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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶 <終末期17>

2013-03-28 08:08:41 | 『日常』




アレスはあの時以来、粒子技術の復活に没頭するようになった。
すべて自分が導いてしまった事。

醜い姿になり、そのまま苦しんで死んでいった。技術神官達。
そして、自分の最愛の人を死へと導いた事。
友人が去り、ひとり残された孤独。

失った者を嘆き悲しむ時間があれば、それを無駄にしないようにしなければいけない。

今回の事は、それはすべて、自分の技術の無さにより導かれた事。ならば、自分は完ぺきにすべてを理解し、完全に結果を出さないといけない。

それからは完全にシェズと組んで動くようになっていた。
シェズの行う世界の変化を、自分が粒子を復活させることで実現して。
そして、理想の世界を形作る。
フェールのような子供達を生み出さない社会。
人々が安定して豊かでいられる社会を目指して。

粒子を使う際に、シルバーコートと呼ばれる粒子からの影響を受けない素材が存在する事を発見した。
これらは新しいフラワーズ達の働きによるものであった。
新しいフラワーズは、シェズの考え方に賛同しているメンバーなので。
どのような要求にもこたえてくれて、技術神官だけの時よりも、情報のダウンロード率が明らかに高かった。

これは、人と意識のつながりを持ちたいとする意識がそれを促進し、シェズのためになるなら自分の身も犠牲にするくらいの、そういう気持ちで動くので結果はいつもついてきていた。粒子とは、人の意識の方向性を定めると、それに対して強力に働く事が判明してくる。

そうなると、粒子を発展させようという意識の有る者、シェズの理想を共に実現したいと思う者達が集まり、さらにその技術は磨きをかけられていった。

粒子技術を動かす人々は、すべて共通の目標に動く、1つの意識集団となりつつあった。

それは1つの方向性を向いている時は良いのだが、その意識集団に入れない、もしくはその意識集団とは違う価値観を持つもの達を排除する形となっていった。

シェズとそしてそれに忠実な人々。

「シェズ・アームと新たなる26の存在達。」

そんなふうに世間では言われていた。そして、それに期待する人々の声もだんだんと大きくなっていく。

その「新たなる26の存在」と呼ばれるシェズの意識に忠実なメンバーは、粒子が保管されている場所など、現場に入る人々はそのシルバーコートを着る事で粒子の影響を受けることなく働く事ができた。

それにより、粒子の拡大した使用も可能となり。
以前使っていた部屋よりも広い空間を粒子で満たして、そこであらゆる実験をすることが可能となった。

バンダナを使って、力粒子に作用してモノを動かしたり。
情報粒子からの情報を、ひたすらダウンロードしてみたり。

アレスは、シェズと粒子について連絡を取り合う事がさらに多くなってきていた。
そこで交わされる言葉には信頼は存在しない事も多いが。互いが互いを利用しようと考えているところでバランスが取れていて。
双方に益のある話が常にされるようになってきていた。

今日もアレスとシェズは昼食を共にし、そこで粒子技術をどのあたりから公表していくか、そういう打ち合わせをしていた。
それが終わるころ、シェズが
「そういえば、君の友人は今どこにいるのかな?」
とアレスに聞く。これはカズールの事であったが。
アレスは窓から遠くを見て。

「あいつは逃げたんです。あの惨劇を見て。だから、もう戻ってこないでしょう。」
と少し寂しげに言う。
シェズは
「そうか、有能な人材は一人でも欲しいところだが。本人がそれを望まないなら仕方ない。
今度アレスの欲している人材がいれば、すぐにそちらを用意することにしよう。」
とシェズは言う。
「では、お言葉に甘えて。」
アレスは自分の右腕になるような人材が欲しいとシェズに言う。

