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・創世記
スーべロスはどこに行ったのか。
私は区の「抽出された存在」達をモニターしているカプセルのところへ向かう。
カプセル内には青い点と赤い点がそれぞれ点滅していて。
私達の区から抽出した存在がどこにいるのか。そういう暮らしをしているのかがすぐに分かる。
カプセル内に映し出されている点に意識を向けると、今の、その存在達の情報が私に下りてくるようになっていて。
青い点は、もうすでに活動を停止した存在で、すでに情報の源へと帰還している。
これまでの生活していた情報を確認することは可能だが、今の状況まではモニターをしていない。
すでに別の存在として抽出されたのか。
全く別の存在の一部意識に入りこんでいるのか。
今回はそれを調べるのではないので、赤い点に意識を向ける。
赤い点は今も活動している存在で、地上で生活をしている様子を見る事が出来る。
数百という存在を抽出しても。
活動が確認できているのはそのごく一部。
ほとんどはすでに青い点となっている。
抽出された存在が、地上で活動する間に経験を身につけ。
その経験を情報の源へと持ちかえる。
その繰り返しで、次に抽出される存在に地球の惑星意識と繋がる道ができていって。
だんだんと宇宙意識(塔の情報)と惑星意識(地球の情報)が統合され。
その双方と繋がる事が出来る存在が生まれてくる。
そのための、生存と帰還、その循環を行う事も1つの目的ではあるが。
自分たちの抽出した存在が、一時の生も得られずに帰還してくるのはどことなく寂しいものもある。
短期間で地上の生から情報の源へ帰還した情報を解析すると、そこには新たな感覚が記録されていて。
その感覚は何とも言いようのない渦を情報の中で作りだしている感じをうける。
恐怖と不安と、分裂と。
それは他の区で抽出された存在が帰還した場合もそれが記録されている。
それは次第に「抽出された存在」達が活動を続ける上で、情報の中の優先順位を占めるようになってきている。
地球で発生している生物は、愛と調和を持って。バランスを保ちながら存在し、変化を続けている。
明らかに、今の抽出された存在は、地球の生命系から見ると異質な存在達。
その生命系に受け入れられ、宇宙意識と繋がる事の出来る存在。
その1つのモデルとして抽出した存在であるスーべロス。
解き放って分かったが、今の状況ではまだ早すぎた。
もう一度回収し、スーべロスの情報をもとに新たな存在を作りだす必要があるだろう。
そのために、今の場所をカプセル内で確認する。
それは一瞬で終了する。
場所と座標、
そして、今そこには嵐が来ている。
早く回収に向かわねば。
トリョウにそれを言うと、「こちらに戻ってくるように情報を送ればいいではないか。」
と言う。
確かに、私達は存在の意識に情報を送る事で、ある程度の行動を決める事が出来る。
ただ、私はスーべロスに対してはそれを行いたくないと思っていた。
それは、「自立した存在」となりえる素質を持っているから。
トリョウはそれを聞くと納得してくれたが、
「回収後のプログラムは?」
ときいてくる。まだそこまで考えていなかったので「状況を確認して、それから細かいプログラムを作る予定だ。」
と答えて。私はギャロット(この世界の場合は、空中を飛ぶ乗り物)へと乗った。
地上のあらゆる場所へと移動できる乗りもので。大きな丸い形をしているため、小回りは利かないが一気に移動するにはこれが一番早い。
スーべロスの居る場所へと飛ぶ。
そこは嵐の中だった。
嵐の中、
チェリスはスーべロスの反応を見ながら、ギャロットで移動する。
周囲に探索粒子を放出する。
特定の見つけたいものをプログラムしておくと、それを見つけて知らせてくれる。
一回目の放出。
その反応を待つ。
時間が長い。
一回目は無反応。
もう一度放出。
すると、スーべロスの反応が出た。すぐにモニターできるように探索粒子で位置を割り出し、スーべロスの周りに情報粒子を送り込む。
画面にその姿が現れた。
「・・・・。」
岩棚の下に、スーべロスは傷だらけの体と、栄養状況の悪化したような、やせ細った体が映し出される。
ほんの数日でこんなになったのか。
前宇宙の記憶と、自立する意識。
それらを強く持った存在は、周囲の状況に合わせて生きるには難しいのかもしれない。
チェリスはギャロットを近くに下し、嵐の中スーべロスのもとへと走った。
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・初期アトランティス <ショットにて>
