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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶 <中期アトランティス 1>

2013-01-30 09:07:53 | 『日常』

さて、今日からアトランティス小説も 「第2部」 に入っていきます。
前に書いた時は、急いで書いていたのと、「恋愛ものは苦手なんだよなぁ。」という意識があったので。
結構あっさりとしていたものを。今回は<前期>の第一部よりも加筆修正をさらに加えて、より長(おさ)の心情描写を頑張ってみました。
前に見ていた方も、そのあたりをまた見ていただけましたら、「あ、そういうことね」ということに気づかれると思います。

第一部はほのぼの学園もの?で、第2部からは大人の仕事、プロジェクトX的な感じになって行く感じですか。
主人公もいきなり変わりますのと、長(おさ)側の話を随所に挿入してますので。ちょっと感じが違う話になっていると思いますよ。

それでは、第2部、〈中期アトランティス〉をお楽しみください

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目の前には巨大な神殿がある。俺はそこに向かってギャロットに乗って走っていった。
周りには泥にまみれた家と畑が広がる。
また、潮が上がってきたのだ。人々は疲れたように家の前に佇んでいる。

この状態を何度繰り返したらいいのか。

神殿の前でギャロットを飛び降り、階段を駆け上る。
「ヤッシュさん、いきなり来ては困ります。」

途中で護衛主にも止められたが、それを振り切る。
「急用だから、いきなり来たんだ! 長に会わせろ。」

「長もお忙しいのです、この状況では。」

「ならば、こうならないように手を打つ必要があっただろう。その話をするためと、とりあえずの民の支援を求めるために来たのだ。長が忙しいのはあたりまえだ。そんなの会わない理由になるか!」

「しかし、手順を踏んでいただきませんと・・。」

そんな事で入口でもめていると、長の直轄役人が来て、俺を奥の方へと案内してくれた。一応、緊急事態だと言う事は理解してもらえたのか。
と思う事にして、額に青いバンダナを巻き付けた。
普段はこのバンダナは使わないのだが、このような「施設」では使う事になっている。
このバンダナを使うのが俺には面倒くさい。
儀式めいた事は好きではないのだ。

しばらくして、広間に通された。そこには長身の、一人の女が居る。
足元まである青く長い装束に身を包み、俺とは違う形の背の高い帽子をかぶっている。
俺の姿を確認すると、銀の長い髪を揺らしながらこちらへと体ごと向き直る。
水晶から削り出したような美しい顔がこちらを向く
これが長だ。中央から派遣されて、この地域を担当している。
深い青い瞳が俺をじっとみていた。
この瞳で見られると、いつも一瞬たじろいでしまう。

「そんなに泥まみれでこのような場所にくるとは。そんなに急ぐことなのですか?」

冷やかな目線で俺を見ている。青い目が一層冷たい感じを受けるが。

「急がないといけないから、ぼろのギャロットに飛び乗ってきたんじゃないか。
また、潮が上がってきたんだ。それを防ぐ手立てをなぜできない?
毎回、起こった後に対応はしてもらえるが、こうも何度も起こると住民が参ってしまう。
そのあたりの考えを聞かせてもらおう。」

「その場の感情で、勢いで来るとはあなたらしくないですね。」

「こうも何度も来れば、怒鳴りこみたくもなるさ。」

「しかし、あの方々はこの土地に住む事を理解して住んでいるのですから。」

「それでほったらかしか。」

「あなたたちが対策をすればいいではないですか。」

「それができる技術と金がないから、長に対策を頼むんだよ。」

「では、この土地を離れればいいではないですか?」

「それは、あんたの考えかい?」

「あなたたちがこの土地を手放しても他の土地がありますから。ここに執着する必要はないです。」

「それって、長が行っていい言葉なんかい? あんたココ任されているんだろう?」

「管理を任されているだけです。そこからの発展はあなたたち人民議会に任せてあるでしょう。あなたたちの裁量で自由にされていいのですよ。」

「金が無いって。」

長、というのはこの地域を管理しているトップであり、中央からのすべての物資、情報の流れを管理している。
そして、人民議会というのは、選挙で選ばれた人民が政治を行う場所であり。
長から与えられる物資、情報を管理し、人民に振り分けたり公開したりする基準を作る仕事をしている。

「人民」と、それを統制する「長」のいる。そんな世界が今広がっている。

長は、俺を奥にある部屋に通してくれた。
「ヤッシュ議長には現状をハッキリとお教えしておきます。バンダナを使えますね?」

体を包み込むようなまるい椅子に腰かけながら、俺はうなづいた。
長は同じような椅子に座り、部屋の向こう側にいる。

「では、情報を送ります。意識して下さい。」

言われると同時に、俺の頭には情報が流れ込んできた。
一瞬に送られてくる膨大な量の情報。それに一瞬混乱するが、これまでの手順でそれをカテゴリー別に整理して、脳内に記憶として残す。

毎度のことながら、気持ち悪い感覚ではあるな。
脳みその中を扱われている感じがして。

最初にこれをやらされた時は、目が回ってしばらく起きあがれなかった。
議長の仕事のなかで、一番これが苦労したような気がする。

最近はもう慣れたもので、長の膨大な量の資料でもやり取りは可能となっている。

一瞬でやり取りができるので、誤解やごまかしができないので良いのではあるが。
民がみんなこれを使える社会というのもまた、駆け引きの存在が無くなって楽しみもなくなるような気がするが。

「どうですか?できました?」
長がいつもながら無表情に聞いてくる。この人には感情はないのだろうか?

