今日もサラッティと学校に行く事になったのだが。
まだ歌は完成していないので、2日後くらいになりそうかな、と言う話をしていたら。
「じゃあ、宿泊研修前にはもらえるのね!」
と喜んでいた。
いろいろとお世話になっているし。その感謝の気持ちを表現できていればいいけどなぁ、と言うと。
「妙に年寄りっぽい事いうのね。そのあたりがアレットらしくていいわ。」
とサラッティは笑った。
デシックル置き場に来て、向こうにセティファムが居るのを見つけたので、
サラッティに「ちょっとここでやる事あるから、先に行ってて。」と言って、僕はセティファムのところに行った。
セティファムは僕の姿を見て、一瞬横を見た後「おはよう」と笑顔を向けてくれた。
久々に普通にあいさつできたような気がして、僕も嬉しくなる。
別に、サラッティが邪魔とかそういう訳ではないのだけど。
僕とセティファム2人とは多少リズムが異なるので、いつも通りのやり取りができにくくなるのはある。
「どう、今度のグループ研修は?」
「メンバー的には面白そうだから。行くのは楽しみ。」
と言う感じで学校の会話をした後、今後どういう風になっているのかを聞いてみた。
すると、セティファムは、今のところ、研修までは大丈夫だけど、来月になってからは分からないという話だった。
「書類の手続きが終わったらすぐに移動になるみたい。」
と少し寂しそうにセティファムは言う。
そうか、意外と早くなりそうなんだね。
と僕が言うと、セティファムは無言で頷いた。
メールや端末でのやり取りもできるけど、やはりこうやって直接会って会話することで、いろいろと伝わる事もあって。
互いに言葉に出さないけれども、そこにある確かな気持ち、というか、そういうものは互いに感じる事ができた。
遠くに行くと会えなくなるのは寂しいけど。
デシックルでなくて、ギュロスト(電車みたいなもの 町の間を結ぶ公共の乗り物)であれば2時間くらいの距離だし。
完全に会えなくなる訳でもないから。
でも、今のこの感じを忘れたくないな、とも思う。
だから今朝は他愛の無い話をしながら、久しぶりに二人で学校の前まで一緒に移動した。
今まで普通と思っていた事も、いろいろと変化してくると普通では無くなる事もあって。
ここ数日で、それをひしひしと感じてしまった。
だから普通に、前のようにあっさりと分かれて互いの学校に入って行く。
その後ろ姿を目に焼き付けて。
と言う事で、シェラットと会って朝から無駄に会話するのも、
「これもいつまで続くかわからないんだよな。」
なんてしみじみ思ってしまったりして。
「お前、なんかあったのか?」
とシェラに聞かれたりしてしまった。
「なあ、セティファムの好きなモノってなんだよ。」
と僕に聞いてくるが。好きなものって、
「リンゴの蒸したやつかな。」
「食べ物以外」
「セルト柄(セルトという植物の葉をモチーフにしたもの)のマフラー良く身につけてたね。」
「おまえ、今冬じゃないだろう。今あげるとしたら何が喜ぶかなってことだよ。」
「秋だから、マフラーでもいいんじゃないの?手編みして。」
「俺がそんなに器用か?もっと楽でいいものだよ。」
自分でそれくらい考えればいいのに。と思いつつも、そういえば、セティファムに以前自分が上げて喜ばれたものがあったなぁ。と思いだしてみて。
「髪留めでもやれば?」
と言ってみる。
僕があげたのは羽の形の髪留め。
以前グループワークのときに買い出し担当になったとき、ふたりで街を歩き回って必要なものを揃えて合流しようとした時、
セティファムが待ち合わせの場所にあるアクセサリーを扱うお店の前で何かをじっと見ている姿に遭遇した。
その見ていたものがシルバーとホワイトパールの色合いの羽の形をした髪留め。
値段もそう高くなかったので、「買えばいいのに」、と言ったら
「もう予算がないの」
ということを恥ずかしそうに言う。今日使える上限を超えてしまったということだった。
何に使ったの?と聞くと、先ほど買い出しのときに、自分用の小物とかもついでに買っていたらしく、「街にでるとついついまとめ買いしてしまうから。」と言って肩をすくめて決まり悪そうに笑う。
そういう表情を学校では見たことなかったので、ちょっと僕は見とれてしまった。
でも、あまりにも未練がありそうに見ていたので僕が代わりに買ってあげた、ということがあって。
それをあげたとき、とても嬉しそうな笑顔を向けてくれたから。
そんなことを思い出して
「髪留めはいいんじゃないかな。
セティファムは髪が長いので、何かとご飯食べる時、作業する時は髪の毛を何かでまとめて居るから、似合いそうなの送れば喜ぶんじゃないの。」
と言う話もして。
シェラットも、それなら予算内だと思ったのか、一人納得していた。
「でも、どこで渡すんだ?」
と僕が聞くと
「それは、宿泊研修の時に決まっているじゃないか。宇宙港のあるフェリュラにはお店もあるし。買い物も時間も作ったし。その時にさりげなく買ってあげるんだよ。」
と言う事。
それで、早速端末でそういうものが売ってありそうなところをチェックして、今回の研修での自由行動のルートに入れこもうと言う事らしい。
頑張るものだ。
今日も一日、宿泊研修の内容を詰める感じなので、朝からグループに分かれての行動になる。
