神殿につくと、役人たちが出てきて迎えにきてくれるが、下りてきたのが俺だけだったので、すこしがっかりした様子を見て取れた。
いろいろと役人達からも話をきいてみると。どうやら、シャレはここのアイドルになっているらしい。
そりゃそうだろう。むさくるしいおっさんが来るよりは、かわいらしい若い女の子が来た方が教えたくもなるし、テンションも上がるというものだ。
まあ、そういう理由でシャレをこちらによこしていたわけではないのだが、結果的に良い人間関係をつくっているみたいなので良い感じになったようだ。
役人は、長の身の回りに居る数人以外は皆男であり。長は女性。口の悪いものは「逆ハーレム」と言うが。役人が皆若くて美しい男ではない。どちらかというと、俺くらいのおっさんだらけだ。
役人はこの街の人間ではなく、他の街から派遣されてきている。そのもとは議長であるものが大半だとか。
長老議員いわく「長の魔性に取りつかれた」議長達の将来の姿らしい。
ということは、他の街の長も女性なのか。
そんな事を考えていると、長の部屋にたどり着いた。
長はいつもの椅子に座り、俺を待っていた。
「今日はあの子は来なかったのですね?」
長は少し笑っているかのような声で言う。
「長もですか、役人達も彼女の来るのを楽しみにしていたみたいでしたが。」
「一生懸命な子を見るのは、みなも心地いいのですよ。」
確かに、シャレを見ているとこちらもやる気になる事はあるが。長達にもそういう気持ちがあるのかと、少し驚く。
シャレの話題はそれくらいで、本題に入る。
資料を一応手渡して、ここから情報粒子でのやり取りになる。
会議中のやり取りが、長と行うとほんの5分(くらい)で終了してしまう。
情報粒子というのは本当に便利であるが。
そこで、長に聞いてみる事にした。
ここで行っている高潮の対策を他の街にも教えられないのか?という事を。
シャレの秘密の場所から見た東の街をイメージする。
すると、長は情報を俺の前に並べてきた。
そこにあるのはすべて、長同士がやり取りした内容であった。
各街に居る長は互いに情報を交換する。しかも情報粒子を使うので、今ここで俺と会話している内容がすでに他の長に伝わっているくらいだ。
なので、今目の前にあるのは今の他の街の状況なのだろう。
そこそこやりくりしている街も多いようで、高台にすべての住居を非難させているところも多かった。
しかし、中には信じられないものもあった。
すべての食料も底をつき、飢えにより神殿に集まる人々。
街自体が放棄された場所。
街が無くなっている?
これほどの状況になるまで、その街の長は何もしないのか?
と考えると、長は
「すべて、民の選んだ結果です。長はそこに介入はしません。」
という答え。
そして、情報粒子を介してこの世界の仕組みを送ってくれた。
この大陸は、「中央」という街が存在していて。そこから「長」が各街に派遣されてくる
「中央」とはすべての情報が集まり、すべての流れを管理している場所であり。
そこに暮らす人々は、すべて長のように粒子を使って生活している。
その中央の風景は、巨大な塔が中心にそびえ立ち。その周りを幾重にも運河が取り囲み、その間には水晶の結晶のような建物が立ち並ぶ。
シャレとともに向かったあの海岸にあった、沈みかけた水晶の建物達と同じものがそこに立っていた。
人々はギャロットにのって移動し、そしてバンダナをまいた姿で生活している様子が見える。
ただ、人の数が極端に少なくみえるのと、女性の姿しか見えないことに気がついた。
そこで映像が変化し、塔の方へと意識が向けられる。
中央に集まる情報は「塔」と言われる場所で管理され、そこで必要なバランスのもと、物資、お金の街への配分が決定される。
物資、お金の循環は、各街から送られてくる「情報」の量と質によって決められていて。
街から議会や議長によってまとめられた多くの情報を情報粒子にして長に流し、そこから中央へと送られていくと、その分お金と物資が街に送られてくる仕組みになっている。
粒子は過去、太陽の光と、それによってエネルギーをチャージされて。街のシステムを動かすことができていたのに、今は別の、「安定しない情報」による変化のゆらぎが粒子を動かすエネルギーとされているようであった。
人の発する不安定な情報のやりとりと、中央で行われている粒子を使った安定した情報のやりとり。
嘘の情報が一切存在しない、粒子でのやりとりはそこで完結していて。特にエネルギーは生み出さず、消費するに過ぎないものであったが。
人の意識が発する不安定な波動。それと中央にある粒子システムの安定した波動。
その差異が「エネルギー」として変換されていることが分かった。
つまり、安定しきった中央と、不安定な辺境とのあいだにある波動の差異、感情に起こる人々のもつ波動の不安定な差。
それを集めるための、このシステムになっていた。
光によるエネルギー循環よりも、さらに効率のいいエネルギーとして。
中央は「不安定な感情的な差異」を粒子を使うためのエネルギーとして摂取するようにしていたのだった。
「なんだと、これでは辺境は中央のための蓄電池か何かじゃないか。」
俺がそう考えると、長が割り込んできてイメージを見せてくる。
そのエネルギー量によって、辺境の町に対して「お金」が発生しているのだと。
「そもそも、通貨という概念は中央には存在しないのです。街に対して行う、1つのエネルギーの形として通貨、お金、という概念が表れてきました。
中央では、人の発するエネルギーを使って、粒子にそれを変換することですべてを循環させることができていますが、あなた達のような粒子を使わない存在には、他の形が必要となってきますから。」
と長が補足してくる。
そんな話を聞いて、ハイソウデスカ、と言えるものでもない。
中央の人間のために、辺境の人間が苦労しないといけないのか。
そう考えるとやるせなくなる。
俺たちはなんのために生きているのだ?