「だいたいまとまった。」
そう答えると、長が意識で資料を使い俺の情報とリンクさせて説明を始める。
はたから見ると、無言で座っているだけに見えるが、いろいろなやり取りが行われているのだ。
このバンダナを使うやり取りは各地にある長の神殿と、その周囲しかできないようになっているようだ。
ギャロット乗りもバンダナを巻いているが、彼らは情報のやり取りはできない。

長とやり取りをするのは、民より選び出された議長の仕事となっている。

見せてもらったのは、これまでの食糧、お金の流れ。人の動きなど。
確かに、何も不正もなく、順調にそれは行われている。

「しかし、これは維持するだけのやり方じゃないか。ここの土地で、高潮にやられないような対策をする予算や人員の予定が存在しない。」
そう行って、俺は来月の予定数値を送った。
すると、長はこれに書きくわえを行い、
「ここで多い流れを作ると、最終的に誤差が大きくなりすぎます。
民には申し訳ないですが、長い年月のバランスを取るにはこの流れでなんとかしてもらうしかありません。」
「毎月、泥にまみれてもか?」
「それに対する保証はしています。」
「それじゃないんだよ。起こる前の対応が欲しいんだ。」
「まだ起こらない事に対して、どのように対応を取るおつもり?」
「今までのデータがあるだろう!」
そう行って、俺は情報粒子から得た毎月の高潮の情報を導きだした。たまに神殿の図書館から情報を引き出しているのだ。

そのデータを見せてやる。高潮は定期的に同じようなリズムで来ていた。
ならば、このタイミングで民の家を移動させるようにするとか、畑の作物を変えるとか、そういう手が打てるはずだが、それらの全てが実行できないようになっている。
もっと予算が必要なのだが。

と伝えると、長は

「では、あなたが率先して行えばいいではないですか?」
とあっさりと言う。
「いや、それにはそれ用の予算が必要だろう。」
「私はあなたに、民に関するすべてをお任せしてます。あなたが自主的にそれを行えば、それでいいのではないでしょうか?」

「しかし、これまでの議長にはそういう権限はなかっただろう。」
「権限はありましたよ。ただ、自分からそれを実行していなかっただけです。」
「いや、しかし、」

「あなたは民の代表です。そして、民のために動くのはあなたしかできません。
あなたの思うようにしてください。私や神殿のメンバーも協力します。」

「お金は来ないのか?」
「それは範囲内でお願いします。」

議長が、その土地の仕組みを扱う、というのは初めて聞いた。
これまでは、長という存在が各地にいて、それと民を結ぶだけの存在として議員と、それを代表する議長が存在したのだが。
これでは議長が長と同じ力を持つことになってしまうのではないのか?

とふと考えたら、それを読まれたらしく。

「同じ力ではありません。それ以上のものをあなた達は持っています。」
と言って、少し微笑んだ。

この人、笑うのか。

その美しい微笑みに、少し心奪われた自分に気がついた。
長はそんな俺の心に気づいたのか、笑をすっと引いて立ち上がった。

「もう疲れているでしょうから、これで情報交換は終です。また明日この続きをいたしましょう。」
長はそう言って奥へと下がっていった。
神殿にいる役人が二人、一礼してそのあとを追う。

バンダナを使うと、迂闊な事を考えられないから嫌なのだ!

半分むしり取るようにバンダナを外して神殿の外へと出る。
長達は慣れているから自分達の考えを読ませるようなことはしないが、俺たちはそこまで慣れていない。クソっ、なんか負けた気分で神殿をあとにする。

この、バンダナを使う技術、というのも過去には国中に広がっていたらしいが。
今は一部の区域と神殿に使われているくらいだ。
それがあれば、今の高潮を防ぐ事もできるのだろうか?