「と言う感じなんだけど。」
とヤーフルがスラルのジュースを飲みながら言う。
僕も共有した情報で確かにチェリスのしていた事は分かったけど、
「で、回収してどうするんだろう?」
「それは、これから続きがあるよ。見る?」
ことさらそう言わなくても見るに決まっているのに。
と言うと、ヤーフルは。
「私の視点からの話だからね、怒らないと約束してくれるなら見せるけど。」
「そのいい方は引っ掛かるなあ。」
「見る?」
「そこまで言われると、見ないわけにはいかないな。」
「じゃあ、情報粒子で繋がって。」
意識をバンダナに向け、情報を受け入れた。
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・創世記
スーべロスは回収できた。これからどうするかだ。
リングに戻ってきて、最初はスーべロスを回復させるため、抽出につかったカプセルに入ってもらう。
肉体、意識の双方を回復させることができるだろう。
その間、トリョウとこれからの「抽出された存在」の方向性を考えていく。
スーべロスには自由にさせていた。
食事の時と、寝る時だけ同じ場所に来てもらって、それ以外はこの区の中は自由に動いてもらっている。
私とトリョウは、スーべロスが地上で生活し、そこに入りこめなかった原因と、この存在の特殊性の原因を導きだそうとしていた。
今まで抽出した存在達の情報を粒子に載せて。そして、スーべロスのデータを重ね合わせる。
情報粒子を使って、それらの共通項と異なる点を選びだすと、それだけで数百以上現れてくる。
我々他の「公園」とは情報交換ができないようになっているので、他公園にいるコーディネーター達が、何に基づいて群れで暮らすモノ達を生み出しているかが理解できないが、その行動パターンから推測はできる。
多数の個体に能力を分散して与えているのだろう。
私達2人は、個体にできうる限りの能力を入れ込んで、それがどのあたりまで可能なのか。と言う事を試しているが、集団を作る場合はその集団で個体を超える能力を持つように設定すればいい。
個体に能力を入れ込む場合、情報とアクセスするにもそれなりの個体性能が高くないといけないが。多数にする場合は、個体の性能にばらつきがあった方が、結果的に最高の仕事をすることが可能となる。
個体数を増やせばそれだけ情報を下す量も増えてきて。
宇宙意識と惑星意識をつなぐコードが増える事になる。
確かに、強固で頑丈で、伝達速度の速い一本のコードよりも、1つ1つがそれほど強度が無くても多数それがあれば、一本のコード以上の情報を伝える事が可能となる。
しかし、今地上にある存在達は、どう見てもまだ惑星意識と繋がっているようには見えない。
それぞれの意識で集まって動いているだけで、地球に発生している生物との共存はまだ完全にできていないと思われる。
姿は似せていても、中身が異なるのだ。
我々はどういう方向性で進めていくのか。
最初に惑星意識と接続する事を進めたほうがいいのか。
それとも、宇宙意識を強く持つようにした方が良いのか。
スーべロスはすでに宇宙意識とのつながりは持たせてある。
ということは、惑星意識との接続か。
トリョウとはそういうやり取りと情報の組み立て。
抽出する存在にそういう能力を与えて放ってみたものもあった。
しかし、どれも上手くいかない。
情報だけでは何かが異なるようだ。
スーべロスは、その間公園を飛び回り。
他の抽出された存在を見て驚いたり。我々の仕事を見て楽しんでいたりする。
「どうかな?ここの生活にも慣れたかい?」
食事の時にスーべロスに聞くと、笑顔で
「外の暮らしに比べれば天国。」
と答えてくれた。
「天国?そのフレーズは何?」
「??天国は天国。」
「その意味は?」
「ン~? とっても気持ちのいい場所ってこと。」
「それは宇宙意識と繋がっているから、塔にある情報の源に戻る事の感覚に近いってことなのかな?」
「難しい事言っても分からない。」
「うーん、生まれてくる前の感じに似ているって事なのかな?」
「生まれる前? それはここでカプセルから出る時ってこと?」
「そう。その記憶が天国と言うフレーズになっているわけじゃないのかい?」
「どうなんだろう? そんな難し事考えないで、ただ口に出ただけだから。」
スーべロスはたまに、我々とは違うフレーズを口に出すことが多い。
これが、「前宇宙の記憶」を持たせた結果なのだろうか。
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