今月末にはグループ討議の話を詰めないといけないけど、その前にある宿泊研修でのやり取りで、今週は終わってしまいそうだ。
明後日から2泊、宿泊研修になるので、その行動予定を今日中に詰めておかないといけない。
今回の見学は、一日目は穀物地帯から抜けだして、都市に隣接する宇宙港へと向かう。
宇宙人の滞在地などを見学後、宇宙とのやり取りの流れを見せてもらって交流会などもあるみたいだった。
そして次の日が自由行動。
宇宙港のどの部分をグループで探索するか、というのを僕らは決めないといけない。
いろいろとルートは決まっていて、それを選択して行く感じなのだけど。
そのルートだけで100パターンくらいあって。
それはそれで迷う。
「どうする。美味いもの食べられるのにする?」
「いや、やっぱり惑星間をいくロケットを見ないでどうするよ。」
「アシュトル星からの人達の町にも行けるんだって。」
「どうせならプレアデスの方に行かないか?」
「だって。あそこは一般人立ち入り禁止だろう?」
「ほら、ここから入れるようなルートがあるわよ。」
「いや、これはただ通り過ぎるだけだろう。ほら、立体図見てみたらわかるさ。」
とか端末にうつる画面をみんなで弾きながらやり取りを行っていく。
こう言う場合は、机の上が巨大な画面になるので、そこに皆の情報を映し出して、それをそれぞれの端末で操作してやり取りする感じになっている。
![](http://pub.ne.jp/marunohi/image/user/1369122395.jpg)
「アレットはどこ行きたいの?」
とサラッティが聞いてきたので
「そうだな、宇宙船が発信するところが見たいかな。」
と言って、宇宙港の展望所を指し示す。
「私もそれに賛成。他の人は?」
とサラッティが聞くと、皆そこに行くのは賛成と言う事で。
ルートが「宇宙港」、「ヒューマノイド型宇宙人のいる街でのショッピング」、「宇宙船博物館の見学」とそう言う感じになった。
その後、宿泊所に直接移動する事になっている。
それぞれの端末に発信器もあるので、どこに誰が居るのかは先生達も一目了然だし。
都市の集中コントロール室からは僕らのいる場所、これから向かう場所まですべてチェックしてあるらしいので、行方不明になったり、迷ったりする事もない。
とはいえ、多少迷っても誰も助けには来てくれないけどね。
それくらい自分でなんとかしないといけないようだし。
今日はそう言う感じで、宿泊研修の内容を決めた感じで終わって。
そして帰る時間。
「一緒に帰ろうよ、アレット」
とサラッティに捕まってしまったので。一緒に帰る事になった。
「アレットは、なんで私に歌作ってくれる気になったの?それまで断っていたのに。」
と聞かれて。
「最近、こうやって普通にしているのもいつまで続くのかな、と思ったら。歌を作る事も、僕がもしも居なくなった時の記憶くらいになるかな、なんて思って。」
と言うと、サラッティが急に心配したように
「どこかに行くの?」
と聞いてきたので、僕は急いで否定して
「そんな気分になったんだよ。季節も秋だし。」
少しホッとした様子で、サラッティはふと歌を口ずさみ始めた。
秋の風に乗って、周りでざわめく金色の畑の音も歌にピッタリと合っていた。
その歌が終わるまで、僕も静かに聞いていた。
「良い歌だね」
終わってから僕が言うと、ちょっと目を閉じて、サラッティは歌の余韻を感じてから。
「これ、私も気に入っている歌。」
でも誰からもらった、と言うのは言わない。
これは、僕にこれ以上の歌を作れと言うプレッシャーかな。
なんとなく、夕日の傾く空を眺めてしまった。
「アレットは、同じ学年で歌を作るのは私が初めて?」
サラッティが聞いてきたので、反射的に
「同時進行でもう一人作っているけど。」
と僕が答えると、急に表情が険しくなった。
え?なんかマズイ事言ったかな。
「セティファム?」
サラッティが聞いてきたので、そうだよ、と答えると。
キッと睨むように僕を見て。
「なんで?」
その迫力に少したじろぎながら。
「頼まれたから。」
「アレットは、頼まれたらそうやってほいほい歌作るの?」
「いいや、ちゃんと相手は選ぶよ。」
「その基準は何?」
と聞かれて、うーむ、と考えてしまった。
「ある程度の好意がないと作らない・・かな。」
となんとか答えると、
「ある程度の好意・・・・・。」
とサラッティがつぶやいて、そして大きく息を吐いた。
「そうね、アレットはそういう人だものね。」
とつぶやいた後
「じゃあ、どっちのほうが好意の量が多いの?」
と聞いてきた。
それは測れるもんじゃないし。
そもそも、将来は一人の男女だけで繋がる訳でもないんだから、なんで今からそういう相手と比べるような事するんだろうか。
と思うのだけど。
「両方とも同じくらい、って感じかな。」
と言うと、
サラッティは
「どこがどう同じくらいか教えて。」
と必要に食い下がる。
結局、そのあたりの話で集落の入り口まで問い詰められたが。
「僕には判断できないから、歌で判断して。」
と言って逃げてきた。
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