「貴方の思っているようなこと、だけではありません。町を隔離して存在させているのには理由もあるのです。」
「それは一体?」
「隔離することで、町特有の文化、技術、手法が生まれていきます。
この大陸は、今その多彩な文化を生み出しておく必要があったのです。それで、あえて他の街との交流を行わないような、独立した町作りが行われていきました。
それは、一度目の「大災害」のあとに行われたのです。」
大災害、それは誰でも知っている。大陸の海岸線がほぼ消えてしまうくらいの、大潮が来たときであった。
それは300年近く前におこり、それによりこの大陸以外までも進出していたアトランティスの民がこの災害により大陸内部に引きこもるようになった。
そこで、大陸を新しく生まれ変わらせていくシステムとして、「光のゆりかご」の時代の、神話の時代、コーディネーターと区、の状態を大陸に作り出すことにした。
それが辺境の町が生まれた理由。
中央の情報により、技術により、「町」は隔離され、それぞれの地域で独特の文化や風習。手法が生まれてきた。
それを中央が情報として収集することで、新たな人間の活動パターンを割出して。
次の大潮による大きな災害が来るときに備えていく。
ことを目的としていた。
情報収集とエネルギー収集と、それを兼ねて隔離した場所が必要であった。
なんてことだ。俺の考えていた以上に、世界というのは物語のようになっているらしい。
前にシャレから借りた創世記の物語を思い出した。
それを今、再現しているということか・・・。
なぜ、今なのか。
それを考えた時、今までの情報がカットされて新しい情報が入ってきた。
それは今の世界を動かしている粒子についての動き。
それは中央で発生し、辺境へと地下のチューブを使って送られて来ていた。
神殿へそれは一時的にストックされ、町のエネルギー再生システムのなかで循環させられている。
しかし、それだけでは十分なエネルギーが得られないので、回収された粒子は再び中央の塔へと送られ、そこでリサイクルされてまた辺境へと送り出されていた。
中央と同じような、辺境にもほぼおなじ位の粒子が存在していることが理解できた。
では、そのシステムで、どうして大陸すべてが動いて行けないのか?
すると、長の思考が入ってくる。
「辺境と中央に、差異を作り出さないといけないので。それで同じように動かせないようになっているのです。
辺境はペーパーや端末を使った部分的な粒子の活用を行うことによって、不足している部分を人間の他の力と知恵で補おうとする。
その人の発する創造的なエネルギーが必要だったのです。」
「もしも、辺境も中央と同じような生活ができたら、どういう世界になるんだ?」
すると、長が目を閉じる気配を感じた。
何かを思っている感じで、そしてゆっくりと話始めた。
「その昔、世界はすべて、粒子技術で埋め尽くされていました。人々はその恩恵を受けて、豊かに暮らしていたのです。」
長はそう言って、俺の目をじっと見た。
「その時の事を、思い出してみる事が出来るはずですよ。」
青い瞳に俺はスッと意識が吸い込まれる。
あ、この感覚は・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
<初期アトランティス>
「どうした?何か見たのか?」
僕の目の前には緑の瞳がある。ヤーフルが心配して覗き込んでくれている。
「いや、大丈夫。」
そう言って、僕は手を振ってみせた。
ここは美術館の中。
創世記のイメージを見た時からもう3周期が過ぎ。僕らも家では最年長のほうになってしまった。
あれから僕らは、時間があると他の時代の情報を見るために、美術館に出入りしている。
「今回は未来の姿を見ていた気がする。」
「どんなだった?」
ヤーフルが興味を持ってぐっと近づいて聞いてくる。
最近はヤーフルもすっかり女の子になってきたので、あまり迫られると僕が緊張してしまう。
とりあえず、情報粒子を介してさきほど見たイメージを送る。
それをざーっと見て、ヤーフルは僕をじっと見てニヤっと笑った。
「で?どっちの人を選ぶの?」
とにこやかに聞いてきたが。目の奥の気配が怖い。
「さあ?まだ最後まで見てないから分からないよ。」
と言って、僕は椅子から降りた。未来の事だからきにしないでよ。と言ってごまかしてはみたが。
僕らはそのまま、端子を耳にはめて音楽粒子を拾い、町中を歩いて近くのショット(喫茶店のようなもの)に入った。
ショットには音楽が流れているので、端子を外して胸当てにしまう。
最近、ヤーフルが胸当てに端子をしまうときに見える胸のふくらみについ目が行ってしまうが。
力粒子の椅子に座り、情報粒子を介して注文を行い。
そして、先ほどの僕が見た世界の話をし始めた。
「それは、つまり。私達の時代のこの、粒子の扱いがかなり変化しているってこと?」
