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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶<後期アトランティス 1>

2013-02-15 09:13:58 | 『日常』

今日から新しい章に入ってきますが。前回から数百年後の世界、という感じですね。
時代が変化し、人々の生活も変化している。そしてゆったりとした世界。
主人公もそう言う、ふわふわした感じに変わってますのでお楽しみください。イメージは「ヨコハマ買い出し紀行」?



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〈 後期アトランティス フロルの章 〉


賑やかな雑踏のなかを、私は軽い足取りで歩く。
道沿いには露店が並び、新鮮な果物、野菜、肉、乾物、それらが色とりどりに私を誘惑してくる。
朝の市は賑やかで、そこで買い食いするのが私の朝の日課。
まだ人の毒に汚されきっていない、すがすがしい空気の中を歩くのは好きなの。

「よう、フロル。今日も元気だね。」
フルーツを売る露店から声がかかった。ここは南の果物を置いているので変わったものが並ぶ事が多い。良く買い物をするので、顔を覚えられてしまっているのよね。
おじさんはごつくて顔は好みじゃないんだけど。安くしてくれるから大好き。

「何か良いもの入った?」
「フロルの目にかなうものしか置いてないよ。」
「今日の私の気持ちにピッタリの果物はある?」
そういうと、おじさんは奥の冷蔵棚から1つの赤い実を持ってきた。
「ほら、昨日とれたスラル(モモのようなもの)をまる一日、冷蔵棚で冷やしていたものだ。これは美味いぞ。」

スラルは大好物。しかも冷やしてあるなんて。
でも、今のスラルは二つ南の町から来るので、ちょっと値段もするしなぁ。
おじさんは私の迷う姿を見て、
「本来なら、5ルーフなのだが。フロルはお得意さんだからな。3ルーフと50セルトでどうだい?」
3ルーフ。うーん、朝食にしては悪くない金額だけど。
でも、朝から気持ち良く過ごしたいし。
「うん、ありがとう、買うわ。」
「毎度あり」
おじさんにお金を渡して、スラルを受け取る。ものすごく冷えていてちょっと驚いていると。
「俺のところの冷蔵棚は、氷じゃないんだよ。冷却粒子を使った、本物だからな。」
そう言って笑っている。
へえ、冷却粒子使っているんだ。
このおじさん、見た目と違って、結構お金持ちなのかも。

私は冷たいスラルをかじる。柔らかな果肉と、豊かな果汁。そして、それが冷たく冷やされていて。
買って良かったわ。

と朝から最高の気持ちよさ。
ついつい歌を口ずさみながら市をあるいていると、顔なじみさんが声をかけてきてくれる。
午後になると、かわいい私を誘惑しようとする男も多いのだけど。
朝の市で会う人達はみんな気持ちが良い人ばかりで、歩いていてとても気持ちがいい。
洗濯屋のおばさんのところに頼んでおいたものを受け取りに行くと、
「あら、フロル。今日もご機嫌ね。」
「スラル食べてきたから。」
「おいしい食べ物は幸せな顔にするのね。いつもにまして、かわいさが増しているわよ。」
「ありがとう。ところで、衣装はできあがっている?」
「もう仕上がっているよ。今晩の舞台に使うんだろう?ちょっと試しに来てみるかい?」

洗濯屋さんなのだけれども、ここでは旦那さんが仕立てもしているので、私は良く足を運ぶ。ここの旦那さんの仕上げる服はとても作りが良くて。
何度も舞台に上がっても糸がほつれる事が無いから。

舞台の時にサイズがもしも会わないといけないから。ちょっと試しに着てみる事に。

大きな一枚ガラスがあって、そこに自分の姿を映し出してみる。

柔らかい金色の髪が波打ち、スラルの実のような唇と、白い肌の色。青い大きな目。
何度も見ているけど、これが私の顔。
舞台に上がるといろいろな表情を作り、そして人々を魅了する。

そして、しなやかな動きの時にこそ、私の体の線を引き立たせてくれる、ゆったりとした衣装。
さすが、私のサイズを寸分たがわず知っているから。とても着やすいし動きやすい。
鏡の前で軽く踊ってみると、奥からてを叩く音が。