それから数日して。
シェズが連れてきたのは、30代前半の女性。
「君の秘書だよ。仕事に集中できるように、それ以外の部分をサポートしてくれる人物だ。」
とシェズの秘書達の中から選ばれている人材を連れて来てくれた。
秘書はシェズのあらゆる活動に精通していてい、すべての公式文章をしつらえたりするのも得意であった。

今回は、その中の特に優秀な人物をアレスの秘書としてこの計画に参加させている。
これだけでも、シェズの今回の仕事にかける意気込みも違うというものだ。

その秘書の名前はロールン。
ロールンは頭の回転が良く、アレスの不足している部分をすぐに見つけ出し、そこをサポートするように働きだした。
さすが、シェズが勧めてきた人物だ。

とアレスは感心し、完全に仕事を任せるようになっていた。
アレスは現場に主に入るようになり、神官や軍、そして「新たなる26の存在」達と共に粒子技術の復活に力を注ぐ。

シェズが表に立ち、粒子についての話を常に国中に発信していて。
得てきた情報を小出しにして国民の関心を引き続けた。

しかし、小出しにしているということは、まだまだ実用化には至らないということであって。
アレス達はさらに実際に使える技術までに内容を詰めるべく、努力をしていた。

シェズとの会議のあと、疲れた顔で神殿にある自分の部屋に戻ると、ロールンがお茶を持ってきてくれた。
秘書室はすぐ入り口にあるので、アレスの顔色等もちゃんと見ていたのだろう。
疲れを取ってリラックスするハーブのお茶になっている。

この香りは、フェールが入れてくれていたものと同じだった。
それに少し驚いた表情をすると、ロールンが
「お口に合いませんでした?」
と心配して聞いてくる、
「いや、少し意外なところでこのお茶がでてきたから驚いただけ。このお茶は好きなんだよ。」

「そうですか、良かったです。」
ぱっと笑う笑顔は、今まで見たことが無かったので、つい見とれてしまった。
つやのある濃い色の髪、髪の色で身分が決まる訳ではないが、
「ロールンはどこの出身?」
とアレスが聞くと、意外な質問に少し驚きつつも、
「私は西の町にある労働者階級の生まれです。このお茶も、私の生まれた近くでは疲れを取るお茶として良く飲まれているんです。」
そうか、フェールと同じ地区の生まれか。

どうして今ここにいるのか、そう言う話はあえてしなかった。
労働者階級の、それも美しい女性が支配階級の地域に居る事は、たいてい何らかの理由がある事が多いからだ。

ロールンを見ていると、アレスは今まで忘れていたフェールの笑顔を思い出していた。
目の前にいるロールンは、ショートカットの髪で、顔つきももう少しシャープな印象なので。フェールとまったく似ていないのに。
なぜかフェールの姿がかぶさっていく。

こんなふうに、思い出に捕らわれるとは、俺らしくもない。

そう心に呟いて苦笑する。
「いや、ありがとう。このお茶のおかげで少しリフレッシュできたよ。またよろしくお願いする。」
そうアレスが言うと、ロールンはまた笑顔になって、
「ありがとうございます。」
と言って、表の秘書室へと戻っていった。

「俺も疲れてきたのか。」
そう呟いて、アレスは窓の外を見る。
カズールは今どうしているのだろうか。
窓の外にその姿が見える訳ではないが。

そこに広がるのは支配階級と、水路を隔ててその向こうに広がる労働者階級の町。
いったい、いつになったら粒子技術を実現化して、この世界を変える事ができるのだろうか。

この技術が復活して、果たして本当に世界は変化するのか?

