見えてきたのは、二人のニンゲンの背中。チェリス、とトリョウと名乗った二人だ。
そして、透明なカプセル越しの風景。
私はどこかへ連れて行かれるみたいだ。
何処に行くんだろう?
今まで居たところは、壁で区切られた部屋で。そこではほとんど眠っていたような気がする。
でも、今は細い壁で区切られたところを移動している。
壁は細かい結晶でキラキラと光る水晶みたいで。
壁が薄い感じの光を放っている。
私は、このニンゲンに連れられて、どこへ移動しているのだろう。
いや、「ここ」以外に「どこか」というのは存在しているのだろうか?
少し広い部屋に着いた、そこで、私は丸いリングの中に入る。
チェリスが言う、
「もうそのカプセルを外すころだから。これからその手順を行う。」
カプセル?、あ、この目の前の透明なカプセルの事か。
これは、なぜ今まで自分の周りに存在していたのだろう?
そう考えると、チェリスが
「そのカプセルは、君がこの星の意識達に影響を受けないようにしていたものだよ。それが無いと、いろいろな意識から影響を受けてしまって、自分というものを維持できなくなってしまう。
しばらく様子を見て、君はもうカプセル無しでもしっかりとした自我を持っているみたいだから、これから次のところへ移動してもらうよ。」
次のところ?
チェリスが何かの操作をしながら言う。
「お待ちかねの、外へと出てもらう。」
そう聞いたとたん、私のカプセルがはじけて、一気にいろんな考えが頭に浮かんできた。
しばらく、その考え、思考に圧倒されて、自分は今どこに居るのか分からなくなってしまう。
その時、手に暖かい感覚を得た。そこで意識をそちらに集中させる。
チェリスが手をつかんでくれていた。
「いきなり他の思考を受け入れ過ぎだな。ちょっともっと自分の体に意識を向けるようにして。まずは羽を動かして。」
そう言われて、最初に羽を動かしてみる。
「さあ、息を吐いて、吸って。」
呼吸をしてみる。
そう、今まで自分の体に意識を向けた事は無かった。
すべてカプセルの中に居た時は、それですべてが完全だったから。
なぜ、カプセルを外されると、こんなにもいろんな思考で頭がいっぱいになるんだろう。
「やはり、まだ早かったかな?」
「いや、個人の名前を言えるくらいに自我があるなら、大丈夫なはずだ。すべてのエネルギー値も平均以上を示しているし。」
そんなチェリスとトリョウの声が聞こえてきた。
そんな声が聞こえてきても、私は、思考の波を押さえるのに必死で、よく意味も分からなかった。
しばらくして。
なんとか思考を押さえて落ち着いてきて。
やっと、二人の声が聞こえるようになってきた。
チェリスは何かの画面を見ながら、何かを調べている。
「ここはどうかな?」
「まだここでは暮らせないだろう。このあたりにしよう。」
という声も聞こえてきた。
チェリスとトリョウは、私を見て、言った。
「さて、そろそろ船出の時間だ。」
そして、私は「外」へと送り出された。
外、初めて見る世界。
雑然として、緑いろで、青くて、茶色で。
いろいろな動くものが居て。
そこに居る存在がすべてエネルギーを発していて。
その力の波に負けてしまいそうにもなる。
透明の羽を動かすと、空を飛べる。
空気のつよい流れが来た。
なぜか、その流れに自分の翼を合わせる事ができた。
自由に空を飛ぶ。
すると、向こうに広いカラフルな羽をもった存在。私と同じような、羽のある存在が居た。
向こうも私を認識したみたいで、こちらに飛んでくる。
何をするのかしら?
すると、その羽のある存在は私に向かって棒を振り上げてきた。
どうやら、怒っているらしい。
私がここに居てはダメだと言う感じで、棒を振り回して追いかけてくる。
なぜ?私は外に出ていいって、言われたからここに居るのに。
なんで追いまわされるの?
いい加減にしてほしい!
私はくるっと背後に回って、その羽の人を強く押した。
すると、その羽の人はそのままヨロけて岩場にぶつかる。
羽の人は、体を起して私に、さらに怒ったように向かってきた。
「なんで、私に怒るの?」
私が言うと、
「ココハジブンノトチ。オマエ、クルナ。タベモノナクナル!!」
食べ物が無くなる?自分の土地?
何を言っているの、このヒトは。
こんなに広いのに。こんなにたくさん食べものあるのに。
掴み合いになった。
私は思いっきり相手を振り払う。
すると、地面に相手は叩きつけられた。
私はこの隙に逃げようとして、下を見ると、羽の人に向かって巨大な影が覆いかぶさった。
獣のような存在。
それが、羽の人を咥えている。
そして、そのまま噛み砕かれる。
私はそれを見て、気持ち悪くなって、急いでその場を逃げた。
なんで?なんでこうなるの?
ここは何が起こっている世界なの?
・・・・・・・・・・・・
ハッと、こっちに意識が戻る。
なんだ?さっきの感じは。
図書館で見た創世記のイメージとかなり違っていた。
創世記は、そこで命がはぐくまれ。そこから地球に命が広がっていった。
その過程ではなかったのかな?命が協調して存在し、その中でバランスを取るような、そういう世界では無かったのかな?
今見たのは、ただの奪い合いだった。そこには野生の生き物にある連鎖も何もなく、ただ奪い合っている感じだ。
あのような、地球存在とはなじめないようなものを、なぜ外に送り出しているのか?
一瞬のことで、僕がぼんやりしていると。
ヤーフルが反対側から歩いてきた。
「どう?実際に感じてみたものは?」
僕が何ともいえずにいると。
「これが感じてみるって事。情報で見るものと違うでしょう?」
でも、なんで美術館でこういうモノを見る事ができるのかな。
僕がぼんやりとそんな事を考えていると、
「意識のエネルギーを読みとる能力は、常にみんなにあるんだけど、粒子技術がそこにあるから、なかなかそれに気が付きにくい。」
「ヤーフルは、なぜそれに気がついたんだい?」
「私はコーディネーターだから。」
そう言って、ヤーフルは笑った。
まさか、今でもコーディネーターってことなのか?
「コーディネーター?」
「そう。私はコーディネーター」
「過去生で?」
「今でも。」
「って、ヤーフルはでも、僕と同じ街で生まれて、区で育っているじゃない。コーディネーターって、あれは『光のゆりかご』とつながっている存在ってことだろう?」
「その時はそうだったけど、今は君のコーディネーター。」
そう言ってヤーフルは笑う。
なんだ、ちょっとびっくりした。ヤーフルは実は光のゆりかごから抽出された存在なのかと思ってしまったじゃないか。
単に、僕との関係を言っているだけか。
しかし、ヤーフルにはコーディネーターの頃の記憶はあるのだろうか?
聞いてみると、
「あるよ。君を送り出した事の記憶が一番強く残っているみたいだし。」
僕は、自分のさっき体験した事を話していると、ヤーフルはちょっと考えて。
「まだ、地球と宇宙とつながる存在が完成していないころの話ね。その時は、いろいろな存在が出す「思考」と言うエネルギーとの対処の仕方が分からなくて、その思考から来る恐怖を多く取りこんでしまって。
それで、地上に居る存在が恐怖から来る思考で動き出していた頃に、君は外に出たんだよ。」
僕はその話に興味があったので、ヤーフルの語る、過去の記憶をちょっと聞いてみる事にした。
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