「いいねぇ、フロルはいい踊り子だよ。」
おばさんが笑いながらこちらを見ていた。
つい、腰を振ってそれにこたえたりして。

「ありがとう、この衣装ならまた、みんなを楽しませることができそう。」
「それはよかった。あとで起きたら旦那に言っておくよ。あの人、フロルがそう言ってくれるのを励みに働いているようなものだからね。」
と言って笑った。

朝の市を通り過ぎると、急に静かな町並みにかわる。
遠くに聞こえる雑踏と、石畳に響く足音。
洗濯屋さんの後に買ったパット(サンドイッチみたいなもの)を持って、建物の間を縫うように走る街路を歩いていった。
私の家は高台にある。
海岸沿いは、昔の高潮の影響で荒れているので、人はほとんど生活していないから。
商売をしている人か、貧しい人が棲んでいるところ。
今でもまだ高潮の影響が数年に一回くらいあるから危なくて。

市のあたりは行商の人達がギャロットを引いてたくさんきているけど、私達の家のところにはギャロットも入ってこない。

昔は、このギャロットも人が操って、自分で進んでいたみたいだけど、町中では今は牛や馬に引かせる事も多い。
長距離移動するときは、前に特別な機械をくっつけて動く見たい。
ただ浮かんでいる、荷台みたいなものかしら?

町中での移動は基本的に歩くのが普通。小型のギャロットにのって馬に引かせているのもいるけど、それはお金持ちの人か、急ぎの時しか使わない。
人が引くギャロットもあるし。

私も小さなものは荷物運び用に持っているけど、たまにメンテナンスに出さないと浮かばなくなるから要注意。
力粒子のフィールドが時間がたつと薄れていくって事なんだけど、詳しい事は分からない。
便利に使えていればそれでいいのよね。
そういえば、そろそろメンテナンスの時期だわ。

などと考えていると、おうちについた。
掌を扉にくっつけると鍵が開くから、それで中に入る。
家はくっついた集合住宅のようになっているけど、前に庭もあるし。
それほど窮屈な作りじゃないし。
一人で暮らしているのにはちょうどいい広さだし。

私の住んでいるところは踊り子仲間も多いので、仕事上でも都合がいいのもあるからここに住んでいるけど、
本当はもっと高いところにある一軒家に住みたい。

これから夜の仕事まで、ちょっと時間があるから家の事を片付けておこうかと思っていた。

夜には、神殿で舞台が行われる。

神殿は人々の精神的な学びと癒しを目的として存在している施設で、そこの大ホールでは、月に何度か舞台が開かれる。
そこで踊る仕事をしているのが、私。

たくさんの人に注目されるお仕事だから、いつも綺麗にしておかないといけないし。
身なりもちゃんとしておかないといけないし。
結構気を使うお仕事。

午後から神殿へと向かうことになっているから、服装と荷物をまとめて、
食事は簡単に買ってきたパットで済ませて、ちょっと家で息抜き。

お仕事は気を使って疲れるから、しばらく家で気を抜き切ってだらだらしてみる。
お迎えのギャロットが来る時間まではそんな感じ。
家の中にある端末(パソコン?テレビ?のような情報を映し出すもの)を、ちょっとぼんやりとつけてみる。

そこには南の町で行われている祭りとか、北の町の議会で決まった事なんかが流れている。
お天気の情報もあるので、それを選んで見てみると今日の天気は午後から雨みたい。

あら、雨だとお客さんが大変だわ。

そんな事をちょっと考えたけど、私はギャロットで移動するから関係ないんだけどね。

あとは、創世記の物語を語る話があったので、ちょっと見ようかな。
私の踊りは、時代の物語をすべて踊りで表現して。
その時のお話を音と踊りで感じてもらうというもの。特定の施設でしか体験できないから、いつも人はおおいんだけど、
それに来られない人なんかは、こうやって端末の物語を見ていたりするから。
どんな感じに描かれているのか興味があるし。

そこで行われていたのは、神々の力が大地を作り、そこに解き放たれた生物達の生活が描かれていた。

透明な翼をもつもの。鳥の翼をもつもの達が優雅に舞い、光輝く大地の上で優しい世界があふれている。

神話の世界って、こんなに美しかったのかしら?
だったら見てみたいなあ。

端末に映し出される映像は作られたモノだけど、そこにはリアルな存在感があって。
つい、その物語に引き込まれていた。

その時、ふと


「スーべロス!こっちに来るんだ!」
そう言って、私の手をつかむ男の人の姿がイメージで浮かんだ。
荒れ狂う空と大地。
そこには無数の存在がうごめき、何かを争っているようにもみえる。
私は男の人に手を掴まれたまま、何処かに逃げているように感じた。
何から逃げているの?
それに、この世界は何?