アレスは頭を振った。
いや、そのような事を考えている間に、もっと現実的な動きをせねば。
デスクに戻り、置いてあるティーカップを口元に運ぶ。

懐かしい香りが広がり、ほんの一時、3人で過ごした、あの頃の記憶が蘇った。





フルカは農園で働いていた。

すでに過去の話になってしまった、「反体制派による粒子実験施設の襲撃事件」からもうすぐ一年が経とうとしている。
それは表向きの話であって、実際は粒子の暴走による事故であったのだが。

あの後、そこにいた現場にいたグリーンのプレートを身につけていなかったフラワーズ達は病院に入れられ、そして隔離されるかのように施設へと送り込まれていった。
精神的に病んだ体をいやすため。療養のため、と表向きはなっているが、
実際は情報が外に漏れないようにしているだけであった。
親兄弟との面会も制限され。

その施設では療養の一環として、農作物を育てる農園を経営している。
フルカはメンバーのなかでも立ち直りが早い方であったので、今は外で働く事をしているが。まだメンバーの中には精神的に日常生活に戻れないほどのダメージを受けている者もいる。

今年なった果物などを収穫していると、あの頃のことが夢のように思える事もあった。
もう、自分は外の世界へは戻れない。

そう考えると、悲しくもあったが。あのような姿で死んでいった仲間達に比べれば、まだ生きているだけでも喜ばないと行けない。
でも、あの時自分があのようになっていたかもしれないと思うと。未だに悪夢にうなされる事もある。

そういう心をいやすには、農園というのは本当にいところなのかもしれない。
額に浮かぶ汗を麻で出来た服の袖で拭う。姿はすっかり労働者階級の娘と変わらない様子であったが。

「おおい、フルカ、ちょっとこっち手伝ってくれないか?」
丘の上で果樹園に鳥避け用の網を取り付ける作業をしていると、一人の作業服をきた男性が声をかけてきた。
白髪の交じる短い髪の毛なのに、日に焼けた精悍な表情をしていて。どこか少年のような若々しい目をしている
「分かりました。」
一緒に作業していた女性にあとの作業を頼んでフルカは丘を降りていく。
その農園で働いているのは過去には一流の技術者であったり、何処かの中枢に居た人物達ばかりであり、この人物はジェズの前に議長をやっていた、アテレスという。
政治的な汚職事件で、議長の任期が終わってすぐにこの農園へと連れてこられたという。
シェズ達のやり方に対しての反対の意図を常に言っていたのでここに回されたのだとフルカは聞いていた。今は農園でのまとめ役的な存在。
フルカが丘の麓まで来ると、アテレスがファイルを開きながら、
「A2にある作物をB2ブロックまで運ぶのだが、ギャロットの運転出来るものがちょっと居なくてな。フルカは運転できたろう?」
「ああ、僕はたいていの乗り物は運転出来る。」
「それを聞いて安心した。じゃあ、ちょっと来てくれ。」

そう言って二人はギャロットの場所へと移動していく。
ここのギャロットは電池で動くものであるが、走行距離が短いので農園の外に出るのには使えない。

いわゆる、ここは『農園』の姿をした。政治犯の収容所のようなものなのだが。
現に、ある一定の場所には「野生動物を防ぐ」という名目で電気の柵が張り巡らされ。
その外を軍のパトロールが何度も巡回している。

常識のある人が見れば、この農園がただの普通の場所でないことは理解されるだろう。

「このギャロットは、かなり古い型だな。ちょっと乗ったことないくらいだ。」
「だから、運転に慣れている人物じゃないと動かせない。私みたいに事務仕事しかしてない人間には難しい代物だよ。」
フルカは運転席のスイッチやいろいろなところの蓋を開けては中を確認して。
一人頷いて。
「よし、だいたいわかった。大丈夫動かせます。」
「そうか、頼んだ、まずはA2まで行こう。」

ギャロットは農園の中をゆっくりと移動していく。

果樹園でフルカは主にかんきつ類の管理を手伝っていた。
果樹園を管理して居るのは、50代くらいの優しい笑顔の女性で、名前はエルト。フルカはこの果樹園に来るとホッとするので、仕事を入れるときはまずここから先に希望を出して行く。
仕事の流れ、手順はここを管理する役人的な人物が存在していて。それが大雑把に決めていき、あとは内部での責任者同士で話し合って決める事が多い。
全体をまとめる責任者としてアテレスがいて、各畑や農地の管理、人の管理はエルトのような人々がいて。

