インフラの「リストラ」を始めている自治体があります。札幌市です。しかも、自治体側から撤去に向けた話を進めていくという先進的な取り組みです。これまでは、住民など利用者側から声が上がらなければ、インフラの廃止に踏み込むことは難しかったそうです。
リストラの対象となるのは、横断歩道橋です。2014年8月には、市の職員と住民などが議論する協議会において、撤去に対して賛成者が多数となる横断歩道橋が出てきました。自治体主導のインフラ整理は、着実に歩を進めています。 市は12年度に、横断歩道橋の撤去に向けた論点や考え方などを整理するために、有識者による「札幌市横断歩道橋のあり方検討委員会」を設置しました。 そして同委員会は13年3月、歩道橋を撤去するまでの手続きや、撤去候補を選定する際の考え方などを整理した提言書を作成。市長に提出していました。市が撤去候補を決める際に設けた最も大きな条件は、横断歩道橋の利用者が少ないこと。具体的な利用者数としては、午前7時から午後7時までの間の利用者数がおおむね100人未満、または児童の利用者数がおおむね20人未満が目安となるそうです。 とても良いアイデアだと思います。このほか、場所などに応じて二つの条件も加えました。
1.歩行者への安全性に問題が生じていること。支柱や階段が交差点部に存在するなどして、歩行者や車の運転者にとって死角を生み出しているようなケースです。
2.歩道空間を狭くしている施設です。横断歩道橋が存在することによって、歩道の有効幅員が狭くなり、通行自体が困難になっているような例が該当します。
こうした条件をもとに、市は14橋の横断歩道橋を撤去候補として掲げました。
市が管理する横断歩道橋は、13年12月時点で48橋存在する。これらの多くは、交通事故が多発していた1960年代後半から70年代前半にかけて建設されました。同時期に建設され、完成から約40年を経た横断歩道橋は、36橋に及んでいます。当時、横断歩道橋を建設する大きな目的は、交通事故の防止でした。市内でも信号機が設置されていない箇所は珍しくなく、小中学生が通学時に事故に遭わないようにするために、市は通学路に横断歩道橋を整備していきました。ところが、少子高齢化社会の到来が、横断歩道橋の存在意義を揺るがしていきました。学校の統廃合などによって、施設自体が通学路ではなくなるなどしたために、既存の横断歩道橋では児童の利用者数が極端に少ない事例が存在しています。もはや、横断歩道橋の存在意義がありません。
市が11年9月に、市内の横断歩道橋48橋の通行量を調査した結果、午前7時から午後7時までの12時間に利用した児童数が10人を割り込んだ横断歩道橋は、全体の4分の1に当たる12橋に達していました。これら12橋のうちの半分は、指定を受けた通学路となっていなかったり、通学路上に存在していなかったりしていました。高齢者などにとっても、横断歩道橋は使いやすい施設とは言い難い。バリアフリーとは縁遠い、長い階段を持つ施設だからです。横断歩道橋を渡る手間を惜しみ、道路を乱横断してしまう人は増加傾向にあります。階段を上り下りする苦労と時間がめんどくさいからです。
04年9月と11年9月に市内の横断歩道橋48橋で実施した通行量調査を比べたところ、横断歩道橋がある場所で横断する人の数は191人増えていました。横断歩道橋自体の利用者が、4万5725人から2万2104人と半減しているにもかかわらずです。さらに、車を運転する人にとっても、横断歩道橋は安全を妨げている事例があることが判明しました。交差点などに歩道橋があると、橋脚や階段の存在が死角となって、通行者などがよく見えなくなるケースがあったからです。
歩道橋の存廃を考えなければならない理由は、利用者の変化だけではありません。施設の老朽化も大きく影響しています。既に述べたとおり、市内の歩道橋では、完成から40年を超える施設が大半を占めます。こうした施設では今後、更新をはじめ、老朽化に伴う大掛かりな対応が必要になってきます。利用ニーズが低い場所で横断歩道橋を更新したり大規模修繕したりしても、無駄な投資になりかねません。税金の無駄遣いです。
自治体の財政難が続く状況下では、日常の維持管理費の負担も無視できない。市内の歩道橋では、冬でも利用できるようロードヒーティング設備を配しています。当然、冬の利用では電気代を要します。さらに利用を続けるのであれば、設備自体を15年程度の周期で更新していかなければなりません。また、横断歩道橋は20年に1回の頻度で塗装の塗り替え(メンテナンス費用)を要します。こうした施設の維持管理に対して、市は横断歩道橋1橋当たり、1年間に約180万円を投じているのが現状です。 一方、撤去工事であれば1橋当たり約1000万円を要します。5年程度の維持管理費があれば、撤去は可能なのです。これでは、利用者が少なく、便益の小さい施設は撤去した方が、メリットが大きくなります。
こうした状況を踏まえ、市は前述したような撤去に向けた手続きやその条件などを検討してきた。
撤去に向けた手続きは、以下のようにして進める。まずは、既に述べたような三つの観点をもとに、市が撤去候補となる横断歩道橋を選定します。この撤去候補については、横断歩道橋の利用実態調査を5年ごとに実施して、見直しを図ります。撤去候補を決めた市は、地元の住民などに横断歩道橋の撤去を提案します。この提案は、町内会長やPTAなどが参加する意見交換会において示します。意見交換会で撤去の提案が認められると、住民代表や市の職員で構成する協議会を設ける手はずになります。協議会において改めて撤去が認められれば、市側で代替の交通安全対策などを調整し、撤去が可能だと最終判断できた場合には撤去を実施します。南区内に位置する藻岩下横断歩道橋は、この流れのなかで、既に協議会が撤去を決める段階まで進んだそうです。市による提案から協議会まで進んだ横断歩道橋は、ほかにも豊水横断歩道橋と菊水西町横断歩道橋があるそうです。
インフラの老朽化に伴う既存施設のダウンサイジングは、将来の維持管理を持続可能なものにしていくうえで欠かせない考え方だとおもいます。札幌市の先例は、数多くの自治体にとっても参考になると思います。他の全国の自治体も、実施すべきです。