい万吉を振り払うために、近松は、「鯖を買って来てくれたら不孝行糖売りをやってやる!」と出まかせを言った。
不入り続きのため、近松の舞台は打ち切りが決まり、後金も貰えなくなってしまった。座長と口論になった近松は、浄瑠璃に見切りをつけて九平次の世話になることに決めた。
その夜。
「天満屋」で九平次から酒を振る舞われ、煽てられ、近松は完全に舞い上がっていた。
しかし、故郷の話を訊かれた近松は、自分が子供のころから人形浄瑠璃を愛していたことを思い出し、「やはり歌舞伎には戻れない」と頭を下げた。
すると、それまで温厚な微笑を浮かべていた九平次の態度が豹変。近松は、奥の部屋に引っ張り込まれ、ドスを突きつけられてしまう。
「黙って来いてりゃなんです、アナタ?武士を辞めて浄瑠璃書きとなり、やがて甘言に乗せられて歌舞伎屋に転じ、持ち上げてくれた男が消えるとまた浄瑠璃に戻り、五倍の手当てをチラつかせられるとまた歌舞伎に戻ると言ったくせに、直後に前言を翻すアナタ、いったい何がしたいんです?」
九平次には大きな目論見があると言う。そして、そのコマとして近松が必要なのだ。
近松は、首にドスを当てられ、無理やり歌舞伎小屋の座付きになることを承諾させられそうになった。
そこに突如、鯖をぶら下げた万吉が障子をパーンと開けて登場した。
万吉は目を剥いている九平次を無視して、近松の傍に寄ると、褒めてと言わんばかりの満面の笑みで、鯖を得るまでの苦労話をベラベラ語り出した。
今の季節、何処に行っても鯖を置いている店が無い。大阪中を走り回って漸く鯖を飼っている者を見つけたまでは良かったが、桶に氷が張っていて肝心の鯖が取り出せない。そこで万吉は、王祥ばりに裸になって桶の氷を溶かし、鯖を得ることに成功したのである。
「やっぱり、まともなもんがすることやあらへんな」と、笑う万吉。座敷の不穏な空気に全く動じない。九平次をねめつけ、「そういう訳でこの人はワイと不孝糖売りをするから、アンタは諦めなはれ」と勝利宣言すると、呆気にとられている九平次からドスを取り上げ、鯖をさばき出した。毒気を抜かれたのか、九平次は無言で帰って行った。
助かったのか…?
この歳になって、甘言に惑わされ怖い目に遇い、アホに助けられてしまった…情けなくて泣けてきた近松は、人形浄瑠璃の傑作を書き上げることを心に誓う。
そして、何故か近松の家に上り込み、母に気に入られた万吉に文句を言いながらも、“ちかえもん”という渾名をつけられて、その可愛らしい響きに顔を綻ばせてしまうのだった…。≫
万吉はアホなのか賢いのかわからない男です。会話が一方通行なくせに、時々正鵠を得たことを言う万吉に振り回され、近松の運命は開けていきます。
不孝行糖売りが生業の万吉ですが、天邪鬼ではないでしょう。親孝行なんて誰かに奨励されてするものではありません。ましてや、ご褒美目当てだなんて浅ましい。それに、王祥の親孝行を美談扱いするのは正気じゃない。真冬に氷の上で裸になったら危険です。万吉の言うとおり、王祥は鬼婆に搾取されているだけ、まともじゃないです。万吉は筋の通らないことに我慢ならない正義漢なのだと思います。
肝っ玉女将・お玉の仕切る「天満屋」を舞台に、“あほぼん”徳兵衛と遊女・お初(早見あかり)の道ゆき、謎の商人・黒田屋九平次の企み、年増遊女・お袖(優香)に寄せる近松の恋心、平野屋忠衛門の商人としての矜持と息子への愛情…様々な思惑が絡み合って騒動が起こり、やがて『曾根崎心中』の誕生に繋がります。万吉はどのような役割を果たすのでしょうか?トリックスター・万吉の活躍に注目です。
また時折差し挟まれる文楽人形の操演が美しく、見ごたえがあります。いつか大阪に本物の人形浄瑠璃を観に行きたいと思いました。
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