俺は神殿をあとにして、そのまま、議会を集めるために市議場へと急いだ。

臨時に集まった議員は5名。この地域には、15名の議員がいる。
市民が投票を行う事により、5周期ごとに入れ替わるシステムで議員が存在しているが、長いものだと30周期くらい議員をやっている人もいる。

俺は、まだ議員10周期くらいの若造なのだが。なぜか議長に選出されてしまった。
長と渡り合ったり、あのバンダナを使うシステム上若い人間でないと難しいから、というのもあるらしいが。
俺が無駄に動き回るので。そこを評価されたような気もする。

なので、これまで誰も手をつけてこなかった、「予算を得て高潮対策をする」という事を意気込んで長に訴えに行ったのだが。

「で、結局自分たちで何とかすればいいじゃないか、と言う事が。」
俺の話を聞いて、議員のトルクがそういった。
「結果としてはそうなのだが。」
俺が言うと、
「予算はつかないのか?」
最長議員のジョルフがそう言う。

「先に言うと、予算は見込めそうにない。長は全体とのバランスを常に言うからだ。
他の街、都市との関連やバランスがあるらしい。これは神殿で得た情報とかから言えるのだが。」
と俺はバンダナから得た情報を落とし込んだ親指ほどの長さのチップをモニターに差し込む。このチップは見た目は銀色で細い棒のような形をしているので無くしそうになってしまうが。
全ての読み取り装置に共通で使える万能な記録装置だ。

俺は長と情報粒子を使ったやりとりで理解できるが、ほかの人民に伝えるには機械や特定の技術が必要になってくる。バンダナをつないでチップにする装置は神殿にしか存在しないが、そのチップを読み取る装置は小型のものは個人でも持っているし、たいていどこにでも設定してある。
議員のいる部屋の壁にもたいてい一部にモニターが組み込まれていて。それは立体的にものを表現出来る仕組みになっているので、全員で議論したり共通の認識を得るためにはバンダナからの情報をここに映し出したほうがいい。
そこには今、予算の流れが示されている。
中央からの予算、そしてそれが全体的に広がる様子が数値とイメージ動画で表現されていく。
矢印が分岐して、次第に細くなって消えていく様子まで描かれていて、見ただけですぐに予算の流れを理解出来るというものだ。

「つまり、今の状態だとこのように完全に仕切られているが、この中からなんとか予算を引き出して。俺達のやりたい事をやると言う事だ。」

「その数値はすべて正確なのか?」
またトルクが聞いてくる。
今回は臨時で集めているので、俺以外はみな着の身着のままだが。
議員はみな青いコートのような上着と、長い帽子をかぶるのが基本てきな格好だ。
長のところに行くために俺は今回議員服を着ていたが、普通からこういう格好している連中はいない。
俺は青い上着を翻しては身振り手振りで資料の説明をしているのだが、なかなかに動きにくいのでちょっと面倒である。
「俺が拾ってきた情報だから、間違いはないと思う。」

「そのもともとの数値は長達の作ったものだろう?信用できるのか?」

そう言われると、俺にも良く分からないが。
バンダナを使っての情報のやり取りをすると、信用するとか、しないとか、そういうレベルではないやり取りを体感できてしまう。
なので、長の言う事、情報には嘘も何もないのだろう、と信じてしまうしかないのだ。

そういう事を話すと、
「長と会いすぎて、その魔性に取りつかれないようにな。」
とジョルフ

「なんだ、それ?」
俺が返すと

「これまでの議長は、たいてい最後には神殿の考えになびいてしまっていた。それは、バンダナによる直接の情報交換で、長と意識のコンタクトが続くと相手に対して信頼しか持てなくなるからだ。
そして、その魔性にに取りつかれると、俺達の市民に対しての感情も薄くなる。
そうなったら、議長交代の時だ。」

「もしかして、議長がたいてい神殿に入る事になっているのは、そういう事か。」
「長の魔性に捕まるのさ。」
「俺はそれは無いぞ。」
「皆そう言っていた。」

「とりあえず、そんな事は先の話だ。今はこの予算の中から、どれくらいを高潮に対する予防に回せるかを見て行こう。資料は各自に配るので、次回、来週の議会にはこれを通してしまおうと思う。
各自、年寄りから奥さんまで、聞ける人間にいくらでも聞いて、何か良いアイデアを集めておいてくれ。」

とりあえずの臨時議会は終了し、俺は他の議員に送る資料を作成、チップにしてこの日のうちに送付した。

夜中になって、俺は家に戻った。
神殿がある地域以外は割と平野になっていて、そこにカプセル状の家が並んでいる感じだ。
俺の家は高台にあるので毎月の高潮の影響は受けていないが。少し下になると皆の家は泥の影響を受けている。

どうしてこのようになってきたのか。
昔はこのあたりはもっと豊かな平原で。穀物や畑として使われていたようだが。
ある時期から、土地の高さが変化してきたのか高潮の害を受けるようになってきた。

だんだんと大陸の周囲が沈んできているようだ。

なぜそのようになったのか?

まあ、そういう事は俺が考えても解決しないのだから。とりあえずは高潮の対策を取る方向で頑張るしかないな。

寝床に入ると、なぜか長の顔が浮かぶ。
冷ややかな態度ですべてを従わせているイメージを今まで持っていたが。
どうやら、それだけの人でも無いような気がする。
それに、最後に見せたほほ笑みは俺も驚いた。笑わない人だと思っていたからだ。

女性は笑うとどんな人でも美しく見えるものだな。

とふと考えていると、ジョルフの言葉が頭をよぎる。

「いや、とりあえずは高潮対策だ。」
なんとなく眠れなくなったので、起きて資料の整理をもう少しすることにした。






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