管理する役人以外、ほとんどが自主的に運営されている、ある意味隔離された村のような存在であった。
中では400人くらいの人々が生活している。

住居は最低限。服装も労働者階級と同じものを着て、食事は農園で収穫したものを自給自足する形。
その農作物を外部へと販売した売上は、一部だけが農場の生産者へと入り、大部分は役人の懐に入っていた。
最初は文明の気配のないこの状況にしばし呆然としたが。慣れてくると人間の本来の生き方とは、こういうものではないのか。
と思えるようになり、フルカも積極的に農場の運営に関わるようになっていた。
なので、アテレスにも顔を覚えられていて、何かと機械関係のことがあると呼び出されていたのだった。

コンテナにある荷物を積んで、そして目的地に運び入れる。
「じゃあ、この書類に確認してくれ。」
アテレスが現場の責任者にペンとファイルを手渡したとき、手が滑ったらしく書類がいくつがばらまかれてしまった。

「あ、僕が拾っておきますからそのままいいですよ。」
そう言ってフルカは書類を集めていくと、そこに一枚の写真があることに気付いた。
それは若い女性の姿が映ったもの。
どこかの学校での卒業式のようで、頭には卒業生がかぶる長い帽子をかぶっている。
顔の作りは可愛らしい感じで、フルカよりもよほど女のこっぽい姿で。
これ、だれだろう?つい手にとって見ていると、

「あ、それは娘だよ。」
後ろからアテレスが声をかけてきた。
驚いてフルカが振り向くと、ニコニコと笑いながらアテレスはその写真を手にとる。
「この間の面会の時に、学校卒業したからって、写真をもらってね。ついついこのファイルにはさみこんだままにしてしまっていた。」
と言いながらわらっている。
「仕事の合間に、たまに見ては癒されていたんじゃないですか?」
「ははは。ま、親にとっては子は子だからな。学校卒業して社会にでても、娘は娘だ。いつみても、娘は私にとっては宝物だからな。」
そう言って目を細める。
その姿を見て、フルカは自分の両親のことを考えてしまった。
自分が生きていることを知っての両親の喜びようを思い出す。
そうだな、生きているあいだにはここから出て、親孝行したいなぁ。
アテレスの姿をみて、そんなことを考えてしまった。




その後フルカは柑橘類の収穫を行い、作業が一段落してからそこにある岩場の上に登った。
青く広がる空に、白い雲。
カズールと魚釣りをしていた、あの頃が思い出されてきた。
そういえば、カズールはどうしているのだろうか。外部との連絡はほぼ無いので、情報が得られないのだった。

「フルカ、そこにいるの?」
下からエルトが声をかけてきた。フルカが返事をして覗き込むと、エルトが誰か横に人を連れてきている。

「フルカにお客さんよ、降りてきたら。」
この場所に、この農園に客?両親はたまにしか来ないし。
そこで話す内容もすべて監視されているので、迂闊な事は言えないし。
それも、面接する場所でしか会う事はできない。
ということは、エルトの横にいる人物は農園の内部の人?

新しく入ってきた人かもしれないな。
と思いながら岩場を降りてエルトの前に立った。

そして、横に居る人物の顔を見て、言葉を失った。
驚き過ぎて。

「フルカ、元気そうだな。すっかり農作業が板についているみたいじゃないか。」
そこに居て、笑っているのはカズールだった。

言葉が出てこないフルカの様子を見て、エルトはにこにこと笑っている。
「な・・・なんでここに?」
やっと言えたのはこれくらい。
頭の中では、もっと気の効いた事「カズールもついにここに来たのか!」とか言いたいところであったり、
ただ駆け寄って、思いっきり抱きつきたい衝動もあった。

その葛藤が、この一言に込められていた。




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