スーべロス?誰、?それにこの男の人(ちょっと美形)は誰?

ハッとすると、目の前では端末の映像が他のものに切り替わっていて。
創世記の神話の話は終わっていた。

「ついに妄想癖がさく裂しちゃったのかしら。」

一人つぶやいて、ちょっと飲み物をとりに冷蔵棚へと向かう。
この冷蔵棚は、毎朝氷を入れて使うもので。さっきの果物屋さんが持っていたような粒子を使うものではないの。
朝になると、家の外から氷を入れる口が開いているので、氷配達の人がやってきて氷を差し込んでいく仕組み。
氷屋さんは朝が早いから大変だわ。みんなが起きる前には来ているから。

そのおかげで、私も冷たい炭酸水が飲めるから嬉しいわ。
果汁を少し加えて、炭酸水を飲んで。
さっき見たイメージを思い出してみる。
これまでにやった事の無い話だし。
見た事の無い場面にも思えたけど。
なぜか良く知っているような気もして。

うーん?

まあいいわ。考えたって私には分からないんだし。
でも、さっきのイメージは新しい創世記の話に使えるかもしれないから。
今日の舞台で踊る内容に変化を与えてみようかしら。


出る前にスラルをもうひとつ食べようかなぁ、

と思って冷蔵棚の前を歩いていたら、外に馬の足音が聞こえてくる。
お迎えのギャロットかしら。

窓から外を見ると、そこにはギャロットと、それを引く馬。御者台(この時代のギャロットは馬車や人力車のような扱いです)から手を振る人。

ヨルハンだ。
私も手を振って答える。
私が家にひっこむと、すぐに入り口を叩く音がして。

ドアの外にはちょっと日に焼けた顔に、人の良さそうな笑みを浮かべた若い男が立っている。これがヨルハン。
もう少し服装と髪型を変えれば結構、良い男なんだけど。仕事がらそういうのに興味無さそうだもんね。

でも、私にも他の人にも親切に接してくれるから、私は好き。

今日も私の重い荷物を笑顔で運んでくれるし。
踊り子仲間でもこの子に癒されるって人は多いのよ。

ヨルハンは私よりも少し年下。
でも、背も高いし体つきもしっかりしているから、頼りがいのある弟分って感じかしら。

「はい、これなら運転しながらでも食べられるでしょう?」
ギャロットに乗って、私は後ろの席だけど、手を伸ばして御者台に居るヨルハンに冷えたスラルを手渡した。
少し驚いたように私の手からスラルを受け取り、
「あ、ありがとうございます。」
「暑い中ごくろうさま」

と声をかけてウインクする。すると、ちょっと照れたような顔をするのがいいのよね。
ついつい、いじってみたくなるわ。

お迎えギャロットは、私のところが一番遠いので先に来て、途中で2,3人の踊り子仲間を拾って移動する。同じ地区に住んでいるから、すぐにみんなで一緒になって。
神殿までの道中はおしゃべりタイム。

この間の役者はどうだったとか、最近の男関係とか、
そう言う話ばかり。
踊り子だから、役者の男ともお付き合いがある人が多いけど。
役者の男は油断ならないからあまり好きじゃない。
見た目はいんだけどね。

後ろの席でにぎやかにやっていると、
だんだんと高台にある神殿へと近づいてきた。

昔は神殿とその周りには町を運営する人達が居たみたいだけど、
今は「神殿」といえば「踊り子」という感じで。

(注:アイドルとファンの関係のような感じで。そこから文化や流行が発生して、世界が活性化していくような感じでしょうか。今で言うと、AKB48風?
それだけではなくて、そこに文明の歴史、ルーツ、世界の成り立ちなどの哲学的な表現も含めているので、アイドルと文化的広報活動が一緒になった感じです。)

私達の踊りは町の人々を活性化させて、そして人の意識を高める。
それが楽しくて、私はこの仕事に誇りをもっているし。
それを楽しむ人達もたくさんいる。

だから、神殿に近づくと、私はだんだんと戦闘モードに切り替わる。

よし、今日も良い舞台を演じるぞ!





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