とヤーフルが聞いてくる。
先ほどの、僕の見た情報を見ながら言っているのがわかる。
バンダナに意識を集中しているからだ。
「僕がみたところね。でもその技術は大陸じゅうにあるのはあるみたいだけど。」
というと、ヤーフルがフルーツジュースを飲みながら、バンダナに意識を集めて、
「でも、あの水晶使われてないでしょう?」
「あの水晶?」
ヤーフルが情報を送ってくる、あ、イメージの中で見た、シャレの秘密の場所の水晶の事か。
たぶん、あの水晶は向こうの山にあるものと同じ役割のものだと思うが。
今は施設の中にあり、そこで塔から発生した粒子の中継地点として使われている場所だ。
厳密に言うと、自然発生的な水晶ではなくて、粒子の反射率まで調整してある人為的な水晶結晶である。
色もその粒子を扱う種類によって存在しているが、
僕の未来の記憶で見たものは、どうやらクリアなタイプであったと思う。
ということは、あれは情報粒子を扱うクリスタルか。
とイメージしていると、横からヤーフルの思念が入ってきた。
バンダナをつけて情報粒子を扱っていると、互いに情報を共有でき、そこで同時に思考することができるので便利であるが。
(注:PCじ上で行われるチャットのようなものですね)
そのクリスタルの場所に行ってみようってことを言いはじめた。
ヤーフルは思いついたら即決だからなあ。
明日からは粒子と人の意識についての話をしばらく施設で学ぶ事になるので、
行くなら確かに今日行くしかないかも。
と考えて目の前のヤーフルをみると、ニーッと笑っている。
「行くんでしょう?」
これを断る度胸は僕には無い。
山の上にある施設は、ちょっと街の中心から離れることになる。
そこで、ギャロットの時間を見て移動しないと、乗るものが無い場合もありえるからだ。
街はずれに行くギャロットは、そんなに数が出ていない。
情報粒子から時間を調べて、ヤーフルに教えると、ヤーフルは
「今から急げばこれに乗れるじゃない。」
と言って、すぐにショット(喫茶店のようなもの)を出ようとする。
「待った、そう急がなくて次にくるので十分だよ。思ったより便数はあるみたいだから。」
「でも、急いだほうが長くみられるじゃない。」
「そもそも、行ったはいいけど施設を見られるのかどうか、それを確かめてからだよ。」
そういって、僕が粒子を使って施設の管理情報を見る。
すると、施設見学は家ごとにしか受け入れていない様子。
それをヤーフルに伝えると、ヤーフルは
「それは君の調べ方が悪いんだ。私にやらせて。」
そういうとヤーフルは情報粒子を使って施設の情報を洗い始めた。
すると、施設見学ではなくて、個人的にただ行って水晶を眺めるくらいはできるとの事。
水晶は外部に見える形でおいてあって、そこは展望台のようになっていて、
自由に一般の人も上れるようになっているという。
という情報をヤーフルに送り込まれた。
どう?
という表情がなんとも・・・・。
僕とは違う視点で物事を調べるので、ヤーフルのほうが案外うまくいくことは多い。
なんだろうなあ、この差は。
「君が無神経だからだよ。」
とヤーフルは笑いながら言う。
「わかったよ、じゃあ、これからその早いので行こうか。」
とヤーフルとともにショットを後にした。
商品に対しての対価は、僕ら子供には発生しない。
その商品に対して感謝の気持ち、おいしい素直な気持ちを持つことが大切であり、それを一定の価値基準に落とし込むことはまだ早い。
という風にされているからだ。
商品に対してある一定の基準を持って対価を支払う(お金みたいなもの)ということは大人になってから行うことになる。
そして、ギャロット乗り場に移動する。町外れに行くほうなので、待合所にも人は少ない。
水晶のような結晶の街を歩いて、光輝く塔を見て。
自分の見た未来の世界は、なんであんな風に変わってしまったのだろうか?
と思っていた。
今の粒子技術はすばらしいし。社会システムもきちんと成りたっている。
そのどこが変化して、ああいう風になったのだろうか?
と考え込んでいると、横からヤーフルが体をぶつけてきた。
「そんな、君が考えることではないだろう?私達が居る間にああいう風になるわけじゃないんだから。」
「でも、別の『僕ら』はそこに存在しているんだし。」
「それは今の私と君ではないだろう?」
「そうは言ってもなあ。」
すると、ヤーフルが体をくっつけてきて
「今は今」
と僕を見上げて言った。
そうだな、見たものは未来の姿かもしれないけど、今は僕らはここに居るんだから。
今を考えないと。
今は僕のほうがすこし背も高くなったので、ヤーフルを見下ろすような感じになる。
じっと緑の目を見ると、ヤーフルはにっこりと微笑んだ。
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